感情タグBEST3
Posted by ブクログ
マイ“ドストエフスキーブーム”の中で、亀山郁夫さんのこの新刊に出会えたのはラッキーだった。亀山先生はNHKの「100分de名著」でもドストエフスキーを解説された専門家。温厚そうなお人柄と語り口調がそのまま著作にも表れている。とにかくドストエフスキー愛が半端ではない方だ。
ご自身の持論だけではなく、様々な研究家(有名無名を問わず)の指摘や発見も紹介されていて、ドストエフスキーが小説の中に仕込んだ謎を露わにしてくれる。
主人公ラスコーリニコフは、選民思想(しかしこれには矛盾が多く、実際は傲慢からくる誤った意志の力)により殺人を犯すが、その背景には宗教、歴史、政治のパノラマと、そして何より作者ドストエフスキーの自伝的要素が、象徴化され散りばめられている。が、それらディティールを全てつぶさにしたところで、この作品の持つカオスは簡単に語り尽くせるものではないだろう。読み手側も、自分が一生を生きてみても、到底、理解できるテーマではないのかもしれない。神への信仰があるかないかで180度読み方が変わってしまうと先生が語るように、完全に哲学の世界である。
ドストエフスキーが明快に示したメッセージは、この作品のラストシーンに象徴されるように、「生き続けよ」ということなのだろう。