あらすじ
パリでの弁護士生活を捨て、暗い運河の町・アムステルダムに堕ちてきた男、クラマンス。彼の告白を通して、現代における「裁き」の是非を問う、『異邦人』『ペスト』に続くカミュ第三の小説『転落』。不条理な現実、孤独と連帯といったテーマを扱った六篇の物語からなる、最初で最後の短篇集『追放と王国』。なおも鋭利な現代性を孕む、カミュ晩年の二作を併録。
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Posted by ブクログ
大学生のときにゼミで扱った短編集。どれも文学的に工夫がこらされた作品ばかり。カミュがこの短編すべてを書ききるのに10年以上かかった。というのも異邦人、ペストでの成功後、自分の才能の枯渇を覚えたからだ。タイトル通り追放から王国までを綴ってある。この後ノーベル賞を受賞し、遺作となる「最初の人間」を書いたまま交通事故で他界してしまう。なんとも哲学的で悲しくも美しい作品集。
難解だが歴史や哲学を知っていると読み解くことが出来る。「背教者」は、キリスト教の伝道者が未開の地に赴くが、逆にその地にある宗教に暴力によって改宗させられてしまう。伝道師はすっかり心を奪われ次に訪ねてくる伝道者を叩き潰すように待ち構えるという話である。
この伝道者はカミュが当時論争をしていたサルトルをモチーフに描かれている。サルトルは当時、目的のためなら暴力も止むを得ないという思想を持った共産党員となった。そのことをカミュは風刺したのである。伝道者は、現地の未開人に舌を引き抜かれてしまうのだが、舌はフランス語でラングと言い、また言葉という意味も持っている。つまりカミュはサルトルが言葉を失い、暴力に染まったことを描いたのである。
また未開人たちが崇めている金属の偶像があるのだが、この偶像は当時鋼鉄の男と言われていたスターリンを表している。このように歴史的な文脈を知っているとまた違う読みの楽しみが味わえる。