【感想・ネタバレ】文学のエコロジーのレビュー

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Posted by ブクログ

良い意味で素朴な文学読解の手引き書。解読骨子は与えてくれるわけではないので文学理論の便利な道具箱としては機能してくれない。だが、道具以前の手の使い方は十分に教えてくれる。シュミレーションをキーワードとする前半部は特に興味深い。文学作品内の事象を再現するためには、どのようなオブジェクトの設定が必要なのか、それによってどのような情景を描けるのか。また、登場人物の心理状態の変化と行動がどのように結びついているか、など基礎的ではあるが、拙速な読書の際に忘れがちなことを思い出させてくれる。文章による省略や感情の動きなど、再現が難しかったり、ブラックボックス化されていたりする部分があることについても無理に自論に押し込めることなく、それ自体が文学作品の面白さであるとする著者の率直な態度には好感が持てる。ただし、後半部の「気」に関する考察はやや冗長なきらいがある。これは本書が題名に「エコロジー」を冠していることの弊害であろう。唯物論的に描出しようというあまり、前半部の緻密さと比較して、却ってシミュレーションやエコロジーの様態を捉え損なってしまっているといえる。

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2024年05月21日

Posted by ブクログ

文学を読んでいるとき、私たちの頭のなかではどのように作中世界が構築されていくのか。ゲームクリエイターでもある筆者が「文章から読み取れる世界をコンピュータプログラムで作るとしたらどうなるか」をシミュレーションすることで、逆説的に浮かび上がってくる〈文学のエコロジー(生態学)〉を考える。


テッド・チャンと一緒に読んでいたのもあってなぜ例文に「あなたの人生の物語」がでてこないんだろうと思ってしまうくらい、言語コミュニケーションがもつ豊かさと不完全さへのまなざしに共通するものがあると感じた。チャンがあの分量で言ったことを説明するにはこの本ちょっと長すぎるんだけど。
バルザックを扱う前半はウンベルト・エーコの『小説の森 散策』のメタフィクション論にも近いんだけど、語り手の声を簡単に作者とイコールで結んでしまっている感じが気になる。エーコのように「ナレーター(語り手)」と「想定作者」と「実作者」はやはり分けて考えないと、せっかく「エコロジー」「疑似環境」を持ちだしても考え方に新規性があるようには感じられない。文中で言及されているピーター・メンデルサンドの『本を読むときに何が起きているのか』のほうがよっぽどわかりやすいし。
論旨がはっきりするのは最終章で、私たちはそもそも現実世界をそれぞれ勝手なフィルター越しに見ることしかできないし、そのフィルター越しに見た世界から勝手に構築した物語=疑似環境を生きることしかできない。けれど文学を読むことは文字という不明瞭なツールを通じて自分の疑似環境から作中世界という他者の疑似環境をひねりだし、自分の疑似環境を客観視したり、新しいものをそこへ持ち帰ったりする契機になるのだと。
テキスト生成AI(ChatGPT)は文章を読んで設計図を引くことができないというのは結構びっくりというかガッカリだった。謎建築の図面を引くなんてそれこそAIにしてほしいことだよなぁ。身体性をもたないAIにはプログラミング言語と実世界の言葉とそれが指している物質を結びつけることができないという「記号接地問題」もテッド・チャン作品とリンクしていたりして、並行して読んだのはよかったかも。

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2024年04月27日

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