あらすじ
東京駅を作った人!―― 唐津藩の下級武士・辰野金吾は上京し、英国に留学。日本銀行や東京駅を手がけて、近代日本の魂をも作った! 見事な人間讃歌、書下ろし特別作品。
● わが国近代建築のなかで、東京駅はおそらく最も多く小説に取り上げられてきたものであろう。とくに私の記憶に残っているのが、江戸川乱歩『怪人二十面相』である。
怪盗が帝都に跳梁する状況下、待ちに待った名探偵明智小五郎が帰朝し、颯爽と東京駅に降り立つ。この名探偵を外務省の役人に変装した二十面相がプラットホームで出迎え、二人はステーションホテルの一室で対決する。
「この駅はあたかも光線を放射する太陽のようなものだ。あらゆるものの中心となって、ここから光を四方八方に放ってほしい」と、開業の祝賀式で時の首相大隈重信が述べた言葉は、まさに以後の東京駅と近代日本の行く末を言い当てることになった。――(あとがき)
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Posted by ブクログ
大阪市中央公会堂に一目惚れして、辰野金吾さんを知りました。本書の構成は、辰野金吾さんの一生を物語形式でまとめています。あの時代、辰野金吾さんをはじめとした日本人が目指していたこと、秘めていた思い、憧れ。そんな熱いものがひしひしと伝わってきました。読めて良かった。また東京駅を見に行きたい!
Posted by ブクログ
明治の偉大な建築家、辰野金吾の設計で東京駅が完成したのは大正4年のこと。事務所の弟子たちが笑いあう情景が描かれている。
「東京駅の見物客は今でも毎日一万人近くおり、乗車口も大賑わいです。『やあ、えらいもんだな』と大理石の円柱を撫でまわしている婆さんや、便所掃除用の水栓を弄りながら、どんどん水が流れるので、『これは大変だ。誰かとめてくれえ』とあわてて、頓狂な声を挙げ、助けを呼ぶ田舎の爺さんもいました。」
100年近く経って今年、東京駅復元工事が完了した。連日多くの人が押し掛け、かつてと同じように、感嘆の声をあげている。今ほど、この本を読むのにふさわしいときはないように思う。
本書では、辰野金吾がどのような思いをもって仕事をしていたのか、工部大学校時代のジョサイア・コンドルや、イギリス留学時代のウィリアム・バージェスの教え、同級やライバルの言葉や、生き様とともに語られる。それは、辰野の伝記である以上に、近代日本において建築という学問分野と、建築家という職業が確立されていく過程の記録である。
筆者はあとがきで、「あの赤い煉瓦の壁を見ていると、われわれは往時、日本人が西洋化にかけた情熱、執念、誇りを懐かしく感じてしまう。それはまた、現在に生きるわれわれを力づけるなにものかでもある。」という。
これは、単なる建築物としてそこに建つだけでなく、沢山の人に愛され、多くの思い出を集めてきた東京駅を語るのにふさわしい物語だと感じる。イギリスからコンドル先生がやってくるシーンなど、いよいよ始まるのだという感覚にぶるっときて、思わず姿勢を正してしまう。辰野金吾という建築家とその当時の建築界について、いきいきと伝える良書である。