【感想・ネタバレ】エネルギー危機の深層 ――ロシア・ウクライナ戦争と石油ガス資源の未来のレビュー

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Posted by ブクログ 2024年03月22日

ロシアのパイプラインを使ったエネルギー戦略がとにかく学べます。
サハリン2のように日本も無関係ではないし、戦争の最中でも各国の利害が絡み合う世界のエネルギー事情の一端がよく分かりました。

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Posted by ブクログ 2023年11月14日

本書は、ロシア・ウクライナ戦争により世界のエネルギー情勢がどう変化したか、どのような危機にあるか、この事態に対して日本はどのように対応すべきかを統計データ等を使用して解説している。筆者は、JOGMECの職員で、ロシア関連のエネルギー情勢に関するレポートを同団体のホームページに随時掲載しているが、結構...続きを読む専門的で知識のない私にとっては難解だったのだが、本書は私のような初学者にも分かりやすく書かれている。

エネルギー関連の事実はもとより、筆者の意見もデータ等の根拠に基づいて主張がなされており、非常に納得感がある。また、私を含め読者が疑問に思うような箇所に関し、的確にその要因や背景を提示して、各章を読み終わった後に疑問が残らないような工夫がなされているように感じる。

本書を読む前は、日本が「サハリンプロジェクト」、北極・ヤマルLNGに残留することを決定した際は、エネルギー安全保障上は理解できるものの、西側の結束とロシアをビジネス上の取引相手とすることのリスクから撤退すべきと考えていたが、なるほどロシアしか天然ガスの供給余力がある国がない中で、LNGにも制裁を課すリスクまで考慮していなかったと反省。とはいえ、最近も欧州が北極LNGに制裁を発動する中、将来的には結局手放さざるを得ない状況になるのではと、本書を読んで危惧する。

筆者の意見は非常に参考になり、今まで読んだ経済系の本の中では一番良かったのだが、「ノルドストリーム」爆破事件の犯人と2021年3月のウクライナ国境周辺の露軍集結に関する論考には若干違和感があったが、総じて大変勉強になったので、今後もこういった本を定期的に出してほしい。

以下、備考
・【p.14〜】エネルギー関連統計
・ウを通過する石油パイプラインは「дружба」(1964年稼働開始)、ガスパイプラインは「братство」、「союз」
・【p.25】天然ガスは原油と異なり供給余力が露にか存在せず
・【p.29】露や中東産油ガス国は、当初脱炭素の流れを脅威として捉えていたが、天然ガスが脱炭素の中継ぎとして使用されるという楽観的見通しと人口増加の殆どが発展途上国で、彼らは安価な化石燃料を使用する可能性が高いので、商機と捉えるように
・【p.30】露は、脱炭素に向けた2つの大きなアセットを有する。①排出された二酸化炭素を回収し、地下に貯蔵・再利用するCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)、②世界最大の森林面積
・【p.37】初めて露から欧州にガスが輸出されたのは1967年の「兄弟」パイプライン稼働
・【p.39】ロシアから欧州に向けたガスパイプラインとその通ガス量
・【p.40】2019年12月に更改された露ウ間のガス・トランジット契約では、通過料として2024年までの契約で年間平均450億立方メートル、100Kmあたり・通ガス量千立方メートルあたり2.66ドル。これは露からウに対し年間13億ドル(最大で流せば41億ドル)もの通過料が支払われる試算
・【p.42】露からの国別天然ガス価格推移
・【p.45】ウの天然ガス輸入量の推移
・【p.50】ウ経由天然ガス・トランジット量の推移
・【p.50〜】クリミア併合のもう1つの目的。クリミア半島南部の東側「スキフスカ鉱区」西側「プリケルチェンスカ鉱区」には潜在的油ガス田あり。仮にウが開発できていれば、欧州市場が奪われ、ウを親露に付けるためのトランジット収入のレバレッジが効かなくなる事態に
・【p.60〜】米国による「ノルド・ストリーム2」への執拗な攻撃の背景で、米国は対ベネズエラ制裁で石油を金に禁輸。これにより露産原油・石油製品の輸入が激増
・【p.70】露では原油を生産するために必要なコストの平均が40〜48ドル程度と言われる。(限界生産コスト)
・【p.77〜】ノルウェー産ガスをデンマーク経由でポーランドまで輸出する「バルト海パイプライン」は「ノルド・ストリーム」とデンマーク領海海底で交差
・【p.80】戦争開始してもなお、ウには露産石油・ガスが通過。原油は日量24万バレルで23年上半期は32万バレルと増加。天然ガスも年間160億立方メートルが通過。露としては、外貨確保とともに地政学ツールとしての活用の可能性を残す意図か。ウはトランジット料を得られる
・【p.89】ルーブルの回復の背景:①政策金利の大幅引き上げ、②外貨のルーブル換金強制、③天然ガスパイプライン輸出代金のルーブル換金によるルーブル減価の食い止め、④資源価格の高騰
・見かけ上ルーブル減価を食い止めてるように見えるが、あくまで国内政策によるもので、国際的な信用回復には至ってない。
・【p.90】露経済のGDP成長率が耐えた要因は、①露中銀の適切な資本規制と金融政策、②政府による投資主導、③資源高、④輸入減
・【p.100】露産原油・天然ガス等の輸出シェア。欧州の各資源の脱露が可能かの評価もあり
・【p.104】露の資源別輸出総額内訳
・【p.106】プライスキャップの説明
・【p.109】露産原油の輸出量とディスカウント幅の推移には相関関係あり
・【p.110】露は「影の船団」を組織したが、そのコストは約1兆ルーブルとされる。
・【p.122〕露が今恐れていることは、プライスキャップに伴うニ次制裁の拡大やその連鎖としての他産油国による露市場シェアの収奪の可能性(OPECプラス諸国の離反)
・【p.136〜】欧州は①2023年末までの露産ガス削減目標を3分の2、②依存脱却を2027年に設定
・ドイツは露産ガス脱却を2024年半ばまでに達成目標。新規LNG契約を北米、カタール、アフリカで立ち上げ。各プロジェクトの一覧表はp.138
・ドイツは2022年12月に初めてとなる浮体式LNG貯蔵・再ガス化ターミナル(FSRU)を開業。ほか、2つのLNG貯蔵施設を設立し、全体の受け入れ能力は最大年間162億立方メートル(独の年間ガス需要(800億)の約20%)。ドイツはLNG輸入能力を2024年には年間360億立方メートルになる見通し
・【p.140】露も2035年までに1.4億トンのLNG輸出計画を2021年3月に発表していた。
・【p.142】欧州市場の代替を探す露は、トルコを新たな天然ガス輸出のハブにする構想や中央アジア(カザフ・ウズベク)国内市場への供給、TAPIにも触手を伸ばす始末。
・【p.143】中国が「シベリアの力2」を必要としない理由
・【p.144】露天然ガス輸出インフラの図
・【p.146】対中天然ガス価格の推移(シベリアの力がだいぶ安い)
・【p.151〜】2022年4月8日に発動されたEU制裁第5パッケージに、LNG関連6製品が含まれた。露は中・大規模LNGプラントで使用する極低温熱交換器の100%、極低温ポンプの95%を輸入依存。これにより、北極LNG-2の液化系列3トレインのうち、1トレインしか調達できず。ウスチ・ルーガLNGはもはや調達できず。同制裁は、新規プロジェクトだけでなく、稼働中のプロジェクトでも供給途絶になる恐れがあり、露産LNGの最大のバイヤーである日本とヤマルLNGからトランジット含め73%を調達する欧州が自分の首を絞めることに(LNG機器の禁輸は欧州のみ)
・【p.155】PSAプロジェクトの経緯
・【p.158】露はサハリンプロジェクトの大統領令で、欧米メジャーの早急な撤退判断に対して、損害賠償をちらつかせることで撤退を考え直してもらおうとする狙いがあった可能性あり。
・【p.161】2022年通年で見ると、露原油輸出収入は、もし侵攻せずに制裁もなかった国際価格と比較すると、23%減収とされる。ガスは、まだ禁輸しておらず、高価格の影響で増益。p.162に図
・【p.178】露で稼働中のLNGプロジェクト
・【p.179】サハリン2の今後のリスク: ①欧州のLNG機器禁輸により、ストックが足らず生産再開にならない可能性、②シェルなしのガスプロムがどこまでメンテナンスできるか不明なこと、③露の意図的な供給削減
・【p.185〜】欧州の脱炭素政策(象徴的なのが「欧州グリーンディール」「2021年COP26グラスゴー」)には、全加盟国の合意形成と資金調達という構造的問題があり、新型コロナの影響で促進された背景あり
・【p.189】2020年6月、露は11年ぶりに長期エネルギー戦略を改訂(p.190)。欧州グリーンディールを受け、急遽水素エネルギーの項目を追加。露は、天然ガスに関してはガスプロムにブルー水素及びターコイズ水素の生成方法である水の電気分解を、原子力発電にはロスアトムにイエローまたはピンク水素を進めるよう指示。この方針は、長年の原料輸出経済から脱し付加価値を加えた製品輸出による国益の最大化を図る露の方向性に合致
・欧州は脱炭素実現のために化石燃料に課税する国境炭素調整メカニズム(CBAM)を実施。露は既に肥料で課税対象。今後課税対象が拡大すれば、影響が大きいため露国内で議論されていた。露は国内の二酸化炭素吸収ポテンシャルが露が享受すべき「排出権」に等しく、このポテンシャルを現金化し、国境炭素税が課されることになる自国産業を法制・財政面で強化することを目指していた。
・【p.192】水素が抱える課題
・【p.203】露の二酸化炭素排出量と森林面積
・【p.211】検討される水素エネルギー
・【p.231】エネルギー安全保障とは、その国に「必要十分な量のエネルギーを合理的・手頃な価格で確保するとともにその確保に当たってはその国家や経済主体が意思決定や外交などの自由度を失わないこと」。その実現には、①エネルギー自給率の向上、②エネルギー供給源の多様化、③供給者との関係安定化、④緊急時対応能力の強化、⑤産業競争力の強化、⑥供給チェーンの安全確保が必要

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Posted by ブクログ 2023年10月12日

ガスパイプラインを巡る経緯、黒海の海底資源、西側の制裁とロシアの応酬 、脱炭素の動向 、水素やアンモニアの事情など、エネルギーの観点からアップデートな情報が紹介され興味深い。

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Posted by ブクログ 2023年09月18日

ロシアーウクライナ紛争について、エネルギーの面から考察した、新しい論説。
たた、旬なテーマだけに読むなら今しかない。
何年か経てから再読した時にどう評価するか?

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