【感想・ネタバレ】顔のない遭難者たちのレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

不法移民の船が地中海へ相次ぎ沈んでいると、度々ニュースで目にしていた。ぼんやりと、遺体は母国に送り届けられるんだろうなあ、などと考えていた。本書を読み、それがあまりに甘い見通しであることを痛感させられた。
遺体の氏名を同定し、然るべき遺族へと繋げること。言うは易しだ。実際にそれをなすには、生前データと死後(検死)データのマッチングが必要でる。国内の身元不明死体でも、それをしっかりこなすのは簡単では無い。増してや、移民ともなれば尚更だ。
生前データの収集を巡る困難について。例えばリビアでは、家族が移民船に乗ったことが当局にバレれば、残された家族はムショ送りなのだという。そんななかで、母国に「この死者の家族の情報をください」などと公的に助けを求められるはずもない。そのため本書では、コミュニティを介した「クチコミ」で生前データを収集している。それでも少なくない難民が、家族や友人の消息を尋ねて遠くミラノまで来るのだと言うのだから痛ましい。
死後データを巡る困難について。検死は労力も専門性も、時間的制約も大きい。何百人もの移民の遺体に、その労力を掛けるのか? 誰が法医へ賃金を支払うのか?

DNA鑑定が必ずしも万能ではない、というのも面白い視点だった。DNA鑑定以外の鮮やかな鑑定方法については、ぜひ本書を実際に見ていただきたい。

本書を通じて、法医学者達の高い職業倫理に強い感動を受けた。この大きな問題に、熱意を持って(決して恵まれない資金状況のなか)取り組んだイタリアの法医学者達に心から敬意を表する。
本書の取り組みが、発展的に実を結ぶことを切に願う。地中海移民は現在進行中の大きな問題である。この問題は本書に登場するような法医学者達の「熱意ある働き」だけで解決できようもない。いずれもっと国際的視野で持って解決を図るべきだろう。

自らの死後も尊厳を持って扱われ、家族や友人に悼んでもらえるであろうという希望があってこそ、ひとは自分の命を、他人の命を大事にできる。死者の尊厳を守る。「死者に名前を与える」ことは、ひとが人として生きていく上での第一歩、見過ごしてはならない権利なのだと思う。

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2024年02月11日

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