【感想・ネタバレ】井上哲次郎と「国体」の光芒:官学の覇権と〈反官〉アカデミズムのレビュー

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Posted by ブクログ

本書は、帝国大学文学部哲学科(現・東京大学人文社会系研究科・文学部哲学研究室)において日本人初の哲学教授となり、その後、大東文化大学の前身である大東文化学院の第二代総長なども務めた井上哲次郎(1856-1944)の国体思想を論じた研究書である。

井上は、草創期の東京大学に入学し、フェノロサや中村正直などに師事、ドイツ留学を通じて西洋哲学の移入につとめ、はじめて日本の思想を西洋哲学の手法で論じた学者であった。しかし同時代人からは「曲学阿世の巨魁」として見られ、後世の研究者からは「体制派イデオローグ」の一人として括られてきたため、これまで彼の思想について十分な検討がなされてきたとは言いがたい。本書はそうした井上の思想を再検討しようとしたものである。井上の思想についての理解を深めることは、さまざまな西洋の哲学や思想が流入してきた明治期以降、日本の思想がどのような可能性をもっていたのか、あるいはその陥穽が奈辺にあったのかを明らかにする上で重要だからである。とくに本書では国体という非常に広義かつ独特な概念をめぐっての井上の議論に焦点を合わせつつも、同時に国体概念の器に何を盛るのかという官学アカデミズムと反官アカデミズムのせめぎ合いが時代背景ととともに論じられている。

著者は、序章において国体をめぐっての議論が盛んにおこなわれた時代を、「『国体』の時代」として捉え、丸山真男などによる国体に関する先行研究を挙げながら、「いずれの研究も国体論の多元性を示すものである」(p.13)が、それらはいずれも国体論という「磁場の極に対するものであって、磁場の中心を課題としたものではない」(同上)とする。磁場の中心、つまり国体論を生産し、一般への伝播を担っていたのが、「東京帝国大学であり、彼らを中心とする修身教員・教科書会社・学校関係者のサークル」(同上、著者はこれを〈官学アカデミズム〉と呼んでいる)であり、井上はそのサークルの中心に長く君臨した人物であった。

(続きは別媒体で。なお未定稿に付き引用禁止。)

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2024年01月01日

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