【感想・ネタバレ】マジカル・ラテンアメリカ・ツアー 妖精とワニと、移民にギャング(集英社インターナショナル)のレビュー

\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ 2024年02月28日

中米を旅し、メキシコに数年住んでいた身として、ラテンアメリカにはいい思い出が多い。スマホも自転車も盗まれたことがあるし、代わりに市場で買ったiPhoneも偽物だったのだが…。それらの経験があっても、沢山の温かい思い出で上書きされている。この本はどんな本かな、と楽しんで読んだ。
ワクワク楽しそうな表紙...続きを読むイラストとは裏腹に、著者はマスコミの立場で中南米のトピックをインタビューすることが多い立場上、困難な状況にある人々のエピソードも多く、彼らの言葉(文)は、その場に居合わせていない私でも引き込まれた。
中米が好きな人、行ったことがなくても関心を持っている人はぜひ読んでほしい。日本にいるだけでは想像しにくい、地球の反対側の人々の一つの暮らし、考え、生き方が一つ一つのエピソードから伝わってくる。

以下、本文からの一部引用
p57
(大使館の)係官が言った。
「君、ベネズエラは初めてだろ・・・・・・楽しんできてな」
「あ、ありがとうございます」
不意の一言だった。「楽しんで」。母国は大変な状況なのに、その言葉は彼から自然に出てきたように感じた。

p123
「広島は、壊された街のイメージしかなかったんだ。それが、実際に行ってみたら、全然違ったん だ。発展していて、人が住んでいて…」
うまく言葉にならない気持ちをどうにか伝えようとしているのがわかった。イメージのヒロシマと、実際に行った広島は全然違っていた、と。その後、オトニエルとアンドレアにも聞いた。彼らも広島が一番だと答えた。彼らのヒロシマは、広島になったようだった。それがコロンビアの戦後とどうつながるのか? それは彼らにもぼくらにもわからなかった。実際に行ってみるということはそういうことなのかもしれない。ぼくらがゲリラ兵の村に行ったように。

p207
「ギャングだよ。ギャングに、村から消えろと言われて。だから家から出ることができないんだ ・・・・・・俺の家族の家に行こうとしたら、男が突然現れて、ここは通れないと言われたんだ。家族の家 に行くだけさ、俺は地元の人間なんだと言ったら、突然、3人の男が現れて袋だたきにされたんだ。それで、お金を要求されるようになったんだ」
「・・・・・・アメリカに渡ったら、なにがしたいですか?」
しばらく考えた後、イリスは答えた。
「家を手に入れたいの。誰もわたしたちを追い出すことができない家を」
そして、微笑みながら答える。
「たしかに行くのは、怖いけど・・・・・・怖いのと、希望が半分ぐらいよ」
「そう、ですか」

ー中略ー

「え…お母さん、一緒に行くんですか?」
深い沈黙があった。今日は、長い沈黙が多い。人生の岐路に立つ人に立ち会うと、自然とこうなってしまう。そして、イリスはゆっくりと口を開いた。
「…………いいえ。母は喋れず、耳も不自由だから、この旅路が大変だと思うの。わたしが向こうに無事に行って、生活が落ち着いたら、そのときに母を…………」
母と娘は見つめ合った。イリスの母親は、ニッコリと笑っていた。そして、彼女の腕を静かにさすった。聞こえていないはずのその言葉が、しっかりと母親の胸には届いているように見えた。
帰りがけに、イリスは、ぼくの方に近寄ってきた。 「まだ、わからないの、本当は。母さんをここに1人で残して置いていけるのかって。でも、母さんは……」
カメラが回っていないときのふとしたつぶやき。彼女の苦しみが伝わってきた。後ろにいた母親は、ずっとこちらを見ながら笑っていた。

p220
彼らは英語では本音は言えなかったのかもしれない。彼らにとっ て英語は本音を言う言語ではなかった。だから、ぼくがスペイン語を話すことがわかると、決まっ て彼らは饒舌になった。まるで言語と一緒に性格も変わってしまうかのように。そして、色々と教えてくれるのだった。そこでどんな暮らしをしているのかを。どんなものを食べ、どんな音楽を聴き、どんな恋をしているのかを。
「なあ、ショータ、俺がアメリカに来たのはさ・・・・・・」
ぼくは、いつも耳を澄ましてその声に耳を傾けるのだった。



p242
ぼくは、彼の気恥ずかしそうな笑顔を見ながら、これまでの取材で出会ったたくさんの人を思い出していた。いろいろな人が、インタビューをした後にぼくに言った。「聞きに来てくれてありがとう」と。いままで誰も話を聞きに来てくれなかった。だけど、初めてあなたたちが来てくれた。 そして、話すことで、わたしは気づいた。わたしは、深く傷ついていたんだということに。その言葉は、ボリビアで先住民のドキュメンタリーをつくったときにも、メキシコの燃え盛るフェミニズム運動の行進のなかでも語られた。
時に、言葉が遠い人だからこそ、語ることもできることもある。



p257
ぼくはいつも 「いない叔父さん」だった。彼女(姪、メキシコ人)の洗礼式のときには、グアテマラに撮影に行っていた。彼女の発表会のときには、キューバに撮影に行っていた。家族が集まるとき、ぼくはしょっちゅう不在だった。だから、ぼくがたまに家族の集まりに顔を出しても、みんなぼくとどう接していいのか戸惑っていた。ある日突如やってきた外国人で、外国を転々としている男。ぼくの取材の話をみんな聞いてくれるけど、放送される番組はほとんど「日本語」でつくられた番組。反応は薄かった。それは そうである。「ラテンアメリカ」と言っても(メキシコと)違う国の話。遠い世界の話を、遠い世界からやってきたおじさんが話しているだけ。少なくともぼくはそう感じていた。ぼくは、ラテンアメリカの世界を映しながら、一番伝えたい人たちに伝わっていないように感じていた。だから、次第にそんな話自体を避けるようにもなっていた。
でも、彼女はぼくを見ていた。ぼくの仕事を見てくれていた。



0

Posted by ブクログ 2023年01月17日

『戦争とバスタオル』の金井真紀さんのTwitterで見てジャケ買い。ラテンアメリカにもほとんど予備知識なく読み始めたのだけれど、メキシコ在住の著者さえ、もともとなにも知らなかったと言うのだから、それも大当たりだった。ラテンアメリカ‥まさにマジカル。おもしろかった。

0

Posted by ブクログ 2024年01月10日

初の著書らしいので、まずは著者の嘉山氏について軽く触れておきたい。
日本の映像制作会社を退職後メキシコに移住。現地では撮影一切を取りしきる撮影コーディネーターとして、映像制作だけでなく脚本の執筆やイベントの通訳まで幅広くこなす。(日本からの撮影協力依頼をよく受けているようだ)

本書では、ロケで訪れ...続きを読むた南米各地(ラテンアメリカ)の実情や彼自身の体験談を見たまんま、率直に書き記している。場面転換が急だったりして戸惑うことはあったが、「早く続きを知りたい」と思わせる巧妙な語り&シナリオの組み方だった。

「ラテンアメリカの悲しみと、人の力強い美しさが同時に存在していた」

悲喜交々の一冊であったが、どちらかといえば「悲」の割合が高かったかも。
以前「ラテンアメリカ出身だからといって誰もが明るいわけではない」と商社に勤める知り合いが話していたが、それと同じようなことを著者も体験を通して伝えている。

底抜けに明るい表紙の装丁(=我々が抱くラテンアメリカのイメージ)を抜けると、踏み込むごとに彼らの現状・心情が胸に突き刺さってくる…そんな感覚。ここまで感傷的になるなんて、読む前は想像すらつかなかった。
あとはメキシコに渡るまでの経緯やメキシコ人の奥様との馴れ初めが最後まで触れられていなかったので、そこは次作に期待したい。

著者曰く海外で撮影の仕事をしていると、日本人は海外への好奇心がずば抜けて旺盛であることを実感するという。その証拠に海外を紹介する番組が他国と比べて多いとのことで、思えば自分も「世界ふしぎ発見!」や誰かの紀行文を読むのが好きだったりする。
そんな旅番組慣れした日本人の一人である自分も、本書においては「こんな世界線があったのか!?」といちいち驚いていた。

その代表格が「あなたの夢は何ですか?」という質問に対して、皆必ずといっていい程つっかえること。
夢を持っている人もいるに違いないが、「”夢”の意味が分からない」「夢を持つことは当たり前ではない」とする人々がラテンアメリカにはいる。政府と対立するギャング団に巻き込まれることを恐れ、泣く泣く逃げ切ることを優先するホンジュラスの一家。「貧しくて夢を見ることもできなかった」と涙ぐむシカゴ移民のメキシコ人。

日本ではド定番のこの質問、「何かしらやりたいことがあるだろう」という甘い考えが通じない世界線。標高5,000メートル超に位置するチリの天文台・元ゲリラ兵が住まうコロンビアの村・移民を乗せた列車に自主的に食料を配りに行く女性etc.と息を呑むような話も多かったけど、こればかりはインパクトが桁違いだった。

それでも最後には、誰にも打ち明けられなかった話を聞いてくれたと皆感謝の意を示すという。
「世界広し」と理屈では分かっていながらも、夢も生まれてこない世界線があることを今日まで知らずに生きてきた。海外への好奇心が強いだけの日本人ではあるが、せめてこれからも耳を傾けさせて欲しい。

0

Posted by ブクログ 2022年12月17日

思てたんと違う!ってのが読み終えた感想。
良い意味でも悪い意味でも裏切られたので、次作はぜひ前半のテンションで一冊仕上げてほしい。

0

Posted by ブクログ 2022年12月14日

メキシコで撮影コーディネーターを生業とする著者の、撮影を通じて交流したラテンアメリカの人々との記録です。
自らが移民という立場で、メキシコやそれ以外の移民の実際の姿を知ることができました。
ラテンアメリカのイメージは陽気で明るいイメージだけど、そればかりじゃなくて、貧富の差が激しくて厳しい現実と向き...続きを読む合っていて、それでも前向きに暮らしているんだと分かりました。

0

「ノンフィクション」ランキング