【感想・ネタバレ】ウクライナ戦争をどう終わらせるか 「和平調停」の限界と可能性のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

本書は、ウクライナ戦争の想定される終結シナリオとして、次の5つを紹介しています。
①破滅的なシナリオ
ウクライナに傀儡政権を樹立することのできない追い詰められたプーチン大統領が、何をするかわからない行動にでる「戦慄すべき」シナリオです。
核兵器を伴う世界大戦を示唆しています。21世紀の現在に、そんなことがありうるのでしょうか。
非常に怖い話ですが、死者の数も数桁上がるでしょうし、世界が破滅とまではいかなくとも、それに近い惨状が予想されます。
どちらの政治家も、それを回避してくれなければ困ります。
②汚い妥協
停戦およびロシア軍の撤退と引き換えに、ウクライナがNATOに加盟しないことを約束。さらにウクライナ東部のドンバス地方のロシア編入を認め、西側諸国のロシア制裁解除をするというシナリオ。
このシナリオは、成立する可能性が低いとしています。
プーチン大統領は、ウクライナを傘下に置く目標を達成できず、ウクライナも領土の割譲を認めるわけにはいかないからだとしています。
最後には、双方が満足する妥協点の探り合いになるのでしょうが、その着地点までは相当時間がかかりそうです。
③プーチン体制の崩壊
ロシアの政権内部からのクーデターを含め、ロシアの人々がプーチンを大統領の座から、追い出すというシナリオです。西側にとって最善のシナリオです。
しかし、このシナリオはのところ現実性がないと思いますね。ロシアの世論調査でも、プーチンの支持率は、今でも8割前後で推移しています。
この支持率を見ると、ロシア国内では、プーチン大統領の主張は一定程度以上に受け入れられていると判断せざるを得ないと思います。
④西側諸国対ロシア・中国圏で経済圏が次第に分離
中国がロシアの原油・天然ガスを買い続けた場合、中国への批判が強まる。
中国が、原油・天然ガスを買い支えることへの批判から、西側諸国とロシア・中国圏で次第に経済圏が分離するというシナリオです。
しかし、著者も、今のところ、この第4のシナリオに突入することは中国・アメリカともに避けようとしていると判断しています。
⑤中国とトルコが働きかけ、ロシア軍が停戦・撤収
ロシアの経済的な命綱を握る中国と、友好関係にあるトルコが交渉役となるシナリオです。
ロシア軍が停戦・撤収し、ウクライナ側はNATOに入ることを目指さず、他の形の安全保障体制に入り、そのことでプーチン大統領の面子を保ちつつ軍を撤収する。
どのシナリオも、実現には難しい問題を抱えていますが、①「破滅的崩壊」はとんでもないシナリオですし、③「プーチン体制の崩壊」は今のところ期待はできないでしょう。
④「経済圏の分離」は、日本経済にも大きな打撃が予想され、その程度によっては世界的経済混乱まで進む可能性があります。これもとんでもないシナリオですね。
そうすると、⑤「中国・トルコの仲裁」で②「妥協」を探るシナリオが現実的なのでしょうか。
これらの戦争終結への進行について、本書の考察はまだまだ続きます。
著者は、過去の戦争を考えるときに、戦争というものは「軍事的勝利」と「交渉による和平合意」のどちらかしかないと言い切ります。
そうだとすると、核大国であるロシアに対して全面的な「軍事的勝利」というものは存在するのかと語ります。
6000発の核兵器を持つロシアが、敗戦を認め撤退することがあり得るのかと問うのです。
しかし、同時にそれが核大国が戦争に勝利するといったものでは無いと言います。
むしろ第二次世界大戦以後に大国が小国に進行して、傀儡政権をつくる試みはほとんど失敗して、大国が撤収することで戦争が終結したケースがほとんどだというのです。
著者は「アメリカのベトナム戦争」「ソ連のアフガン戦争」「アメリカのイラク戦争」「アメリカのアフガン戦争」を取り上げて論拠としています。
すべて、大国が小国に軍事侵攻し、最後は交渉により撤退しているのです。
このウクライナ戦争は、どちらも完全な勝利はできないのでしょう。しかし、ウクライナ側にしてみれば、ロシアを撤退に追い込めば実質的な「勝利」だというのです。
その「撤退」をどこまでさせるのかが、これからの戦場の勝敗で決まってくるのでしょう。
ウクライナ戦争は、昨年2022年2月24日のロシア軍の軍事侵攻から始まりました。
その後の3月29日に、トルコの仲介のもと、トルコのイスタンブールでウクライナとロシアの交渉団が交渉を行いました。
後から振り返れば、この時がロシアとウクライナが停戦と終戦に向けて最も近づいた日であったと本書は書いています。3月29日の和平調停です。
それが、キーウ周辺でのブチャでの民間人殺害が明らかになることにより、停戦交渉はとん挫しました。
著者は、アメリカの複数の米国高官の話として「2022年4月の段階で、ロシア軍は2月24日の侵攻前のラインまで撤退し、クリミアとドンバスの一部は実効支配を続ける。ウクライナ側はNATO加盟を求めず、他の国々からの安全保障を享受すると」いう内容だったと書いています。
この停戦案は、現地交渉団レベルでは一旦は合意できていたというのです。
しかし、今後いずれは停戦交渉が行われるでしょうから、この案が、内容は変わるかもしれませんが、再び浮上してくることは十分に考えられますね。
本書は、後段で「経済制裁」や「領土問題」「難民支援」「国際貢献」など多岐にわたる課題を取り上げて、諸課題の解決への道を検討しています。
それぞれが、いろいろ考慮すべき点が満載の事項ばかりで参考にはなりましたが、小生が一番興味を持って読んだところは、これまでに紹介した「戦争の終結」についてでした。
一日でも早く、ウクライナ戦争が終結することを望みます。本書は、ウクライナ戦争の終結の難しさがよくわかる本だと思いました。

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2023年03月19日

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