あらすじ
戦国時代の主役は大名でも武将でもない!
ヒトとモノのエコシステム=生態系が、中世日本のダイナミックな変動を生み出した!
戦乱が多発したのみならず、寒冷化という気候変動もあって、当時の列島は生物種としてのヒトにとって、きわめて生存が厳しい環境であった。
そのような「戦場」を、庶民たちはどのようにしてサバイバルし、時代を動かしたのか?
本書は、戦国日本とはいかなる時代であったのかという問いに対し、庶民の主体的な行動が歴史の動因であったことに注目して、ひとつの答えを示そうという試みである。
海・山の動植物が織りなす生態系と、そこから恵みを得て生活を営む人々の社会システムを一つの系としてとらえ、戦国の動因を描き出す、斬新な〈生態学的アプローチ〉による中世史像!
【本書より】
考えてみれば、信長や秀吉など英雄たちが「新しい世の中」をつくるために行ったとされるさまざまな政策やドンパチやった戦争は、結局のところ、庶民がそれに従ってくれたからこそ成り立っており、また、庶民が生業を営む中で生産し供給するさまざまな財やサービスを消費することで成り立っていた。徴税は庶民が納税してくれるからこそ可能だし、戦争は庶民が食糧や武器などを生産し供給してくれるからこそ可能である。
【主な内容】
はじめに たくさんの「久三郎たち」の歴史
序章 生存戦略、生態系、生業――越前国極西部
第一章 山森林の恵みと生業ポートフォリオ――越知山
山森林の生態系の恵みと多様な生産/資源分配をめぐるせめぎあい/柴田勝家と森林史の近世化
第二章 「海あり山村」の生存戦略――越前海岸
生業は海岸部だけで完結しているか/海の生態系のさまざまな恵みと技術革新/行政権力が生業技術を求める
第三章 工業も生態系の恵み――越前焼
大量生産化と資源分配―考古学的知見が語る生産戦略/売る、組織整備、新アイテム――記録が語る生産戦略と近世への助走
第四章 戦国ロジスティクス――干飯浦と西街道敦賀
馬借たちの生存戦略と競争/水運業者たちの生存戦略と広域的な経済構造
終章 「久三郎たち」の歴史、ふたたび
凡例
参考文献
注
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
越前国極西部に視軸を置き、動植物が織りなす生態系とそこに生きる人々の社会を一つの系として捉え、庶民の立場から戦国時代を描き出そうとする内容。海・山の資源利用、窯業の展開、それらを結ぶ物流の詳細な実態がとても面白い。
Posted by ブクログ
『生存戦略』本作の最重要キーワード。決してピングドラムでは無い♪
さて本書の語る、天然資源の利用と再生を巡る、庶民の生業と戦国大名政府と領主層の、相剋と依存と均衡を頭に入れて歴史小説(戦国に限らず)を読むと、お馴染みの英雄史観と少し違う世界が広がります。
とにかく庶民がしぶとい。
納税と労役を人質にとり、地元の領主や大名政府とハードなネゴを押し引きして、支援を引き出したり権威を利用したり、必要ならネゴならぬコネを駆使して、己の既得権益守り他人の権利を侵しと、もう庶民やりたい放題。
騙されイビられ、場合によっては棄てられかねないご領主さまが可哀想になるほど。
小氷期のもたらす天候不順が飢饉と兵乱を巻き起こす乱世に、喰えるものは総て食い、使える物なら武士も坊主も使い倒し、農業や漁業に拘らず製塩焼物細工貿易等々と何でもやる多角経営に八面六臂の大活躍な漁民農民……庶民?
とにもかくにも生き残り、明日のお天道様を拝むのだって感じに奮闘する戦国一般ピープルの逞しい生の躍動を、少ない資料から情報を拾い集め、データにまとめて鮮やかに炙りだす事に成功した良書です。
あれだな、なろう系で領主モノ書こうとしてる人とか、参考にとても良いかもね。
知多半島民としては越前焼の考察の章で常滑焼が繰り返し引き合いに出されて、当たり前にある地元の伝統工芸の偉大を知った感じね♪