【感想・ネタバレ】押川春浪集 ――明治探偵冒険小説集3のレビュー

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Posted by ブクログ 2019年05月17日

【銀山王】
『紅海の波と印度洋の波とが合する処に、亜典(アデン)と云う綺麗な港がある。洋々たる亜典湾の波を隔てて遥に阿弗利加(アフリカ)大陸に対し、ここは橄欖(かんらん)の花咲く亜剌比亜(アラビア)の南浜(なんぴん)ではあるが…』
…というなかなか豪奢な描写で始まる一品。

この美しいアデンの港町で...続きを読む繰り広げられる三角関係。
イギリス人令嬢の浪島楓(なみしま かえで)嬢と婚約同然にあった日本人貴族の羽衣(はごろも)男爵を銀山王の一人娘有州緑(ありす みどり)姫が奪い取っていた。
絶望の底にあった楓嬢は、全財産を叔父の黒蛸(くろだこ)紳士に譲り渡して一人町を出る。
そんな楓嬢の貢献を申し出たのは、緑姫の父有州老侯爵と妻の白縫夫人に恨みを持つ離島老人だった…。

イギリス人が日本名だったので最初慣れなかったけれど、そういえば昔は海外翻訳ものも日本人名に変えられていたんですね。(たとえば「トム」を「太郎」、「マリー」を「真理子」みたいな)
話の流れは、三角関係あり、お嬢さまの危機あり、復讐あり、変装あり、派手な死亡場面ありのかなり豪華なお話(笑)
一応最後はイギリス人の楓さんと日本人の羽衣君はよりを戻すのだが…。現代感覚でいうと「日本のばかもんがゴメンナサイ…」という気持ちに(笑)

【世界武者修行】
『天下を横行す七寸の草鞋、草鞋が切れたら高襟(ハイカラ)を蹴飛ばしてその靴を奪わん、靴が破れたら美人を凹ましてその銭を捲上げん、これ世界武者修行の極意である。読者諸君!軽佻の骨、浮薄の皮、而して(しこうして)青病譚の癖に屁理屈ばかり捏ねる(こねる)高襟弱虫共の多き二十世紀…』
これまた御大層な始まり方(笑)
要するに高襟(ハイカラー)を蹴飛ばして天下を跋扈する蛮殻(バンカラ)な主人公、団金東次(だん きんとうじ)が、大暴れの日々を過ごしたら大学放校、仕送り中止となったことを機に、それならば日本狭し、世界武者修行に出た、というお話。
行く先々でも大騒動、人助けにポンと大金与えたり、強盗退治に出たら気に入られたり、仇討の助っ人を買って出たり…。
まずは上海から桑港(サンフランシスコ)に渡って騒動起こしたところで終わっているが、作者としては続きを書ける状態にしていたのかもしれない。

【魔島の奇跡】
『椰子の花咲く亜剌比亜(アラビア)の都府(みやこ)に、蘭平(らんぺい)と呼べる一人の軽子(かるこ)が住んでおりました。ごく剽軽な親仁ながら、お気の毒にも貧乏暇なしで、年が年中稼いでも鐚(びた)一門も剰(あま)らず、家では嬶がわめく餓鬼が泣く家外(そと)へ出ると犬まで吠付く…』
これまた御大層な描写から始まる冒険譚。
アラビアの貧乏な欄平おじさんが、たまたま“航海王船乗伯爵”の宴会に招かれ、その冒険譚を聞くというお話。
難破船から一人助かったと思ったら魔の島に漂着してしまった、王に気に入られたと思ったら死んだ妻と共に生き埋めにされる風習のある島だった、多くの美女に囲まれた屋敷で決して開けてはいけない部屋の鍵を預かった…などなど。
アラビアン・ナイトのシンドバットの冒険が元になっている…というか分かりやすく日本に紹介したような物語。

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