【感想・ネタバレ】疎開日記 谷崎潤一郎終戦日記のレビュー

\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

 1950(昭和25)年に刊行された『月と狂言師』に、「越冬記」「都わすれの記」「A夫人の手紙」および永井荷風、吉井勇との戦時の往復書簡を加えたもの。最後の資料を除いてどれも日記か随筆であり、小説とされている「A夫人の手紙」は他人の手紙をほとんどそのまま写したようなもので、創作の部分はほぼ存在しないらしい。
 実は中公文庫版『月と狂言師』を私はずっと前に買って持っており、これが同書のリメイク版だということを知らずに買ってしまったのである。タイトルとなっている、戦時の日記である「疎開日記」も、同書に入っていたことを、私は完全に忘れていた。なので、大半のものが再読になる。
「疎開日記」「越冬記」は文語体の日記。この時代の作家たちの日記はみんな文語体のような気がするが、そういうものだったのだろうか。谷崎文学の魅力の一つであるあの流麗ですこぶる読みやすい、平易な文体が、ここにはない。
「疎開日記」を読むと、ずいぶんと知人・親戚が入れ替わり立ち替わり登場する。同じ時代の日記を読んだ永井荷風や内田百閒よりも遥かに社交的な生活に見える。もっとも随筆「客ぎらい」を読むと、来客に会うのが面倒で「紹介状のない方には会いません」と断っていたらしいが、それでも日記を読む限り、孤独を極めた永井荷風とは全然異なる生活だ。谷崎は既に結婚して子どもらもいるので、親族関係が豊かなのは必然か。
 日記としては、事実を並べてあるのが主で、荷風の「日乗」ほどの文学性は無い。
 一体に、本書を読む限り、谷崎の随筆は小説ほどには面白くないように思った。しかし随筆の世評が高い荷風であっても、随筆にはさほど心を惹かれないので、私はあまり随筆に向いていないのかもしれない。
 本書の中では、文楽を扱った評論的エッセイ「所謂痴呆の藝術について」が興味深かった。

0
2023年02月02日

「雑学・エンタメ」ランキング