あらすじ
全体主義の時代の基底へ
2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻し、戦争が始まった。
戦争が始まってから、大量の情報が流れてくる。プーチンの思惑やゼレンスキーの戦略、東西の軍事的分析がその中心にある。
戦争を受けて書き下ろされた本書が注目するのは、『全体主義の起源』を書き、ナチスドイツとソ連の体制の〈嘘〉を暴いたハンナ・アーレントである。
というのも、ブチャの虐殺はじめ、多くの「事実」が〈嘘〉によって歪められているからだ。
こうした事態はいまに始まったことではない。むしろ全体主義体制の本性といえるかもしれない。欺瞞や虚偽は心地よい。圧制下の人々は不意打ちしてくる飾りのない真実より、心地よい嘘を好むのだ。
そして、この戦争をアーレントと同じ眼差しで眺めているのがウクライナの映画監督セルゲイ・ロズニツァだ。彼による『バビ・ヤール』が本書の拠り所になっている。キーウ近郊のバビ・ヤールは「銃殺によるホロコースト」が行われた痛ましい場所だ。
心地よい虚偽にいかに抗していくのか? 本書では、アーレント=ロズニツァに寄り添いつつ、「真理の語り手」の意味を考える。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
アーレントを通じて、ウクライナ情勢を読む、というのは、わたしがここのところ考えていたことと一緒。
アーレント解釈という点で、なにか新しい視点があったかというとそうでもない。アーレントは著者の専門分野ではなくて、どちらかというと、アーレント的な問だてを意識したところでのウクライナ情勢の分析というほうに力点は置かれているのかな?
ウクライナ情勢は、ウクライナな映画作家セルゲイ・ロズニツァの作品と重ね合わせながらなされており、単なる状況分析ではないリアリティを獲得していると思う。
それにしても、20世紀前半の戦争と革命、全体主義の暗い時代を生きたアーレントがリアリティがでてくるのは不幸な時代という著者のぼやき?はほんとそうだなと思った。
今や、時代遅れの全体主義理解で、現実はもっと違う形での支配構造になっていると思っていたオーウェルの「1984」がなんとリアリティをもってしまう現在。
こんなあからさまな権力行使が現在でもありうるんだという衝撃がある。