あらすじ
「見果てぬ夢」の物語
「狂騒の1920年代」、アメリカで最も影響力のある偉人、自動車王ヘンリー・フォードと発明王トーマス・エジソンがとてつもない「夢の町」建設プランをぶち上げた。巨大ダム、クリーンな水力発電、自家用車に幹線道路など、当時の最新技術を駆使して、アラバマ州テネシー川流域の貧困地帯を一大テクノ・ユートピアに変貌させようという壮大な構想だ。さらには強欲な金融勢力の支配を排除すべく、独自通貨も発行するという。
地元住民や同州選出議員らはこの構想に希望を抱き、現地を視察に訪れた二人を熱烈に歓迎。だが一方、首都ワシントンでは一部の有力議員や慎重派がこれを巨大企業による詐欺まがいのスキームと見て猛反発した。ユートピアか、いかさまか―。両者の熾烈なバトルが10年以上にわたって繰り広げられた末、フォードを警戒する共和党保守派の重鎮、クーリッジ大統領との取引が暴露され、「フォード構想」は突然の幕切れを迎える。
新たな暮らしのモデルを提供する「夢の町」構想と、それを取り巻く濃密な人間模様を通して、「ジャズ・エイジ」からニューディール政策へと転換するアメリカ社会を描いた傑作ノンフィクション。
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Posted by ブクログ
プロフィール写真の著者は、スティーヴ・ジョブズのように片手を顎にあてたポーズをとっている。医化学系ジャーナリストとあるが本書を著すきっかけを聞いて以降、段々考古学者に見えてきた。
自動車王フォードと発明王エジソンがタッグを組み、労働者フレンドリーな都市を創ろうとしていた事を知った著者。跡地に足を運んだ際、遺跡を発見した時のようなロマンを覚え調査を開始することに。(「近現代なのにもう遺跡扱い?」と冷笑しかけたが、よくよく考えれば100年以上も経っている…)
アラバマ州にあるマッスル・ショールズという街がユートピアの舞台。
しかし元は先住民が住んでおり、そのまた約100年前に彼らは追放されている。単身追放先から戻った女性の話は、また別の本で詳しく聞きたいくらいに驚いたし彼女と子孫の勇気には感極まった。
2人が目をつける前から街は産業が盛んで南北戦争からの復興、硝酸塩工場や巨大ダムの建設計画と、ユートピアへの下準備は整っていた。
2人の、特にフォードの半生はユートピア計画と連関しているように見える。(エジソンは全体的に影が薄かった)
彼は農家の出身だが、純粋に機械いじりが大好きで農業ではなく機械工の道を選んだ。T型フォード開発後は事業のプロモーションといったビジネススキルも発揮するようになる。不学のせいで、反ユダヤ主義といった偏狭な思想をお持ちなのは残念だったが…。(そのせいか、ヒトラーから敬われていたことも)
いつの時代の人物かすら知らずにいたが、彼の功績や人柄をこの一冊で熟知できるとは思ってもみなかった。(その代わり彼が得意とする工学系の話は熟知しきれず…汗)
自動車王と言うからてっきり某不動産王みたいな人を想像していたが、蓋を開けてみれば超庶民派だった。田舎暮らしを愛し、自動車以外にも彼を育んだ土地や人々への恩返しにと、農業機械を開発。
マッスル・ショールズを再起させる救世主としても人々から慕われ、大統領へ押し上げようとする流れまであった。(本人はそこまで乗り気でなかったところが某不動産王と違う…笑)
フォードが身を退いた後も土地開発は継続されたようだが、結局ユートピアにはなり得なかった。
不発に終わらなければ、歴史をも変える出来事になっていたのかもしれない。著者は膨大な新聞や手記の山を掻き分け、知られざる人々の存在までも照らし出してくれた。ノンフィクションなのに臨場感があって、正直読み切るのがもったいない。
この「電撃的」な出会いをひと足先に体験、日経新聞で紹介してくださった鈴木透氏(慶應大学教授)にも感謝せねば。