【感想・ネタバレ】電気じかけのクジラは歌うのレビュー

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Posted by ブクログ

面白さはもちろんのこと、著者である逸木さんの、人工知能への視点、人間への視点に感銘を受けた一冊でもありました。人工知能が労働を奪う、とささやかれる現代だからこそ、よりこの作品の世界観や主人公の心情がリアルに、そして切迫感をもって伝わってきた気がします。そういう意味ではSF要素がありながらも、社会派的な作品なのかもしれない。

AIアプリが音楽を作曲する近未来を舞台に、元作曲家が自分の友人であった天才音楽家の自殺の謎を追うミステリー。

作品に登場する音楽家たちの心情がリアルで、切迫感を伴って伝わってくるのがとてもよかった。自分の創るものは人工知能でも作れる、なんなら人工知能の作る作品の方が優れているかもしれない。そんな中で音楽を創る意味があるのか。

命題として単純化するとそれに集約されると思うけれど、それを主人公の自殺した天才音楽家・元バンド仲間、ハンディギャップを抱えながら演奏を続ける女性、自動音楽アプリを製作したIT社長などなど様々な登場人物を絡ませ、多角的に命題を浮かび上がらせて、何度も主人公に問いかけてくる。

その主人公の葛藤に引っ張られていくうちに、物語がどんどん展開していく。ミステリ的な部分で話を引っ張るところもあるのだけど、それ以上に音楽と人をめぐるドラマの部分でも話を引っ張っていき、気づけば後半は夢中で読み進めていました。

そうやって主人公の葛藤を切迫感をもって目の当たりにしてきたからこそ、終盤の主人公の再生も作り物めいておらず、素直に受け取れる。そして登場人物たちの設定や配置、エピソードにも無駄がなく、見事な伏線回収が決まるのも本当に見事! と思うしかありません。

逸木さんのデビュー作『虹を待つ彼女』でもそうだったけど、本編が終わってエピローグになってから、もう一つ見せ場があるのも読者として嬉しく感じられる。映画でエンドロールが流れてから、アニメで12話終わってから、もう一話、その後の話が描かれるような、そんなサービス精神というか、見せ方をもう一つ工夫しているのも好ましいと思います。

ミステリとしても面白いし、人工知能と音楽をめぐる人間ドラマから浮かび上がる、著者の人間に対する視点の優しさや期待も本当に素晴らしい一冊でした。

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2022年01月30日

Posted by ブクログ

読んでいくたびに新解釈が出てきて物語の展開に右往左往してしまいました。
序盤はどうなっていくんだろうとワクワクしたり中盤衝撃的な事実に驚いたり、主人公の人間的な弱さにイライラしたり…。著者の手のひらの中で転がされているようでした。
テンポも良くなかなか面白かったのですが、最後の展開が自分的にイマイチよくわからなかったので星4つにしました。

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2024年02月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

読んでる途中で感じたのは「好きを仕事にしたらダメなのかな」だった。岡部も益子も理沙もみんなみんな好きだったから音楽で生きていて、そのせいで絶望を味わった。でも最後はやっぱり音楽で希望があった。「好き」はずっとずっと大切にしていきたい。それが絶望をもたらしたとしても最後はきっと自分の支えになるから。
AIが音楽を作る話はちょうど今起こっているAI絵師問題と酷似していて興味深かった。世界は日々進歩していて、人にAIが勝る(技能的に)ことはどんどん難しくなるだろうと思う。物語の中でもAIを利用して作った作品はその人の作品と言えるのか?という問いがあったけど、今後その線引きをどうするのかによって創作の世界の未来が変わると感じる。
(岡部が推測した)名塚のように、上手く利用しさらに世界を広げていくことが個人的な理想だが、そんなに上手くはいかないだろうとも思う。律のようなアンチから実体的な否定活動をする人も現れるかもしれない。岡部のように絶望して創作をやめてしまう人だっているだろう。
登場人物の動きからもこの作品は今後の創作世界の未来の1つを提示しているように感じた。

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2023年06月03日

Posted by ブクログ

生成AIが話題になってるので読んでみた。
作曲領域でAIが活躍する近未来の話。主人公は夢やぶれて、AIへ取り込む情報の審査員へ身を落とした元作曲家。元バンドメンバーの天才作曲家の自殺から物語が動き出し、謎を解く過程でAIとはなにか、人とは何かが問われる。
主人公が優柔不断で、そうはせんやろ…みたいなところは不満点だが、ストーリーは一貫してAIとヒトというテーマで軸が通っていて面白かった。

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2023年05月29日

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ーー大丈夫。世の中がどんなに変わろうと、私たちの行動は波及し、必ず誰かにつながっていくのだから。

本作では音楽という題材が扱われましたが、イラストもCGも小説も例外ではなく、もっというと私たちの仕事ですらAIが代替していくかもしれない。そんなワクワクと同時に漠然とした恐怖も感じる現在だからこそ、この作品が示した答えは、震えるほど勇気をくれました。AIが加速度的に普及するいま読めて本当によかった作品です。

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2023年04月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

近未来の音楽世界。究極までパーソナライズされた音楽はもはや作り手を必要とせず、音のタコツボ化が起こる。それでも音楽を作り続ける人間と区切りをつけて適応する人間。主人公岡部数人は、友人である名塚楽の死をキッカケに、音楽の本質的価値を苦悩しながらも理解していく。一人一人が持つ空港。音楽の波及。芸術の将来性を考える上でいい参考資料になった。
近年の芸術活動は、経済活動と綿密に結びついている。この固定観念の崩壊が起こった時に人類は芸術の本質を再発見出来るかもしれない。

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2023年03月07日

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 『〝クジラ〟強調月間始めました!』13

 第13回は、逸木裕さんの『電気じかけのクジラは歌う』です。
 今後十数年で、現在の職業の半分がAIに代替されると予測される未来は、理想社会なのでしょうか?
 本書で描かれる世界は、AIで駆逐される音楽業界、とりわけ作曲家の苦悩が主軸です。ここに、天才作曲家の自殺に伴う謎が絡むミステリー仕立てになっています。
 『Jing』というAI作曲アプリ。中国語で「鯨」の意。創業社会長は霜野鯨。生態系の中心に君臨し、海域の食物を大量に食す鯨は、全てを取り込んでしまうのか…。ドキドキとヒリヒリが続くドラマを観ているようです。
 音楽に携わる者の葛藤が見事に描かれています。血が通った人間だからこその苦悩や嫉妬は、誰にも身に覚えがあり心を揺さぶります。言葉による音楽表現も秀逸で、とても読み応えがありました。
 人間の創造性は、AIに凌駕されてしまうのでしょうか? 人の存在意義、苦労を伴って生み出したものの価値を深く考えさせられました。
 近い将来を、少なくとも人間性が否定・淘汰されるディストピアとは、絶対に想像したくありませんね。

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2022年11月14日

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技術革新により職場が失われて行く。圧倒的な才能を持ち、AIに対抗出来ると思われていた斯界の第一人者も自らの命を絶った。昔の仲間に謎めいたメッセージを残して。。。

名塚楽はなぜ自殺したのでしょう?岡部の得た結論はとても陳腐に感じられて名塚のイメージにそぐわないのですが…。天才の考えは永遠に凡人の理解の外にあるということで、詮索するのは諦めますけど。

ところで、渡辺絵美子秘書はご無事でしょうか?

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2022年10月30日

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人工知能を用いて、ユーザーが好みの曲を自ら作曲していく。
未来のようとも思えるし、近い将来実現しそうとも思える。

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2022年03月26日

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すでに音楽の作り方が人経費を抑えるために打ち込みになることが多く、ループ素材を貼り付けて作品を作ることは一般的となっている。
未来の話というより、そんな現在の世の中を揶揄しているのかもしれない。
面白く読ませてもらえた。

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2022年03月24日

Posted by ブクログ

AIの発展に侵蝕される音楽業界で生きる人たちの物語。
近い未来同じような変化がいろいろな文化や職業に起こるのだろう。最近も「昭和レトロ」ブームがあったように、いかに便利な時代になっても、旧き良き、人が創り出したものを愛する気持ちは、必ずや多くの人の心のなかにあり続けると思う。
自分もいつまでもそういうものを好きでい続けたい。

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2022年11月23日

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人工知能の作曲アプリ「Jing」により作曲家が絶滅した近未来。元作曲家の岡部の元に、自殺した天才・名塚から指をかたどったオブジェと未完の傑作曲が送られてくる。
彼の残したメッセージの意図とは――。名塚を慕うピアニスト・梨紗とともにその謎を追ううち、岡部はAI社会の巨大な謎に肉薄していく。

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2022年06月13日

Posted by ブクログ


AIにより完成度の高いものが手軽に創造できる時代に、あえて人間がモノを生み出すの意味が希薄になる。
いつか音楽に関わらずこういう時代が来るのだろうな、と思った。
Jingやカイバなど、近未来の世界観が面白く没入できた。
最後のJing社長の結末が気になる。
人間がモノを作ることの意義は、作ること自体にある、という起結は浅い気もしたが、事実そうなのかも知れない。

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2022年05月08日

Posted by ブクログ

AIに作曲家や音楽家の仕事が奪われた世界のお話。
終始暗い雰囲気のまま、話が進んでいった。結末をどうするのかと不安になったが、その結末でパッと世界に色がつき、救われた気がした。

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2022年03月19日

Posted by ブクログ

各人のキャラがブレブレで、展開も混迷を極めるけれど、原点に戻ってくるかのような帰着にはほっとさせられた。主人公を始めとした登場人物があまりにもひねくれているのがマイナス印象でもったいない。アコースティックから交響楽やテクノまで、歌や音楽を奏でることへの想いは伝わってくる。名声を残すために死を選ぶという発想がまったく理解できなかったので、それについてはきょとんな感じでした。それにしても、ここではまるで人間性を否定しているかのように描かれている 「jing」だけれど、これはかなり面白そう。これを開発実現した霜野さんって、わざわざ悪巧みしなくてもすでに偉人ですよね。

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2022年03月14日

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