【感想・ネタバレ】走るジイサンのレビュー

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老人たちの静かな喜び

2018年11月16日

鋳物職人として働いてきた作次が退職をして毎日家で過ごすようになると、果たして何をして過ごせばいいのかと戸惑い、悩みそしていらだちすら感じるようになった。普段の生活の中でだんだん彼は独り言が多くなっていった。その内、猿が彼の頭に座っているのに気付いた。作次だけに見えるこの猿は彼の独り言の聞き役なのだろ...続きを読むうか。
作次が住む地域に「ちゃちゃ」という喫茶店があり、そこでほぼ毎日午前中は近所の仲間二人とおしゃべりで暇を潰している。彼らは皆、老人特有のひがみや被害者意識いわゆる疎外感を抱いているから、おしゃべりといってもほとんどが愚痴り合いだ…
作次が喫茶店の娘の悩み相談に乗っているところでは、娘の一途な恋心を傷つけないように上手く心をなだめ、娘が将来の希望の職業であるデザイナーへの道に気持ちを集中させるのに成功する。
作次は息子夫婦との同居生活をしている。息子の嫁に最近無言電話が掛かってきていて気になるのだ。不倫でもしているのかと勘ぐる。しばらくして、嫁の方から過去の不倫の件で脅されていると打ち明けられて、是非止めさせて貰いたいと頼まれる。
更には、健造の夫婦仲の悪さの愚痴を聞いたり、逆に夫婦仲の良い正光夫婦の自慢話に耳を貸したりと付き合いに忙しい。ただ、作次は年齢からか体力面や精神面で衰えを見せ始める。ある時、作次は家で失禁をしてしまう。そしてそのことで作次は落ち込む。しかしそこにある息子の嫁の下着を見て連想し、想像を膨らませることで気を紛らわせ、失禁で落ち込んだ自分を慰めてその場を逃れるのだが、もちろんそんな不徳な自分に気付いて反省もするのだ。
息子の嫁から頼まれていた不倫相手の社長に会いに行くが、社長は作次が予想していたような人柄の人ではなく、非常に紳士的な対応に安心する。
こうして作次は息子夫婦との共同生活にも喜びと幸福を感じるのである。しかし相変わらずふだんの生活を送る中、独り言が益々増えていくのである。
老齢期はいわば不毛の時期だとも言える。何か実りあるものを得たい、暗い夜空に煌めく星を見たいと願うのは何も老人だけに限らないが。毎日独り言をブツブツと言いながらも生きる意欲を失なわないことが大切だと、この物語が教えているようだ。

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Posted by ブクログ 2017年10月30日

>頭頂部だ。
>頭の上に猿がいる。いくぶん・・・・
表題と言い、このふざけた様な書き出と言い、最初はユーモア小説かと思ったのですが。。。
先日読んだ「コンビニ・ララバイ」の池永陽のデビュー作。第11回小説すばる新人賞受賞作です。
主人公は息子と二人暮しの老人。息子が結婚して嫁さん...続きを読むと同居することになるのです。主人公は、突然家庭に入り込んできたこの若い女性が常に気になって仕方ない。そして、一方で自分が片隅に追いやられたような気もしてる。暇つぶしに行く喫茶店で会う友人は熟年離婚の危機にあったり、仲の良い夫婦ながら妙に訳有りそうだったり。
「コンビニ・ララバイ」と同じように、ちっぽけな日常の中で、小さな人間が、やるせないながらもどこか一生懸命に生きている。そんな姿を好感を持って描き出している作品です。

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Posted by ブクログ 2014年08月27日

【本の内容】
頭の上に猿がいる。

話しかければクーと鳴き、からかえば一人前に怒りもする。

お前はいったい何者だ―。

近所の仲間と茶飲み話をするだけの平凡な老後をおくっていた作次。

だが、突然あらわれた猿との奇妙な「共同生活」がはじまる。

きっかけは、同居する嫁にほのかな恋情を抱いたことだっ...続きを読むた…。

老いのやるせなさ、そして生の哀しみと可笑しさを描く、第11回小説すばる新人賞受賞作品。

[ 目次 ]


[ POP ]
年をとったらこんなジイサンになりたいと思う(私はなれないが・・・)。

きっとバアサンではこうはいかないだろう。

妻に先立たれ、同居する息子の嫁にほのかな恋心を抱く69歳の主人公。

老境にさしかかり、不安や孤独、怒りなど様々なストレスを感じつつ、ボヤきつつの毎日を送っている。

ジイサンはじめ登場する人々、みんな哀しく切なく滑稽で愛おしい。

そんな中、ジイサンが恋に悩む近所の明ちゃんにかける言葉、「誰だっていやらしいんだ。・・・人間なんてみんな似たようなもんなんだ。やっかいなもんなんだ。」は単なる慰めというより、諦めも含んだ人間肯定の優しさなのだ。

主人公の頭の上に、ある日突然現れた幻想の猿は一体何者なのだろう?

人生の喜怒哀楽をくぐり抜けた後で生まれた自分の分身か、飄々としてすべてを見通す高次の存在か、それとも守護霊?

平凡だけど味のある、やっぱりこんなジイサンになりたいなあ。

[ おすすめ度 ]

☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

[ 関連図書 ]


[ 参考となる書評 ]

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2012年02月08日

年寄りの世間からの疎外感が切なく伝わってくる話。

ジイサンはまだまだ現役のつもりなのに、周りはすっかり年寄り邪魔者扱い。お友達の老夫婦の自殺の話も辛い。母から年齢に対する世間の接し方の話などを聞いているから、自分の将来に照らし合わせて考えると怖いとさえも思える。

最後は自分が猿の頭にのるようにな...続きを読むって終わるのだけど、このラストはどうとらえていいのか・・・。全体としては暗くなくほのぼのストーリなのだけど。

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Posted by ブクログ 2010年01月06日

【あらすじ】
頭の上に猿がいる。話しかければクーと鳴き、からかえば一人前に怒りもする。お前はいったい何者だ―。近所の仲間と茶飲み話をするだけの平凡な老後をおくっていた作次。だが、突然あらわれた猿との奇妙な「共同生活」がはじまる。きっかけは、同居する嫁にほのかな恋情を抱いたことだった…。老いのやるせな...続きを読むさ、そして生の哀しみと可笑しさを描く、第11回小説すばる新人賞受賞作品。

【感想】

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Posted by ブクログ 2009年10月07日

人間生きていれば必ず老いる!体臭もあるし排泄物もある!しかし自分が老いたときの心境なんて全く想像つかない。祖父は物心つく前に亡くなり、祖母も一緒の暮らしたことがく、今まで身近に老人がいたことがないうちは、等身大の老人を知らない。いくら老いても男なわけで、息子のヨメを女と見てしまい、ゴムを買ってはみた...続きを読むがもう自分の一物は勃つことはなく伸びきったまま。頭の上に猿が見えるのも、痴呆の始まりなのかと不安になる。気をつけていることは尿意を感じたらすぐトイレ。失禁をしないこと・・。一緒に住む女の匂いに敏感になっている様子や、自分の臭いを気にする様子など、まさに生きている老人の姿が書かれている。作次さんは、明ちゃんが描く絵の赤色の違いで悩み事があるのかと気づいたり、京子さんの悩み事にも優しい気遣いをする。自分が建てた家なのに息子に二階に上がるなと言われれば素直に従ってしまったり、台所にあるものも気を遣って好きに使えない。そんな作次さんが哀しくて滑稽で愛おしい。

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Posted by ブクログ 2009年10月04日

池永陽のデビュー作。
頭の上にサルがいるというユニークな設定が面白い。人生の終盤を迎えた老人の様々な悩みと葛藤を、切なくも可笑しく描いた作品。

小説すばる新人賞受賞作。

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Posted by ブクログ 2009年10月07日

妻に先立たれたジイサンが主人公で、新婚のヒトリムスコ(こいつは優しくない)とそのヨメ(こっちはなかなか骨のあるヨメサン)との3人暮らしをしています。家族とジイサン仲間とのつきあいというこじんまりとした日々のお話、なのですが、ジイサンはある日自分の頭の上におサルがちょこんと座っているのに気づきます。そ...続きを読むもそも自分の頭の上が見えるわけも無いし、ましてやおサルなんかが乗るわけがない、頭がおかしくなったのではないか、と不安になりながらも、居るものは居るんだしなぁと、割とすんなりおサルの存在を受け入れてしまい、ときには「サルよ、お前どこから来た。やっぱりサルの国か。」などと話しかけたりしてヨメに「このところ独り言が多いですよ」と言われたりします。少し哀しいような寂しいような、独特の雰囲気のある話でした。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2011年06月19日

率直にいえば、少し物足りない終わり方でした。特に明ちゃんが恋人とどうなって絵がまるっきり変わったのかということを知りたかった。あとはラストシーンの実際に走っているところは作次の夢なのかそれとも死んでしまうところだったのかというのも不明瞭…。なので不完全燃焼感が残りますね!ただ、主人公とその周りがしっ...続きを読むかりキャラ立ちしていて面白かった。お年寄りの意外な考えがわかって新鮮だった。

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Posted by ブクログ 2009年10月04日

友達にこの本を見せたら、「シュールなの読んでるねカフカとか好きなの?」と言われた。そこまでシュールではないものの、老いをテーマにしたシュールさとユーモアの同居する作品でした。歳をかさねるということも、たぶんそんなに悪いことではないのではないか。老いに関してはなかなか笑えない状況が描かれているというの...続きを読むに、何故かそう感じた。

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