【感想・ネタバレ】消えたヤルタ密約緊急電―情報士官・小野寺信の孤独な戦い―のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

「消えたヤルタ密約緊急電」
〜情報士官・小野寺信の孤独な戦い〜
岡部伸

ヤルタ密約というのは歴史の教科書にも記載のあるヤルタ会談でアジアに関する戦後処理を下記の内容を3人で非公開で合意したものである。(一部抜粋)

ドイツ降伏後3ヶ月以内に日本に参戦する
樺太南部及び隣接島嶼をソビエトに返還
千島列島をソビエトに譲渡

アメリカ:ルーズベルト
イギリス:チャーチル
ソビエト連邦:スターリン

当時、日本は和平交渉を不可侵条約を結んでいるソ連に仲介してもらうことで政府は考えていた。
参戦する予定のソ連に楽観的希望が強くなっている時に上記密約情報を入手し、日本に打電した情報士官小野寺信陸軍少将の電報が公文書等に残っていなく、闇に葬られた。

国家戦略に関する重大な情報を得ながらも不都合な真実は封殺され、活かされなかった。
著者は同様の日本官僚型組織は現在も多いと指摘する。

消えた電報を他国の公文書(イギリス、アメリカなど情報公開されたものには当時、日本の暗号解読された電報などの記録もある。)
を著者が読み解く。

インテリジェンスの必要性の再認識と諜報の神様と言われた小野寺信氏について、とても興味深く面白い本でした。

ちなみにロシア語で「ツシマ」という言葉があり意味は「格下の相手に不覚をとる」

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2022年09月26日

Posted by ブクログ

[孤人奮闘]「ドイツの敗戦から3ヶ月後、ソ連は日本に対して攻め入って来る」。日本が敗戦まで把握していなかったとされるそのヤルタの密約を、欧州に張り巡らせた情報の網から入手し、日本に打電していた男がいた。しかし、その電報が届いたという記録は残っておらず、結果として日本はソ連の対日参戦を許してしまう......。インテリジェンスの世界で「神様」と呼ばれた小野寺信という知られざる人物と第二次世界大戦中の諜報の内幕を描ききった衝撃のスクープ作です。著者は、北方領土返還交渉などの取材も務められた岡部伸。


「ここまでよく調べたな......」というのが正直な印象。岡部氏が綴らなければ歴史の彼方に消えてしまったであろう、小野寺と東欧諸国の密なつながりなどは、読みながらスゴいスゴいと体温が上がっていく感覚を覚えてしまいました。公開情報を湛然につなぎあわせていきながら、情報の網をたぐりよせていく様子は一級のミステリーを読んでいるよう。手に取った瞬間はその分厚さに驚いてしまうかもしれませんが、それに見合った、いや、それ以上の濃い内容であることを保証します。


小野寺の情報に対する繊細さと打って変わって、日本中枢の情報に対する無頓着ぶりは眼に余るものがありました。「こうあってほしい」という願望に合致するように情報を取捨選択してしまう様子や、作戦が事実に基づかずにくみ上げられていってしまう様子は、怖さをとおりこして諦念すら覚えてしまいました。外交における情報の重要性が声高に叫ばれる今だからこそ、ぜひ手に取っていただきたい作品です。

〜自前の情報を持つことこそがインテリジェンスの大原則なのである。〜

著者の執念に拍手☆5つ

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2013年10月04日

Posted by ブクログ

第二次大戦中にスウェーデンで欧州情報を担当した今で言うインテリジェンスオフィサーの陸軍の小野寺信少将の記録である。杉原千畝を配下にしていた人だ。ソ連の対日参戦という極秘情報を入手打電したのに大本営で握り潰されたのを本人が知ったのは、なんと1983年だそうだ。筆者は、その後に公開された米英資料や、本人の家族に語った証言テープなどを渉猟し、どのように戦時下の異国で情報入手ルートを作り上げたかを克明に記している。本書の出だしはクドイ部分もあったが、しだいに筆ものってきてグイグイ引き込まれた。当時の日本に第一級のインテリジェンス能力があったのがよく分かる。でも、それを使いこなせないのは、変わらないのかもしれない。筆者は新聞記者だが、別の出版社が出したところにも、本書に対する熱い意欲が感じられる。力作である。

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2013年02月11日

Posted by ブクログ

●:引用、他は感想
佐々木譲「ストックホルムの密使」ではじめて知り、終戦工作に関する書物では必ず目に入る名前。最近まであまり優秀なインテリジェントオフィサーとの印象は無かったが、今年の夏のNHKスペシャル”終戦 なぜ早くきめられなかったのか」を見て、俄然気になっていた。
題名にある「消えたヤルタ密約緊急電」をはじめとする、小野寺信在ストックホルム陸軍武官の諜報活動を、複数の資料を駆使して多角的に捉え、疑問点や矛盾点を解き明かそうとしている。しかし、同じ事柄に対する各資料の記述がほぼ同じ場合でも、そのまま重複し記述いるため、なかなか先に進まず、まどろっこしい。
 
読むと、根元博中将や杉原千畝について書かれた評伝を読んだ時と同じ印象。→著者の被評伝者に対する一種の尊敬、英雄崇拝的なものを感じてしまうと言ったらいいか。

”P176 この時すでに日本のインテリジェンスは機能不全に陥っていたのである。日本型官僚組織に潜む病弊は根深い。”
→P339
→戦前の日本のインテリジェンスを扱った本は対外この結論に落ち着く。間違いではないが。
 

●対ソ工作を主導した種村が、大戦中からソ連共産党あるいはコミンテルンの影響を受けていたいう史料を筆者は持ち合わせていない。しかし、大戦時、日本よりはるかに国家の指導者に対する防諜・管理体制が整備されていたイギリスやドイツ、アメリカで、エリート層によるソ連を利するための「スパイ行為」があったことが近年判明しており、日本の権力中枢にもゾルゲ・尾崎工作に匹敵するソ連からの工作があったとしても不思議ではないだろう。→対米英戦争を継続するための親ソ容共。敵の敵は味方、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。シベリヤ抑留容認(日本人の棄民政策)などは、枢軸同盟崩壊後のどさくさの中のヤケクソ的なものと思っていたが、それ以前から冷静に考えられていたとは。コミンテルンの参本浸透説。陰謀論とは思えなくなる。

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2013年01月27日

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