【感想・ネタバレ】ラヴクラフトの怪物たち 下のレビュー

\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

 ラヴクラフティアン・フィクション――それは、「クトゥルー神話」も内包する、ラヴクラフトが創造した世界観に基づく創作品であり、かつ創作活動全般を指す造語です。本書は2014年に米国で刊行された、ラヴクラフティアン・フィクション・アンソロジーの邦訳です。創造者であるラヴクラフトの作風とも啓蒙者であるダーレスの作風とも異なる、いずれも個性豊かな新時代の作品の数々。下巻はエルヴィス・プレスリーが蘇ったミイラ男と対決する奇作『ババ・ホ・テップ』などで知られるランズデールの『血の色の影』など10作を収録。

 以下、なるべくネタバレなしの各話感想。
---------------------------------------------------------
『愚宗門』(トマス・リゴッティ/1988)
 私は常ならざるものが存在する、唯一者の魂の領域の入口を求めて、ある鄙びた町を訪れて部屋を借りる。ある日の午後遅く、ノックの音でドアを開けると、そこには男が立っていた。部屋を間違えたと言って男はすぐに去るが、その夜、私は奇妙な夢を見ることに――。
(悪夢を追い求めた人物が悪夢そのものに変質してしまうまでを著した作品。抽象的な比喩で彩ることで、正に悪夢めいた内容に仕上がっている。)

『禁じられた愛に私たちは啼き、吠える』(ケイトリン・R・キアナン/2012)
 その昔、港町インスマスに、エルベリスという娘がいました。眠りにつく頃、窓を引っ掻いたり叩いたりする音が気になり、窓に近づいてみることに。そこには、地の底より這い出てきた食屍鬼が――。
(クトゥルー神話版異類婚姻譚な御伽噺。はてさて、2人の行き着く先はグッドエンドかバッドエンドか。)

『塩の壺』(ジェマ・ファイルズ/2014)
 床下で見つけた壺。壺には蜘蛛の糸のように細い文字で、遠い先祖の読めない名を書いたラベルが貼られていて――。
(ラヴクラフトに捧げられた詩の一。どの作品を下敷きにしているかは、ファンならすぐに判るだろう。)

『昏い世界を極から極へ』(ハワード・ウォルドロップ&スティーヴン・アトリー/1977)
 物語は、科学者によって造られた人造人間が、自死のために北極海に姿を消したところから始まる。死ねないことを嘆きつつ、名なしの怪物は北極を彷徨ううちに知らず地下世界に迷い込み、大冒険を繰り広げることに――。
(名作『フランケンシュタイン』をベースに『地底旅行』や『白鯨』など19世紀の名作を織り交ぜながら、人造人間が虚々実々の冒険を繰り広げるアドベンチャー。ラヴクラフト作品からのゲストは何か、それをここで明らかにするのは野暮だろう。)

『クロスロード・モーテルにて』(スティーヴ・ラスニック・テム/2012)
 ウォーカーは家族とともに、クロスロード・モーテルに留まり続けている。モーテルの宿泊客は、しばらくは彼らだけだったが、週末には満室になった。さらに人々が集まり、駐車場や空き地で寝泊まりするまでに。はたして、何が彼らを引き寄せたのか――。
(血の支配を軸に、悍ましい未来へ自ら足を進める者たちを著した短編。その結末は抽象的ながらも、救いのない未来を予感させる。)

『また語りあうために』(カール・エドワード・ワグナー/1995)
 ロンドンのパブで歓談する男たち。ホルステンがジョッキを傾けた時、ジョッキ越しに見えたのは黄色いローブをまとった人影だった――。
(チェンバーズの『黄衣の王』をベースに、契約に囚われた男の様を書いた掌編。けっして語られない行間にはどのような物語があるのか。)

『血の色の影』(ジョー・R・ランズデール/2011)
 もぐりで探偵業をしているリチャードは、元妻のアルマから、弟であるトゥーティを連れて帰るよう頼まれる。ミュージシャンである彼から送られてきたレコードを再生すると、全身の毛が逆立つ、悍ましい感覚を呼び起こす曲が流れる。嫌な予感に満たされながらも、リチャードはダラスに向かうのだった――。
(脚本も手掛ける人気作家ならではの、読み応えのあるハードボイルド・タッチの良作。)

『語り得ぬものについて語るとき我々の語ること』(ニック・ママタス/2009)
 あらゆるものが変わり始めた世界。ジェイス、メリッサ、ステファンの三人は洞窟の入り口にある石をテーブル代わりに酒を呑んでいた。ジェイスはご講説を述べ、メリッサは酒を傾け、ステファンはメリッサに言い寄る。同時に、終わりは徐々に、確実に近づいてくる――。
(曖昧かつ婉曲的に、しかし確実に始まった神話生物の出現による世界の変化を著した短編。)

『腸卜(ちょうぼく)』(ジェマ・ファイルズ/2014)
 絞首台の下に来て 殺された人を開きます 本を繙くかのように――
(食屍鬼を題材にした、ラヴクラフトに捧げられた詩の一。原題である『Haruspicy』はラテン語で、生け贄の犠牲者の腸[はらわた]を使った占いのこと。なので「腸卜」という邦題なのだろう。)

『牙の子ら』(ジョン・ランガン/2014)
 優しくも厳しい祖父の秘密。それは地下室にある冷凍庫の中に。そう思った孫の姉弟は、祖父が不在の間に冷凍庫を開ける。はたしてその中には――。
(ラヴクラフトの『無名都市/廃都』をベースに、祖父の悍ましい秘密と過去に家族間で起きた事件の真相を絡めたサスペンスホラー。好奇心と探究心は人を幸福にも不幸にもする。)

0
2023年08月22日

「小説」ランキング