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Posted by ブクログ
好きな作家さんなのでこの作品は単行本でも読んでいて、航さんの久しぶりの小説新刊というのと、こういう題材の小説を応援したい気持ちで今回文庫でも買っちゃいました。
正直、単行本で初めて読んだときは(アセクシャルの人が恋するようになる、という結末だけは絶対やだ、と思っていたのもあって)結末にいまいち納得がいかなかったのだけど、今回は素直にいい物語だったなと思えました。
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デビュー作『リレキショ』の冒頭で「大切なのは意志と勇気。それだけでね、大抵のことは何とかなるのよ」という台詞があって、「意志と勇気」というのは航さんの作品に度々登場するのだけど、アセクシャルを扱った今作では「意志と勇気ではどうにもならないこと」という使い方で登場しました。
私はアセクシャルじゃないけどXジェンダー(ノンバイナリー)という自認があって、Xジェンダーもその言葉を知って「自分はそれかも」とこれまでの違和感に納得がいく、みたいなのがあるあるなのでそれを思い出したし、「子供っぽいところあるから」「まだいい人に出会ってないだけ」のようなよく言われてしまう言葉とか、あとアセクシャルの中でもグラデーションがあることとか、そういう現実のことを書いてくれていたのは、書いてくださってありがたいというか、信頼できるなと思えた部分でした。
そして初読のときと読後感が違ったのは自分が年齢を重ねたからというのもあるかなと思っていて(24歳→29歳)、誰かと生きてゆきたい、でもこう生まれてきた自分にそれが叶うのだろうかっていう悩みの切実さへの解像度が上がったのかなと思いました。
少なくともその切実さに胸がギュッとなって、だからこそ最後に主人公が恋の欠片を見出したときによかったなと思った……。
どこかに向かって元の場所に帰ってくる(その旅の前後でキャラクターに変化や成長がある)というのは物語の構造としてよくあるけど、日々働くという日常からサバティカルという非日常を経て最後また転職先で働く日々に向かう、というこの物語もその構図で読めるかなと思います。
で、主人公梶くんが変化したか、どのように変化したかということを考えると、最後に芽生えた感情が恋だったかどうかを置いても、ずっと向き合わないでいたものと向き合えたという前進があったと思うし、そうして向き合えたからこそ求めていた家族に似た繋がりを見つけかけている、その途中で終わったのもよかったなあ。
自分が自分をどう定義するか、自分の気持ちをどう定義するかっていう部分に関しては「意志と勇気」をもって決めていけるところもある、というのが初読のときも浮かんだ感想で、どうしたって変えられない部分に対する折り合いとして優しい結末だなとも思いました。
帯やあらすじでアセクシャルが題材になっているのはわかっていても、実際そのトピックが出てくるのは結構後半で、サバティカルという非日常で出会いがあって、変化が起きたという展開は誰にも起き得る物語でもあって、だからこの物語はアクセシャルやマイノリティだけの物語ではなくて、それもよかった。
Trelloというタスク管理ツールが出てきたのも、プライベートとのTODOをそうやって管理するのは無機質な感じがしそうなのに、むしろ着実に状況が変わりつつあるのを示してくれるツールになっていて面白かったし楽しかった。
また何年後かに読んだらそのときは違う感想を持つのかな。でもそういう楽しみもできた読書でした。