【感想・ネタバレ】ガザとは何か~パレスチナを知るための緊急講義のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

ガザとは何か
パレスチナを知るための緊急講義

著者:岡真理(早稲田大学文学部学術院教授、京都大学名誉教授)
発行:2023年12月31日
大和書房
初出:下記講演をもとに編集、再構築
「緊急学習会 ガザとは何か」(2023年10月20日、京都大学)
「ガザを知る緊急セミナー 人間の恥としての」(2023年10月23日、早稲田大学)

パレスチナとイスラエル間で起きていることが、マスメディア(とくにテレビ)では、よく「暴力の連鎖」と表現される。僕は以前からこれに違和感を持っていた。イスラエルが行ってきた一方的な国際法違反や殺人行為に対するパレスチナ人の抵抗なのに、なんで「やり返し」「やりあい」という発想になるのか?今朝(2024.4.21)もサンデーモーニングで「報復の連鎖」と表現していた。

「暴力の連鎖」でも「憎しみの連鎖」でもなく、これらの言葉を使うかどうかが、信頼できるメディアか、信頼できる人物かどうか、その試金石になると著者は言っている。

パレスチナ問題には、とても複雑な歴史があると思いがちだが、実はそうでもない。著者は、本書第一部、すなわち京都大学での講演でとてもシンプルかつ明確に解説してくれている。非常に勉強になる。できるだけ多くの人に読んで欲しい。

一言でいうなら、パレスチナ問題はヨーロッパ・キリスト教社会において行われてきたユダヤ人差別と、ホロコーストという大犯罪のツケを、何の責任もないパレスチナに押しつけ、払わせているという構造である。つまり、今日のパレスチナ問題は、ヨーロッパにおける反ユダヤ人主義にあるというわけである。とりわけホロコーストの解放により東欧に出現した25万人のユダヤ人難民をどうするか?それを、ホロコーストとなにも関係のないパレスチナ人が住む土地を一方的に分割し、多くを取り上げて、そこにイスラエルを建国させて解決しようとしたことが原因である。

その結果、今度は大量のパレスチナ難民が出てしまった。これは、イスラエルが建国にともなって行ってきた民族浄化により、暴力で故郷を追われたためである。

その後、ガザで行われているイスラエルによる「完全封鎖」がこれまたえげつない。オスロ宣言に正々堂々違反し、つまり国際法を犯す、犯罪行為である。産業基盤はぶち壊され、主力の漁業は海上封鎖で出来なくなり、電気もとまり、食料もない。そのままではみんな死んでしまう。やむなく国連や国際支援機関による配給でしのいでいる。配給されるのは小麦粉、油、砂糖。それを大量に摂取して、辛うじて生命維持しているが、糖尿病が風土病になってしまう。イスラエルはそれを「ガザの人間はみんな太っている、飢餓など嘘だ」と言う。

著者は言う、次の3点を知ってほしいと。上記はそのあらましでもある。
①パレスチナ人が難民となった理由
②イスラエル建国&イスラエルとはどんな国か
③ガザの人々がこの16年間以上置かれてきた封鎖とはどういう状況か


【第1部】@京都大学

ガザの住民の7割が1948年のイスラエル建国に伴う民族浄化により暴力的に故郷を追われた難民とその子孫。

ガザの人口は現在230万人。65%が24歳以下、40%が14歳以下。ガザの平均年齢は18歳(日本は48歳)。230万人のうち7割が上記民族浄化で難民となった人とその子孫。

1945:ナチスがアウシュヴィッツ解放。生きのびたユダヤ人が故郷に帰ると家を奪われていたり、集団虐殺されたり、アメリカでは移民を受け入れなかったり。東欧で25万人のユダヤ人が難民に
1947:下記の総会前、アドホック委員会が分割案は国際法違反の可能性を指摘。ホロコーストに何ら関係のないパレスチナ人に代償を支払わせるのは不正だと結論。しかし・・・
1947.11.29:国連総会決議「パレスチナを分割してヨーロッパのユダヤ人の国を創る」
→ヨーロッパ・キリスト教における歴史的なユダヤ人差別とホロコーストの責任を負っているはずの西洋諸国は、パレスチナ人を犠牲にすることで贖(あがな)ったことになる
シオニズム(下記)などにより既に入っている60万人のユダヤ人が購入していた土地はわずか6%だったが、分割案でパレスチナの土地のほとんどを取り上げてしまう。

<シオニズムとは>
1894:ドレフュス事件。ユダヤ系のドレフュス大尉(フランスの軍人)が冤罪で国家機密漏洩罪により終身刑。
1896:オーストリア=ハンガリー帝国出身ジャーナリストのテオドール・ヘルツルが「ユダヤ人国家」を書いたのを契機に政治的シオニズム運動誕生
1897:バーゼル(瑞)で第1回世界シオニスト会議。パレスチナにユダヤ国家建設が決議され、ヨーロッパ・ユダヤ人の入植始まる。
ただし、シオニズム運動はユダヤ人の間で人気がなかった。神がメシアを遣わしてパレスチナに帰してくれるというユダヤ教の教えに即していない。正統派ユダヤ教徒はシオニストを「もはやユダヤ人ではない」と見做した。

西欧社会が近代市民社会になっても、ユダヤ人差別や反ユダヤ主義というヨーロッパ・キリスト教社会の歴史的な宿痾を克服できなかった。ヨーロッパのユダヤ人が、アラブ人やムスリム、アジア人などに対するレイシズムを持ち、西洋白人の植民地主義の精神を持ったのがシオニストだった。

50年後もまだパレスチナ入植のヨーロッパ・ユダヤ人は60万人程度で、多くはシオニストだからではなく、1930年以降にナチス台頭で逃げて来た人たち。アラブ人120万人、ユダヤ人60万人。ユダヤ人が購入した土地は6%。
<以上がシオニズムについて>

1947.11末~1948.5(イスラエル建国)~1949年明け:パレスチナ人に対する民族浄化「ナクバ」の嵐。75万人以上のパレスチナ人が難民に。
1948:ナクバによる難民のうち19満員がガザに(元々8万人いた)
1957:民族解放運動組織「ファタハ」誕生(アラファト議長)
1967:第三次中東戦争。ガザはヨルダン川西岸とともに占領される。PFLP(パレスチナ解放人民戦線)やDFLP(パレスチナ解放民主戦線)が誕生
1987:第一次インティファーダ。子供たちもイスラエル兵に石を投げる「石の革命」→民族解放組織「イスラーム抵抗運動=ハマース」誕生
1993:オスロ合意。イスラエルとPLO(パレスチナ解放機構)が相互承認
1994:パレスチナ自治政府発足
2000:第二次インティファーダ。オスロ合意の逆のこと、入植者撤退どころか入植者を7年で1.5倍に増やす
2005:ガザからイスラエルの全入植地が撤退、イスラエル軍撤退。しかし、彼らはヨルダン川西岸に入植。ガザはイスラエル軍がいなくなったため、封鎖して無差別爆撃が可能に
2006:パレスチナ立法評議会選挙。EUの監視団なども来て、近来稀に見る民主的な選挙だと評価される。ハマースが勝利。それなのにイスラエルとアメリカはハマース政府を承認しない。
2007:完全封鎖が始まる
2014:51日間戦争
2023.10.7:ハマースによる奇襲攻撃

封鎖とは構造的暴力、直接的暴力と同じぐらい致命的な暴力。「世界最大の野外監獄」と言われる

ガザは漁業が基幹産業。沖合のガザ領海内で天然ガス田があり、イスラエルはそれを取りたいので6海里に哨戒艇を出動させて漁師を銃撃にしたり、裸にして海に投げ入れたり。漁船の没収や刑務所送りも。オスロ合意では20海里がガザの領域なのに。

ガザではおいしいイチゴなど農産物が取れるが、封鎖により出荷できない。

汚染処理施設が稼動せず、230万人の生活排水が身性かのまま地中海へ。海も渓谷流域の地下水も汚染。
→97%が飲料に不適、だが生きるために汚染水を飲むしかない

産業基盤が破壊されて失業率46%、食料がない、電気もない、医薬品もない。

イスラエル軍は、パレスチナの若者の足を狙って「バタフライ・ブレット」を撃ち込んでくる。着弾した衝撃で銃弾の先が羽根のように開いて、周りにある血管や神経をズタズタにする。普通の弾なら貫通するが。バタフライ・ブレッドだと脚を切断するしかない。しかし、医薬品がないので麻酔なしで切断するしかない。殺すのではなく若者を歩けなくするのが狙い。

【第2部】@早稲田大学

ガザは「天井のない世界最大の野外監獄」というより、いまや「絶滅収容所」

BDS運動
イスラエルに対する、Boycott、Divestment(投資引き上げ)、Sanctions(経済制裁)。

ジョルジョ・アガンベン(イタリアの哲学者)著『ホモ・サケル 主権権力とむき出しの生』より
「ホモ・サケル」とは直訳で「聖なる人間」。古代ローマ法が定める特殊な罪人のことで、罪に問われることなく殺すことができ、その人が死んだからと言ってその死が聖なるものとはみなされない、そんな存在。アガンベンはホモ・サケルを「むき出しの生」と表現、人間は本来、政治的な存在・主体であるが、ホモ・サケルはそうではなく「ただ生きている」生き物、そういう存在に還元されてしまった「剥き出しの生」なのだと。例としては、絶滅収容所に入れられたユダヤ人。彼らを殺したからといって、殺人罪が罪に問われるわけではなかった。ガザのヨルダン川西岸のパレスチナ人、日本の入管にいる外国人被収容者もホモ・サケルと言える。

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2024年04月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 2023年10月7日から続く大規模な戦闘も、まもなく半年になろとしている。
カタールでの休戦交渉の行方が気になる今日この頃。

 日頃のニュース以外に、なにか一冊読んでおかないとと思っていたが、本書が適当かなと、遅ればせながら(すでに3刷まで出てる)読んでみた。
 ガザへの攻撃が始まってすぐ、2023年10月20日と23日に、京都大学と早稲田大学で行われた講演が元になっていて、緊急性があり、ポイントが手短にまとめられている点が良い。帯にある、“「まずここから」の一冊”として最適と判断。
 そして、大事なのは、パレスチナ側からの視点で語られている点。 世の報道の大半は、イスラエル側、アメリカ寄りの大政翼賛なものだからね。
 本書を読むと、歴史的な問題としてのパレスチナ問題の整理と、現在進行形のガザ問題、というより世界の構造が整理出来て良い。

 そして、報道の欺瞞、要注意ポイントが透けて見えてくる気もする。
 ハマスに冠される修辞も、「ガザを実効支配するハマス」、「武装組織ハマス」と言った、もはや見慣れた記述も、そこに静かな意識操作を感じることができるだろう。

 本書を読んだ、では、今後、我々はどこに注意し、そして何ができるかを考えないといけない。そのヒントも、大いに含まれている。

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2024年03月18日

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