【感想・ネタバレ】帝国の構造 中心・周辺・亜周辺のレビュー

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Posted by ブクログ

 著者は『トランスクリティーク』以降、マルクスを生産様式ではなく交換様式で、また、カントの世界共和国をベースに、今後の世界の展望を考察してきた。近代国家は、資本=ネーション=ステートの3つの要因を孕んでおり、依然として、これらは強く結ばれている。資本の力が強まると、新自由主義社会となり、ネーション=ステートの力が強まると、国家資本主義あるいは福祉国家社会となる。しかし、これらに囚われている限り、近代を超克することはできない。その為、著者は、資本=ネーション=ステートを超えた社会システム、すなわち、交換様式Dが主力となる世界を考えてきた。本書もその一環として、交換様式A〜Dに触れているが、今回は「帝国」の特徴を、つまり交換様式Bの性質を深堀していくのが本書の主軸となる。
 交換様式Bが主力となった時代とは、世界市場(交換様式C)が到来する以前の時代、別の言い方をすると、近代以前に存在した帝国の時代を指す。具体的には、ペルシア帝国、ローマ帝国、さらに時を経て、モンゴル帝国、オスマン帝国と、各時代で、政治的、軍事的に優位であった帝国のことである。本書で特に注意しないといけないのが、「帝国」と「帝国主義」の定義である。両者ともに多数の民族、国家を包括することに違いはないが、前者のほうは、これら独自の習慣(政治、経済活動あるいは宗教)に対して寛容な態度を示す。一方で後者は、民族、国家を征服し、支配者側の価値観を、それを被支配者に押しつける、つまり、同化政策を強制する。このように、著者は2つの用語を厳密に区別する。ちなみに、「帝国主義」の別の特徴として、この性質を持つ国家は、歴史的に見て「帝国」に対して亜周辺であることを指摘する。この箇所は日本にも当てはまり、明治に誕生した大日本帝国とは、まさに帝国主義である。そして、「帝国主義」とは世界=経済、つまり経済的に優位な立場で、ヘゲモニー国家、つまり、交換様式Cが主力となる。
 これ以外にも、本書の終わりでは、日本社会を交換様式をもとに紐解く。興味深いことに、徳川幕府とは、拡大主義の否定、つまり世界市場(交換様式C)を抑えてきたが、幕末ごろに限界を迎えた。明治維新の成功要因としても、徳川体制がこれまで抑えてきたものを解放したことで、発展したという。その一方で、日本は周辺の理解が足りないとあり、日本が「帝国」でありたい、すなわち、多民族、国家に寛容でありたいのならば、憲法9条の実行が必要だと主張する。
 巻末には、作家佐藤優との対談が収録。日本は海洋国家で、中国とロシアが海へ進出しない限り、これらの国家とうまく棲み分けができる。むしろ、日米同盟で結びつきが強いアメリカとの関係を、日本は注視しなければならないというのは、今後の地政学リスクを考えるうえでポイントとなるだろう。

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2024年01月29日

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