【感想・ネタバレ】哲学者マクルーハン 知の抗争史としてのメディア論のレビュー

あらすじ

「メディアはメッセージ」「グローバル・ヴィレッジ」「空間と時間の消滅」などインパクトの強い言葉で1960年代を席巻したマクルーハン。「文明批評家」「未来学者」「メディア社会学者」「ポップカルチャーの哲学者」「インターネット時代の預言者」「コミュニケーション理論家」など、さまざまな呼称で輪郭づけられたトロント大学英文学者マーシャル・マクルーハンの正体と思想の中身は、本当のところ何だったのか。エリザベス朝文学を出発点とする個人研究史は、メタファーが持つ人間的思考の本質の探究へ、さらに狭いアカデミズム世界を超え出て技術・社会・文化の問題へと射程を広げてゆく。そこで焦点化されてくるのは人間の思考・行為を方向づけている「メディア」の偉力であった。メディアとは単なる媒体ではない。印刷・電信・電話・テレビはもちろん、衣服も住宅も貨幣も、道具も兵器も、あらゆる人工物がメディアであってそれは人間の拡張をもたらすこと、また究極のメディアは言語であってそれは人間を整形し、知のかたちを変形しうることを見通すに到ったのである。古今東西の事象に精通し博覧強記をもって知られたマクルーハン。また「論」を立てること、論理的文章を練り上げることを忌避したマクルーハン。アルファベットの発明がやがて文字・概念重視、視覚優位の西洋思想を築き上げていったことへの警鐘、そのアンチテーゼとしての聴触覚重視「口誦」文化復権への主張。難解と言われる著書と研究の射程を見抜き、計り知れない現代的意味の重さを読み解く。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

現今でもマクルーハン自身の著作は手近な存在とはなっておらず、竹内健一が日本への導入に成功したとされる当時の状況は如何、と思っていたので
本著で述べられるマクルーハン受容の変遷は時代的考証として大変参考になり、そして彼自身の哲学なるものがどのような形を取り、それがメディアを通じ我々の思考の一部に根付いているかという疑問への解答が垣間見えた気がする。

マクルーハン哲学の解釈として、多様な思想家や話題を拾う形式は、文字社会への反発をどうにか耐え忍ごうとした彼の系譜なのかと思ったりした。

再読。

0
2024年03月10日

Posted by ブクログ

分析と総合をめぐる知の抗争史がマクルーハンを通して、鮮やかに描かれる。視覚優位な活字型人間社会をどう乗り越えるのか、マクルーハンに学ぶべきところは多い。最近読んだ『芸術人類学講義』とも響き合う内容だった。

目からうろこだったのは、新しいメディアは当初古いメディアを内包し、そのうち、新しいメディアにメッセージ(コンテンツ)が飲み込まれてしまうという趣旨の記述とメタファーこそ本来の人間の知覚で、シンプルな表現はその後に生まれたとの指摘(吉本隆明『言葉という思想』)だった。

視覚・聴覚優位なネット上での体験から、五感を通した人間性回復をどう図るかが、個人的には課題だと思う。

0
2020年06月14日

Posted by ブクログ

著者は、大学に籍を置く「専門」研究者ではないが、マクルーハンの遺著『メディアの法則』の訳者。

活字によって全面的に展開した視覚的=論理的=分析的な近代知に対して、触覚聴覚的=発見的=連結的なマクルーハンの方法知を対置する。

マクルーハンが多方面に影響を与え熱狂的に受け入れられた一方で、専門家に評判が悪かったことから始まり、
文学研究からスタートしたキャリアや、ドラッカーなどとのメディア論発表前夜の個人的な知的交流エピソード、
そして、彼が描いたメディア論の歴史まで、
視覚的知と触覚聴覚的知との「知の抗争」という枠組みによって描き出している。

マクルーハン解釈として妥当かどうかは門外漢なのでわからないが、「知の抗争」という軸からマクルーハンを描き切っているので、入門書としてはオススメできるのではないかと思う。

0
2020年02月17日

Posted by ブクログ

マクルーハンの理論の理解というよりも、マクルーハンの伝記である。マクルーハンがどのような経歴で理論を構築したかについて説明している。後半の部分は著者の考えで、だいぶマクルーハンから離れているので、前半だけでいいかもしれない。マクルーハンを読むためにはKJ法で発想法で様々の考えをどんどん入れているということであればより理解ができる。

0
2020年03月18日

「学術・語学」ランキング