【感想・ネタバレ】決定版 銀行デジタル革命―現金消滅で金融はどう変わるかのレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

日銀政策委員を務めた著者による、今後の”通貨”についての分析。現金、仮想通貨、デジタル通貨(銀行発行、中銀発行)の中で、日本においては現金に軍配を挙げる。”地に足のついた”分析であるし、納得感も高いが、他の論者、例えば野口悠紀雄氏の最近の著作に比べると、金融機関以外をも視野にいれた分析(あるいは期待の吐露)には欠けて、面白みは無い。以下、本書の要約なので、ご注意。

著者の試算によれば、日本における現金の流通にかかるコストは5兆円以上に上り、ATM手数料や日銀国庫納付金の減少といった形で直接、間接に国民の負担となっている。また、現金はマネーロンダリングにも活用されやすく、海外学者を中心に高額紙幣廃止論も唱えられる。

現金に代わる選択肢としてまず思い浮かぶのは、昨年ブームとなった、ビットコインを筆頭とする仮想通貨。しかし、仮想通貨については①取引発生からブロックチェーン記録まで、決済に時間がかかる、②価格変動が激しすぎ、決済手段として受け入れ難い、といった難点もあり、決済手段としては機能しない(なお、著者は、ビットコインの妥当値として40万円程度と試算)。

次に、MUFGやみずほFGが構想する銀行発行型デジタル通貨。コスト削減、ビッグデータ利活用による収益を狙いとしたもので、価値変動を抑える仕組みが予定されているが、日本人のITリテラシーの低さ、インフラ整備コストを民間銀行が負担しきれるか、銀行の流動性リスク拡大の恐れ、等の問題があり、早期に現金を代替する見込みは無い。

代替手段として最有力なのは中銀発行型デジタル通貨。スウェーデンの中銀、リクスバンクは現金と平行してデジタル通貨、eクローナを発行、同国の現金流通額は対名目GDP比1.8%(2015年)にまで減少している。アメリカのFRBもデジタル通貨発行を検討、と報道されている。中銀発行型デジタル通貨には、中銀の金利政策がより効果的となる可能性がある一方、個人の購買動向等が中銀≒国家に集中する超管理社会がもたらされる恐れがある。

日本において、決済手段としては現金が勝者であることは明らかであるが、現金の流通にかかるコスト削減、国際的なデジタル化の競争に劣後しないよう、政府と日銀が主導して通貨のデジタル化を進めて行くべき。

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2018年12月02日

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