【感想・ネタバレ】マナートの娘たちのレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

シリアから子供の頃アメリカへ移住してきた著者による、シリア系移民を書く短編集。アメリカ社会において白人でも黒人でもないアラブ人の寄る辺なさが印象的だが、単純な構造の差別を書くのではない(ので出版社がなかなか見つからなかったらしい)のが面白いと思った。
静かな文章の中に静電気のように漂う怒りを感じるが、それはいったい何に向けての怒りなのかはあいまいだ。シリア系移民たち自身がイスラム文化にも帰属できず不信仰なふるまいをしていたり、シリアのアサド政権下でいい思いをしていた過去があったり、自らも差別をする姿もありと複雑な内容で、彼らの出自は文章中でも隠すように回りくどく示される程度だったりする。自分たちの生を何かの形式に落とし込まれるのを徹底的に拒否しているような、そんな態度だ。
「わたしたちはかつてシリア人だった」では、難民の数や国境線という明快な要素、人間は平等という建前から滑り落ちる個人の人生(かつてのシリアでの不正による贅沢な暮らし、そして没落生活)を姪孫に切々と訴えるおばあちゃんが書かれている。最後に彼女は「だけどお願い、わたしは今、なんて呼ばれるのかしら?」と問いかけるけれど、これが非難ではなく、許しを請うでもなく、まっさらな若い姪孫へ自分の存在まるごとを託そうとする言葉なのだというのが、切なくも希望を感じる。

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2023年07月07日

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