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Posted by ブクログ
『天使のささやき』『甘い水』シリーズの平河寮つながりで前作にチラリと登場したらしい山下が主役。
高校時代、いつも山下の隣りにいた須和。線が細くて中性的ですごくきれいだと思っていた。外見とは裏腹に男前で理知的で、そんな須和を誰にも渡したくなくて、山下は寄ってくる女も男もすべて蹴散らすみたいにいつも傍から離れなかった。
須和の方でも、屈託のない山下が溢れんばかりに向けてくれる好意が幸せだった。複雑な家庭の事情も親の無関心も、山下が自分を大事にしてくれることで忘れられた。山下がいてくれるから、自分には価値があるのだと思えた。山下だけが生きる支えだった。
ふたりで夢中になって作った紙飛行機。改良に改良を重ねてふたりで教室の窓から飛ばした。ふたり一緒ならどこまでも飛べると信じていた。
お互いがお互いを想い合っているのはわかっていたのに、どうしてもその先には進めなかった。
同じ大学に行こうと言い出したのも、一緒に検察官を目指そうと言い出したのも山下だった。
そのために須和が有名国立大学を蹴っていたことを後になって知り、須和の人生を変えてしまったかもしれないと山下は恐れをなす。自分は司法試験の合格ラインには到底及ばない。須和が先に司法試験に合格した頃には、ふたりの距離はずいぶん開いてしまっていた。追いかけることなどもうできない。一緒に飛ぶことはできないと山下は思い知らされた。
自分が強引にここまで手を引いて来てしまったことに、急に怖じ気づいた山下は須和と距離を置いてしまう。罪悪感がさらにふたりの間に溝をつくる。
須和は検察官へ、山下は警視庁へ、それぞれ別々の道を歩んでからの、およそ10年振りに再会。
山下は昔の面影の欠片もないくたびれた表情の須和に愕然とする。高校時代のきらきらと眩しかった印象は見る影もない。
それでも懐かしさに、逢瀬を重ねるうちに、須和が昔と変わらず自分に想いを残していることを知る。
会う度に昔を取り戻していくようで、どんどんと輝きを増す須和に愛しさがこみ上げる。
高校時代どうしても越えることのできなかった一線を、大人になった今はいとも簡単に踏み越えてしまえるあっけなさ。
それでも、身体だけはさっさと差し出すくせに、山下を想ってくれていた大切な気持ちは胸の奥にしまい込んでしまったみたいな手応えのなさに、山下はもどかしさを感じる。須和の心を取り戻したい。どうしたら、また昔のように戻れるのか。どうすれば、また自分は信じてもらえるのか。
高校時代には手を伸ばしさえすれば簡単に手に入ったはずのものが、いまは果てしなく遠くなってしまった。
そこからの、山下のがむしゃらなまでの誠実さが、山下を想いながらも、どこか諦めきっている須和の切なさが、すごくすごくよかった。
ぶっちゃけ事件やらなんやらは、ふたりの関係にはあまり関係なかったように思う。強いて言えば、相手の都合に合わせて引っ越して転職します…みたいのが簡単にはできないってのが、検察官と刑事である必然性なのかもってのと、同僚を内偵したり、陰惨な外国人犯罪を日々目の当たりにしても、須和さえいてくれたら、自分を見失わないでいられるってとこぐらいだろうか。
繊細な見た目に似合わず須和が案外芯の通った男前なとこと、山下が見た目のわりに案外恋に一生懸命でかわいげがある素敵なカップルだった。シリーズの中で一番好き☆