あらすじ
朝の満員電車、ほんの一瞬、僕の手の外側を包み込むように握ってから、すっと離れた冷たい手。「死んだ嫁の手や」。生きているとき、いつも手助けしてくれた手。二度目はエレベーターの中で声が聞こえた。「間違いない。嫁が来たんや」。結婚して間もなく癌でこの世を去った彼女が幽霊になっても伝えたかったこととは(表題作)。街の片隅に暮らす、夫婦、親子、カップルなど、不器用でただ一途に生きていくことしかできない七人の物語。泣けて笑えて、読むと優しい気持ちになれる――。感動作の名手・カトゲンが贈る“大人のおとぎ話”。
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Posted by ブクログ
短編集には二種類あると思う。
もう終わっちゃったの?長編で読みたかったなぁと思うものと、読後ズーンと余韻が残るもの。
この作品は後者です。これだから時々短編って読みたくなるんだよなぁと思わせてくれる一冊。
七編の短編、どれも主人公はまぁはっきり言って幸せとは言えないんですよね。
舞台も裏寂れて治安がよろしくないところばかり。
どのお話も過去を振り返っていて、後悔していながらも、そんな自分を受け入れている。
なんだか結局こんな小説や映画が好きなんだよなぁ。
生きてると色々ある、でも大切な人って結局は人生で一人か二人‥‥そんなことを気付かせてくれる一冊。
しばらくこの余韻の中に浸らせてもらいます。
Posted by ブクログ
加藤元さんの作品を読んだのは、本書『嫁の遺言』が初めてです。
本書は全7編の短編集ですが、そのどれもが「傑作」と呼べるほど粒ぞろいで、読んでいて息つく暇もないとはこのことでした。
感想を一言で表現するならば、「凄い」という言葉が最適だろうと思います。
心からの畏敬の念と、畏怖の念も覚える作品で、衝撃を受けながら読んでいました。
少なくとも短編集に限ってとなれば、これほどまでに「凄い」と思わせられたのは、
町田そのこさんのデビュー作である『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』
以来です。
*このような作品を読むたびに、小説家さんの作品への精励(畏敬)と、才能(畏怖)に頭が下がりますね。
本書を買って読もうと思った切っ掛けは、いつものように本屋さんで物色していた時に、目に飛び込んできた『嫁の遺言』というタイトルと、「満員電車の中、ふと冷たい手が触れた。それは、死んだ嫁の優しい手だった。」という帯の文面でした。
それもあってか、『嫁の遺言』以外の6作品にはあまり期待していなかったのが正直な気持ちでしたが、良い意味でその考えは浅はかであったことが分かりました。
*加藤さん、出版社の皆さん、申し訳ありませんでした。
このような出逢いがあるのも、本屋に行く楽しみのひとつですよね‼️
さて、本書に収録されている7編は全て「傑作」であると先に述べましたが、その後の「あとがき」2編と「解説」がこれまた秀抜でしたので、最も心に残る文章を最後に抜粋します。本書を読みたくなること間違いなしだと思いますし、とりわけ、(私のように)町田そのこさんの作品が好きな方には届くのではないでしょうか。
・あとがき
大人向けの「おとぎ話」を書きたかった。
そこには鬼も悪い魔法使いも登場しない。その代わり、救いがたく悲しい不和の連続がある。さまざまな思いを抱く人間たちがいる。
ありふれているようで、実際には起こりがたい「おとぎ話」が書きたかった。ひととひとがわかり合う、それだけのことが、現実にはどれほど難しいことか。
・・・
以上、七編。どの物語も、ハッピーエンドとは呼べない。それだけの現実を背負っている。
しかし、主人公たちは、みな、昨日よりほんの少し、優しいひとになっている。そして、それ以上に幸福な「おとぎ話」の結末はないと、著者は考えているのである。
・解説
かつて、加藤元はこんな言葉を残している。
「自分が本当に欲しいもの、そのために手放さざるを得ないものを、つらい選択の末に知ることができた人間は、結局、誰よりも幸福になれるのだと思う。それがいかに他人の目からは平凡でつまらない生き方に映っても。」
本書に描かれている不器用ながらも一途に生きている人の営みから、まさにこの言葉の意味を感じてほしい。
Posted by ブクログ
そうか短編集のそれも人間模様を描くことが得意なんですね。うなぎとか妙に味わいのある物語だと思うので。大人の童話はあんまりピンとこないんだが、ダメになってしまった夫婦間に親子間に世界だった。毎週日曜日の娘とのデートを取り上げる親父に自分が悪い事を未だに思うお母さんに、それでいいのかなと疑問に思ってしまう。娘の気持ちが一番なのに、親父の奥さんの為にだけとかなぁ、お母さんの辛い気持ちがひしひし伝わるってこと
Posted by ブクログ
不器用だけど、雑~に生きているようだけど、どこかに大切にしているものや事があって、必死にそれを守っている。人知れず。
そんな「ダメな奴だけど憎めない」人たち。
大事な仲間が残したメッセージのような本。
いい本に出会えた。
Posted by ブクログ
7編の充実した短編集。どの作品も、身の上話を聞いているような感じがして、読みやすかった。人間模様が目に浮かぶようだった。
『嫁の遺言』
主人公が自分に話してくれている感じがして、すぐに話に引き込まれた。関西弁で語られる嫁のことを聞いているうちに、そんなこともあるかもしれないなあと思ってきた。最後はこの話を聞かせてくれてありがとうと言う気持ちになった。
他、『いちばんめ』『あの人への年賀状』『不覚悟な父より』『あんた』『窓の中の日曜日』『おかえり、ボギー』
Posted by ブクログ
7編の短編集、どれも読み応えありました。これといった展開があるわけではないけれどある人の人生をのぞき見したような気になったり。小説だから味わえるいろんな人の人生を体感した気になり短編でここまで味わえるのもスゴいと他の作品も読みたくなりました。
Posted by ブクログ
あまい恋、あの頃の爽やかな笑顔と甘やかな気持ち。みたいなそんなもんではなく、そんなんは少女漫画に任せておいてさ。でも、ミステリーほどおどろおどろしくなく。
恨みはあるが、まぁ、許そうか。
ゆるさへんけど、覚悟せぇよ。
とか。仕方ないなぁ。とか。
日常にあるほんの少しだけある、すれ違いや、行き違い、思い込み一端を掬ったような話ばかりで。
誰もが身に覚えがありそうで無さそうで、ホント身近な心のチクリがストーリーになってるところが、たまらん。
わたしの話かはたまた友達の話だったかな。
そんな気分で読めます。
人間、こういうことあるよね。だからさ、どんな人との出会いも宝物になるんかもなぁ。
なんて、思う一冊です。