あらすじ
香芝涼子は今日も、閑古鳥の鳴く店でひとり店番をしている。二年前、店主の祖父が病で倒れた際、美術館の学芸員という職と恋人を捨て、実家の『藤屋質店』に戻ってきた。将来に漠然とした不安を感じつつ、看板猫を撫でていると、外国製の陶製人形を男子大学生が持ち込んでくる。男性二人組という質屋には珍しい客に当惑しつつも、品物を預かって貸し付けしたところ、後にそれが盗品だったと分かり……。人間国宝作の萩焼の写し、いわくありげな櫛とかんざし、未発表の藤田嗣治の絵画など、不思議な縁で質屋に持ち込まれた品々を巡る謎、揺れ動く涼子の思いを優美に描く連作ミステリ。
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Posted by ブクログ
そうと知っているせいか、ついつい北森さんの面影を探しながらの読書となった。
そんな読み方をしたせいか、どことなく似た空気を感じてしまう。なんだか懐かしく嬉しい。
骨董品というのは、人の手を渡ってきた分、様々な思いやドラマを抱えているのだろうな。
涼子も魅力的だし、その後の2人が気になるので、ぜひとも続編を!
Posted by ブクログ
祖父が経営する質屋に持ち込まれる数々の品物にまつわる謎解きを、元美術館の学芸員の涼子と祖父の健三郎が行う美術ミステリー。
陶製人形、いわくありげな櫛とかんざし、人間国宝作の萩焼の写し、ルソーの贋作に藤田嗣治の未発表絵画。
涼子は絵画、健三郎は焼き物などが得意らしい。話によって涼子視点になったり健三郎視点になったりする。
それぞれの品物に隠された持ち主の人生ドラマが温かったり切なかったり。
表紙のイメージと中身が違う。
作者さんは北森鴻さんの長年のパートナーで蓮丈那智シリーズを完結させた方なので、文体や涼子のキャラクターなど、何となく冬狐堂シリーズのような雰囲気を感じる。
健三郎パートはシリアスで渋い。涼子パートはサスペンスタッチだが元カレとのセンチメンタルもあって少し甘い。
陶製人形の話はアッサリしていたが、櫛とかんざしの話は昭和初期のようなドラマが隠されていた。
萩焼の話はよくある偏屈な師匠と健気な弟子という構図の裏にあるドラマだったが、ルソーの贋作話は冬狐堂のような深みと捻りが欲しかった。
最後の藤田嗣治作品は一番長いだけに話も良かった。藤田自身の人生が波乱続きだけにこんなひとときがあったとしたら…と妄想が膨らんだ。
涼子の早世した父親が残した絵画の話があったり元カレとの焼けぼっくいなどあれこれ詰め込めすぎかな。
涼子は父親の想いを受け取ったようだが、健三郎にとって息子、つまり涼子の父親の残した絵画に何を見るのだろう。そこも知りたかった。
どちらかと言えば健三郎を主人公に、冬狐堂のようなハードボイルドで読みたかった。これはあくまで個人的な好み。