【感想・ネタバレ】夢も見ずに眠った。のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

・絲山秋子の小説って「海の仙人」とか「沖で待つ」とか「離陸」とか「薄情」とか、思い切りのいいタイトルが多いので、え、いきなり「。」つきのタイトルってなんか秋元康っぽくね。と、戸惑ってしまった。ために購入後少し時間を置いてしまった。
・スレた人間なので、小説を読んで泣いたなんていう経験はほぼない。が、本作は2回、鼻の奥がツーンと来る経験をした。それを悔しいとは思わず、嬉しいと思った。
・2011年に36歳だというから、1983年生まれの私より8歳年上の、夫婦の話(生年は1975年生まれだろう)。作者は1966年生まれなので、だいたい10歳くらい年下を想定したのだろう。その夫婦の1998年から2022年を描く。つまり24年、およそ四半世紀を捕捉する小説だ……ざっくり「新世紀エヴァンゲリオン」のテレビ放送から「シン・エヴァンゲリオン」までと捉え直してもよさそう。
・といっても基本的には中年の話で、主には30代後半から40歳前後。つまり読者たる私にしっくりくる年齢感なのだ。そして狙い通り、ばっちりのめり込んでしまった。
・というのも、今はなんとか誤魔化せているとはいえ、パニック発作経験者。電車がヤバい時期に妻の運転でよく帰っていたな、と約10年前を懐かしく思い出す。第3章の沙和子のカラッとした態度に、支えられた側なのだ。
・また本作、旅行記・観光記でもある。広島住まいの私にとって、埼玉や北海道の土地勘はないが、冒頭の岡山のくだりや、ラストの松江とか三次とか東広島とかは、まざまざと眼に浮かぶので、嬉しい……絲山秋子が取材で来たんだろうなと想像する以上に、高之と沙和子という人物が、本当に「あのあたり」にいたような気がする。横田の棚田が「土地って神様の手なんだな」という直感で言及されるが、仕事でその辺をよく走る自分の状況すら、この小説に出会うための伏線だったのかも、と思える(cf.宮崎駿「もののけ姫」のタタラ製鉄)。
・この、今まで生きてきた経緯と、目の前の事象が響き合って、当人にとって強烈な感動が自然に生まれる、という経験が、第9章と第12章で描かれる。高之と沙和子にとっての経験は小説に描かれた通りだが、読者たる私も、この小説を読むことで、彼らに似通った経験をしたと思う。
・思春期、中島らも「水に似た感情」を読んだ。〈こうしてみると、島は確かに人間に似ている。それぞれが孤立していて他の島と隔絶されている。月満つ夜、島は狭くなり息苦しくなる。干潮のときには広くなってゆったりと息をつく〉でも潮が引いて海水がなくなったら?〈バリ島もロンボク島もスンバワ島も「島」ではなくなる。地続きのひとつの大地になる。岡か山があるだけだ。もう孤島ではない。人間もそうなのではないか。我々は時間軸と空間軸に沿って点在している。0.何ミリかの皮膚によって外界と遮断されている。個というものだと自分を意識している。そうだろうか。「海の水」が引いてしまったらどうなる。ひとつの全体、大地があるだけだ。地続きだ〉。ある島で猿が芋を海水につけて食べる。同時に遠く離れた島でも。〈我々は確かに島だ。だが根底のところでは地続きになっている。だから何が起こっても不思議ではない。そういうことではないだろうか。いや、そういうことだ〉
・これ、実はジョン・ダンの「人は島嶼にあらず」で、ヘミングウェイ「誰がために鐘は鳴る」のエピグラフに引用されている(大久保康雄訳「なんぴとも一島嶼似てはあらず なんぴともみずからにして全きはなし、人はみな大陸(くが)の一塊(ひとくれ)、本土のひとひら」)。そもそも「誰がために鐘は鳴る」は該詩の一部分。さらにそれを村上春樹も「ねじまき鳥クロニクル」で引用しているくらいだから、インテリには当然の詩句なのだろうが、らもさんの小説に、いま、絲山秋子が並んで、私にとって特別な作家になった、と思う。ここ十年ずっと追っている作家に対して、大袈裟かもしれないが、思春期に埋め込まれた作家と、中年以降に知った作家が同列に並んだというのは、結構なことで、いわば列聖したということ。それだけ感動した小説。これは極私的な読書体験だと思う。
・また最近気づいたが、現在の自分が過去の(幼い)自分を抱きしめる、という構図に、弱い。ほぼ相米慎二「お引越し」を念頭に置いていることだが、本作でも、それがある。第9章。「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」にも、あるのだよ……と唐突に。
・細かい「よさ」として気づいたのは、義理の親との距離感について。高之の母を、沙和子は慕っているし、沙和子は母をどうしても許せないが、高之は義父母の寛容さに救われている。この、直線ではなく、交差しているからこそ生まれる感情って、結婚した中年にならなければ、なかなかわからんのよ。
・本筋は高之と沙和子のふたりに視点に寄り添うのだが、一瞬だけ親戚の渡部鈴香視点が差し挟まれたり、過去編ということで大学生当時が描かれたりすることで生じる、抜け感……と不用意に自分に馴染んでいない語彙を使ってしまったが、肩の力が抜けて大きく深呼吸できるような瞬間が、読んでいて何度かあった。作中ルールから少しはみ出す破調が、快い。
・知っていてあえてかもしれないのでいわずもがなかもしれないが、2010年、まだLINEアプリはない。

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2023年04月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

冒頭の岡山旅行では「勝手な旦那さんだなぁ」と思ったし、そりゃ奥さんも機嫌悪くなるよなと思った。
旦那さんは非正規雇用で婿養子でもあり、精神的にしんどいだろうなと思ったら、やはり鬱になってしまった。そういう面で同情的な気持ちもあったが、やはり旦那氏は奥さんの気持ちをもう少し考えるべきだと思ったし、話し合うべきだと思った。離婚の決断も勝手だと思う。
ただ、引き込まれて読んでしまったし、旅先での話とか聞いていると、旅行したいなぁと。絲山さんの作品は昔に逃亡くそたわけとか読んだことあるけど、また改めて読んでみたいなと思った。

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2023年10月19日

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