あらすじ
『ゆでめん』から53年、はっぴいえんどとは何だったのか?
細野晴臣、大滝詠一、松本隆、鈴木茂から成る日本のロック・バンド〈はっぴいえんど〉の影響力は、それぞれの活躍により、より一層大きなものになった。しかし、その魔法のような音楽がどうして生まれたのか? どんな風に組み立てられていったのか? 70年代初頭の風景にどう共鳴していったのか? 納得のいくような説明を描く本に出会ったことがない。本書では、膨大な資料や、関係者インタビューをひもとき、60年代に彼らが音を出す瞬間までの道のりと、あの音楽が生まれた1970年代初頭のリアルな彼らを現代の視点から描き出す。『ゆでめん』から53年、その現場や、その音楽性の真実に触れながら、今こそ勇気をもって、はっぴいえんどの正体を語り尽くそうではないか! 著者は、パール兄弟他で活躍するミュージシャン・サエキけんぞうとはっぴいえんど人脈とも交流がある評論家、篠原章。
【目次】
序 たとえば渋谷とはっぴいえんど
第1章 はっぴいえんどができるまで
第2章 はっぴいえんどのバックグラウンド(1)~米軍基地と夜遊びカルチャー
第3章 はっぴいえんどのバックグラウンド(2)~反戦・反体制カルチャーとURC
第4章 はっぴいえんどと漫画カルチャー~『ゆでめん』は『ガロ』、『風街ろまん』は『COM』である
第5章 『ゆでめん』は『ア・ロング・バケイション』?
COLUMN はっぴいえんどファンの原像
第6章 ミッシングリンクを埋める幻のライブ発見!
考察 「ゆでめんリスト」から読み解くはっぴいえんどの世界観
第7章 はっぴいえんどの新機軸~「です」調ロック語法とその影響力
第8章 3枚目『HAPPY END』の〝飛航〟状態
第9章 はっぴいえんどは日本とアメリカに「さよなら」できたのか?
COLUMN はっぴいえんどラスト・コンサート~1973-9-21~リアルな体験記
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Posted by ブクログ
永遠の名曲、パール兄弟の「バカヤロウは愛の言葉」に倣って言えば、本書はサエキけんぞう・篠原章の「はっぴいえんどは愛の言葉」、二人の「はっぴいえんど愛」が溢れかえっています。ただしその愛は、はっぴいえんどに心を持っていかれたファンの言葉としてではなく、音楽家と学者というプロフェッショナルとプロフェッサーというダブルプロとして語られています。最近、はっぴいえんどを日本のロックのはじまりとして語る神話に疑問を投げかける論考にも触れたりしますが、世界的な音楽の流れの中での偶然が必然となった特異点がこのバンドであることは間違いありません。今回、その特異点が生まれる源流として米軍基地の子弟たちの私設放送局「Radio T-e-e-n」がFEN「Teenager On Parade」になっていくというアメリカのポップスの流入経路を明らかにしていること、「中川三郎ディスコティック」を嚆矢とする、いやいや鹿鳴館文化人脈まで遡る「夜遊び文化」を指摘していること、また、その真逆の日本の反体制運動と音楽の関係をつまびらかにしていること、そこにはURCというレーベルや岡林信康というミュージシャンで、はっぴいえんどに直接繋がっていくこと、そんなこんな日本音楽平野を流れる川の支流をいちいち挙げていて、なぜあの時代にはっぴいえんどが生まれたか、を語ろうとしているのが丁寧です。一方、4人が直接影響を受けた人々のリスト、「ゆでめんリスト」の名前をこれまたいちいち解説している章も秀逸で、特にミュージシャンやバンドやアルバムをいまさらにYouTubeで検索して聴きながら読むのは濃厚な読書時間となりました。あの時代、彼らの音楽を作った原材料の音楽に浸ることは1960年代最終の世界音楽潮流を感じる体験でした。そして4人は出会い、まさに、はっぴいえんどはその後に音楽にとっての、はっぴいすたあと(?)地点になって、別れていくのです。やはり、神話か!ユーミンがデビュー50周年を迎え、村井邦彦が日経新聞「私の履歴書」で人生を振り返り、高橋幸弘と坂本龍一が召された、このタイミングでこの本を手にしたのもちょっと偶然?必然?