【感想・ネタバレ】私のことだま漂流記のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

この本を手にするきっかけは、『私のことだま漂流記』出版記念のトークショーに参加したことにある。昨年の11月、まだ季節も冬になりきれていない頃、武田砂鉄が司会を務めたトークショーで本作についていろいろな質疑が交わされたが、もともと本作自体が山田詠美の幼少期からの生き様を描いた自伝のような話なので、トークショーもいきおい山田詠美が自身について語る、という流れであった。さすがにトークショーでは、少女時代を脱して夜の街を闊歩する話は生々しすぎたのか出てこなかったけれども、文学少女だった頃から言葉へのこだわりはすでに身に着けていたようである。
かくして、発売直後に、私の許にもサイン本が送られてきた。トークショーではサイン入りポストカードをいただいたので、図らずも山田詠美のサインを二つも手に入れた。池袋で行われたトークショーは、そう考えてみると実にコスパの良いイベントだった。

年も明けて2023年の正月、いよいよ待ちに待った時である。何もしなくてもよい正月とは、すなわち「何をしててもいい時間」が豊富にあることを意味する。そこで一気呵成に『私のことだま漂流記』を読んだ。普段は細切れの時間をつなぎ合わせて本を読み進めるが、この本はそうせずに一気に読んでみたかった。
山田詠美の愛らしいサインを今一度見てから、まだインクの匂いも濃い本を開いた。
転勤を繰り返している中で、転地を繰り返していた少女時代。すでに彼女が作家になろうとする萌芽はあった。彼女の生活に、本はすでに不可欠なものになっていた。表題にもある「言霊」の力を、彼女はすでに体感的に会得していたのではなかろうか。
その後、大学に入学し、いわゆる水商売に手を染めた。新宿ゴールデン街という、今聞いても近寄りがたいところから出発した水商売も、紆余曲折の中でやがて銀座まで流れてゆく。一方で、六本木や赤坂での様々な出会い。その中に、彼女のデビュー作の題材ともなったブラックカルチャーとの出会いがあった。このあたりを、山田詠美は本作のなかで赤裸々に描いている。
やがて彼女は、横田基地のある福生に行った。相変わらず、彼女の傍らには黒人が不可欠だったが、いわゆる東京とはやや距離を置いた生活を送るようになった。基地に務める軍人との生活を送りつつ、彼女のデビュー作はそのアパートメントのダイニングテーブルで書かれたらしい。そして、首尾よくデビュー作『ベッドタイムアイズ』を世に送り出し喝采を浴びるのだが、同時にそれは、彼女にとって誹謗中傷との闘いの始まりだったようである。

そのあたりの話から山田詠美は「言霊」の威力をいかんなく発揮する。世間の大衆迎合的な誹謗中傷への反論としての呪詛の数々が述べられる。曰く「白人とのラブアフェアは許容されても、相手が黒人となるととたんに誹謗中傷となる」。曰く「私は『女流』という言葉が嫌いである」。等々。
先生と崇める宇野千代をはじめ、数々のステキな先達との出会いに助けられたことが書かれる一方、デビュー作で山田詠美という人物が世間に知られるにつれ、かつての新宿ゴールデン街での生活や、黒人男性との付き合いそして結婚などが、メディアでおそらくはそれなりの尾ひれをつけられて世間に開陳されてゆく。本来は小説家として評価されるべきだが、大衆はそんなことそっちのけでふしだらな「女流」作家なる山田詠美という属性ばかりをあげつらう。
もしかしたら、デビュー直後のこの誹謗中傷がなかったら、この自伝も世に出ていなかったかもしれない。少なくとも(特に後半の)呪詛に満ちた「言霊」の威力を見せつける話にはなっていなかったように思う。

本作の中で、山田詠美は、自身を「嫌なことは決して忘れない」性格と述べている。トークショーでも、自身の口でそうした話をされていた。
だが、山田詠美はその場でむきになって反論したりはしない。「嫌なこと」は彼女の中で熟成される。いつか書くことのできる時まで。機が熟したとみるや、山田詠美は「言霊」を駆使して呪詛を述べるのだ。
初めての山田詠美の作品として、もう遠い昔だが、『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』を読んだとき、一つひとつの言葉がどれも洗練されていることに驚いた。それ以来、自分の中では、山田詠美は「言葉の魔術師」ということになっている。つまり山田詠美は言霊使いなのだ。
失礼ながら還暦を迎えられた山田詠美が、このタイミングで『私のことだま漂流記』を世に出した気持ちはわかる気がする。2023年を迎えて最初に読んだのが本作である。だからという訳ではないが、あらためて原点を見てみようという意味で、デビュー作『ベッドタイムアイズ』を読み始めた。

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2023年01月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

10~20代に1番読んだ作家さん。懐かしいタイトルが沢山でてきて本当に幸せな一気読みでした。
とくに沼った原点でもある『放課後の音符』。私も娘ができたらぜったいに読んでほしいって思っていたからファンレターの話に痺れました。
それと同時に山田さんが自身のサイン会に来る女の子はおしゃれで可愛いと評判だとインタビューで答えられていたことも思い出し、そうなんだよ、山田詠美を読んでいたら可愛いくてクールになるんだよと。もう本当に大好きです。
あと、何気に面白かったのが文字の復讐。あの2名、思わず検索してしまいました。山田少女を虐めた子も、ずーっと悪事が残ってしまうね。

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2022年12月18日

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