【感想・ネタバレ】社会のレビュー

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Posted by ブクログ

本書は、私たちがよく知っている価値中立的な「社会 society」とは異なる、理念を伴った「社会的なもの the social」の概念がどのような意味を担ってきたか、そしてそれがどのように忘却されてきたかの系譜を掘り起こし、批判的検討を加えた上で現代に再生させることを目的とした著作となっています。

まず、第Ⅰ部では、「社会的なもの」が忘却されてきた系譜が掘り起こされ、それを実現するための「社会民主主義」の在り方はどのようなものであるべきかが問い直されていきます。
特に後者の論点に関しては、20c初頭のドイツで活動していたV・ベンヤミンとR・ルクセンブルクが参照され、詳細に論じられます。著者は最終的に、議会制を基軸としつつ議会外の大衆運動にも開かれた「議会制を超える議会制」の構想が、「社会的なもの」を実現するための手段として適当であると結論付けています。

続いて第Ⅱ部では、J-J・ルソーを紐解くことで「社会的なもの」の起源が手繰り寄せられ、18世紀の英・仏・独の文献を詳細に検討することで、それに続く「社会科学social science」の系譜が明らかにされていきます。
第1章のルソー読解において、まず著者は『人間不平等起源論』の「civilな社会」と『社会契約論』の「socialな社会」の差異を詳細に検討していきます。続いて、自然状態での不平等を社会契約によって平等化するルソーの狙いを明らかにし、彼にとっての自由(=比較の排除)との関連を示唆することで、その危険性と限界を指摘していきます。そして最後に、自由と平等のために「同一性」を要求するルソーに対峙する形で、「差異」を承認する「社会的なもの」の再生を模索しなければならないとして本章を締めくくっています。


以上のような内容の本書ですが、分析が緻密かつ論理的であり、その描き方に躍動感があるため、ある種の高揚感をもって読み進められます。また、その分析に用いられる諸々の理論は、諸々の事象を捉える手法として援用可能であり、大変参考になりました。

例えば、第Ⅰ部では、現代において「社会的なもの」が忘却されてきた背景を、著者はフロイトの精神分析とルーマンのシステム論を用いて説明します。
フロイトによれば、「忘却」とは「否定そのものの否定」によって生じるものとされ、これが本書では、「社会的なもの」の政治的な忘却が社会主義を否定しなければならない現実から逃避する社会主義者たち自身によって生み出されたものであるといった説明に用いられます。
一方、社会学者は価値中立的な「二次元の観察」を行うことで、貧窮民を観察し「社会的なもの」の必要性を説くような「一次元の観察」を必然的に「不可視化=忘却」してしまうといったルーマンの分析が、ここでは社会学による「社会的なもの」の忘却の文脈で援用されています。

個人的には、著者の主張そのものに賛同するというよりは、このような分析手法の多様性に関心を持って読み進めました。実際、ベンヤミンやルーマンに関心を持つことができたのは本書がきっかけです。とにかく熱意を持って書かれた著作ですので、読んだ後必ず何か得られるものがあるように思います。おすすめです。

「目まいのしそうな他人の近さから抜け出て、自分とは異なる生を肯定し、同時に他人と同じではない、いや同じになれない自分を肯定すること。それを不可能にするような同情を打ち殺さない限り、社会的なものは自己と他者の双方に対して、死を要求し続けることになるのである。(p136)」

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2012年08月11日

Posted by ブクログ

資本主義は、往々にして「私有」の拡大と見なされるが、マルクスによれば、事態は全く逆である。そうではなく、資本主義こそが「私有」をますます不可能にし生産様式をより「社会化」していくのである。しかし、それ以上に重要なのは、「私有」と「個人的所有」の区別である。マルクスもまた、ルソーが(自然状態から脱して)「平等」という理念を立ち上げるために承認した「私的所有」を否定しているわけではない。そうでなく、これを、各人が孤立した状態で手にする「私有」と、社会的な(個人では完結しない)生産過程並びに生産された富の再分配を土台とした「個人的所有」に切り分けた上で、前者を否定し、後者を肯定しているのであり、ルソーとともに「すべての人がいくらかのものをもつ」ことの重要性を認めている、いや強調しているのである。(p114)

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2017年10月21日

Posted by ブクログ

[ 内容 ]
今日の社会科学にとって重要な問いは、「社会とは何か」「それはいかにして可能か」という抽象的な問いではない。
ある歴史性をもって誕生し、この問い自身が不可視にしてしまう「社会的」という概念を問題化することである。
本書では、この概念の形成過程を辿り直し、福祉国家の現在を照射することから、「社会的なもの」の再編を試みる。

[ 目次 ]
1 社会的なものの現在(日本の戦後政治と社会的なもの;冷戦以後と社会的なもの;社会学と社会的なもの;社会民主主義)
2 社会的なものの系譜とその批判(ルソー;社会科学の誕生;批判と展望)
3 基本文献案内

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2010年07月14日

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