あらすじ
かつては「人口爆発」が、そして現代では「人口減少」が、重大な危機として社会に浮上している。
人口が増えたり減ったりすることは、社会においていかなる問題として捉えられてきのか。
経済学の歴史を振り返ると、それは制度や統治という問題圏と常に重なり合いながら論じられてきた。
本書はそれの道のりを、社会思想史の底流にある大きな流れとして描き出す挑戦である。
人口というものは、とりわけ現在の日本において喫緊の問題となっているが、それはわたしたちが社会をいかなるものとして捉え、統治するかという問題と表裏一体となっている。
アダム・スミス、マルサス、ミル、ケインズ――本書でたどる彼らの思想的格闘のあとは、いまわたしたちがまさに直面する危機を考えるにあたり、見逃すことのできない発見をもたらすだろう。
【本書の内容】
序文
第一章 重商主義の時代 人口論の射程の広さとデータ主義の起源
1.はじめに
2.ペティ:人口を測る
3.重商主義と人口
4.おわりに
5.補説:ベーコン主義
第二章 スミスの時代 自由と平等の条件と、経済学の生成
1.はじめに
2.モンテスキュー
3.ヒューム・ウォーレス論争
4.ステュアートとケイムズ卿
5.スミス
6.おわりに
第三章 マルサスと古典派経済学 フランス革命後の統治論の平等論的転回
1.はじめに
2.コンドルセとフランス革命
3.ゴドウィンとフランス革命
4.マルサス
5.リカードウ
6.J・S・ミル
7.おわりに
第四章 ケインズと転換期の経済学 人口減少論の勃興
1.はじめに
2.マーシャル
3.優生学
4.ケインズにおける人口変動
5.成長理論と人口:ハロッドとソロー
6.おわりに
第五章 現代の経済学 人口法則とその統治論的含意
1.はじめに
2.人口転換論
3.現代経済学と人口論
4.世代間所得移転
5.経済の成長と長期停滞
6.おわりに
結語
注
参考文献
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Posted by ブクログ
経済学の専門家が、人口について歴史的な考え方の変遷を研究し、まとめたもの。重商主義の時代から現代にいたるまで、経済学がどのように人口を扱ってきたのか述べている。アダム・スミス、マルサス、リカードウ、J・S・ミル、ケインズなどの思想家、経済学者の人口に関する考え方をまとめており、自由と平等、経済格差や統治に重きが置かれている。著者が言うとおり、子供を産む行為の所得や費用分析など、純粋な経済的な人口・出生分析では限界があり、伝統的な考え方、医療や避妊、教育レベル、政治体制など多岐にわたる問題といえる。きわめて学術的にまとめられており、現在の研究成果にも触れられていて役立ったが、哲学書的な内容のところなど興味が持てない部分も多かった。
「住民は衰退する国からは身を引く(1698年)」p60
「小さな都市から大きな都市へと多くの人が移住し、農村から都市への移住も生じた。農業成長率は1720年代から1750年代にかけて約0.3%であり、成長があるものの工業より成長率が低かった」p90
「(マルサス)人口増加を妨げるのは、有効需要の不足のような経済的原因のみならず、戦争の多寡のような政治状態、衣食住などの生活習慣、結婚などの制度があり、経済はごく一部の要因に過ぎないことがわかる」p178
「知能の向上は上位者の権威を絶対視せず、独立して判断する傾向をもたらす。とりわけ、女性が社会的に独立することにより、生殖への動物的本能の不当な優位性が突き崩され、過剰人口の原因が取り去られる(J・S・ミル、1965年)」p206
「平等と豊かさの両立には行き着かない(J・S・ミル)」p210
「20世紀の労働力過剰問題は、人口増大それ自体ではなく投資の不足が問題である(ケインズ)」p240
「人口が増加しているとき、一般には期待よりも需要が大きくなり、需要見込みが楽観的となるため資本需要が増加傾向となる。ところが人口が減少すると、需要が期待よりも少なく過剰供給の解消が困難になる。その結果、悲観的雰囲気が広がり資本需要が減少傾向となる。こうしてケインズは、人口の増加かから減少への転換は、繁栄に対してきわめて悲惨な結果をもたらすと述べる(1973年)」p242
「(少子化の原因)生産や教育など家族が果たしていた機能(家庭内で生活必需品の生産、教育が行われた)は、やがて企業・工場や教育機関が担うようになり、家族はそれらを喪失した。大家族を維持するのに、よりお金がかかるようになったのである」p260