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国民的、いや世界的大女優である50も年上の女性と、倉庫整理のアルバイトとして出会った一心。
一心が生まれるずっと前の彼女の作品を観つつ、一般人としての鈴さんとの交流が描かれている。
鈴さんの人生は魅力的である。そして鈴さん自身も魅力的である。さすが吉田修一さん。魅力的なキャラクターを描く天才だ。
鈴さんの人生の中で親友とのエピソードは読んでいて涙が止まらなかった。
関東出身の私にとって長崎も広島もあまりに遠い。原爆のことは大昔の出来事になってしまっている。でも、長崎も広島も、どんなに時が経っても、世代交代しても原爆のことを心の奥底にずっしりと抱えているのだな…
長崎出身の吉田修一さん自身もその一人なんだな…
長崎、広島の人とそれ以外…ではなくて、被爆国である日本人として本来抱えていないといけないものなのだと恥ずかしく思う。
被爆したことは、鈴さんの人生の中の一瞬だ。それに囚われて不幸でいたわけではない。だけど、なかったことにはなるわけのない事。この小説の中でのその辺のバランス感覚がすごいと思った。
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【内容】
主人公の一心は、自身が通う大学院の教授から昭和の伝説級大女優の和楽京子(本名、鈴さん)の元でのバイトを紹介される。内容は倉庫代わりにしている一室の整理だったが、歴史的史料を片付けたり、本人や元マネージャーから昔話を聞く中で、鈴さんが如何にして和楽京子となり、表舞台で華々しく活躍してきたかを目の当たりにする。そんな日々を送りながら、一心自身は激しくも苦しい恋愛に悩み、そのたびに鈴さんの存在に救われていく。果てには、和楽京子ならぬ鈴さんのことをずっと考えている自分に気づき、想いを打ち明けるも…。一方、ハリウッドで『ミス・サンシャイン』と讃えられる程に輝かしい女優人生を送ってきた和楽京子という光の存在には、唯一の親友である林佳乃子という影の存在がいた。光と影、鈴と佳乃子、一心と一愛…お互いがいるからこそ歩んでこれた人生の物語。
【感想】
梅雨のじめっぽさに寄り添ってくれる、心がスッと浄化されるような物語だった。
ただただ、和楽京子の英雄譚かと思いきや、彼女が輝く理由や源となる佳乃子という存在を知ることで、和楽京子の女優人生の影が浮かび上がってくる。なぜ多額の違約金を覚悟してハリウッドから一時帰国したのか、なぜ『ミス・サンシャイン』と呼ばれることを厭うのか、そもそも和楽京子がどのようにして世に生まれたのか…すべて佳乃子が影響している。そして、一心の人生にも、鈴さんと和楽京子と佳乃子という女性たちの存在が大きな影響を及ぼすこととなった。
もちろん、和楽京子は実在しない女優ではあるが、この本の読者たちの心の中には、間違いなく存在し続ける大女優であるだろう。
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往年の大女優の老後と若者の心の交流が美しい。大女優が幼馴染の幸せを代わりに生きているという想いをずっと抱えながら生きているのもなかなか辛い。どんなに名声を得ても、財産を築いても、それって決して幸せじゃない。
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大学院の教授の伝手で、昭和の大女優だった和楽京子こと鈴さんの倉庫の資料整理のアルバイトをすることになった一心。
目の前にいる鈴さんと和楽京子がなかなか重ならないのだろう。和楽京子という女優に興味を惹かれていくようになる。
これは恋、なのかなぁ。一心くんはどうもちょっと何かあると好きだと思い込む癖があるのかな?なんて思ってしまったけれど。彼が恋だというのだから恋なのだろうな、という感じで読ませてもらった。
「吉永小百合さんを頭の片隅に置いていた」と著者のインタビュー記事で読んだのだけれど、私にはどうしても吉行和子さんが頭に浮かんで仕方がない(笑)
話し方とかざっくばらんさとか体当たり的な生き方をするのは吉永小百合さんのイメージではない気がするのは、私が往年の彼女たちを知らないからかもしれないけれど。
鈴さんについて何を言っても、残念ながら私では彼女の魅力を伝えることはできない。うまく表現はできないことはもどかしいけれど、簡単に表現できないからこそ良い本なのだと個人的には思っている。
大切にしたい1冊。
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今の私にストライク!の本でした。
どんなことが起きても、それは日常の一部で、常に光と影があって、満面の笑みの下にはさっきまで泣きわめいていた顔があったりするものなのだと、それが優しさと強さになるのだと、この本を読みながら何回も思いました。
一心が、和楽京子が出演していた古い映画を見る場面が時々出てくるのですが、そこがまた良い味を出していました。今と昔、演じることと素の部分、これらの切り替えが読んでいて心地よかったです。
読み進めていくうちに、これはフィクションで、「和楽京子」は実在した人物ではないかとネット検索したほどでした。そのくらい彼女は魅力的でした。私も一心と一緒に、和楽京子から大事なことを教えられた気がしました。
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「僕は80歳の女性に恋をした」
この一文を読むだけでは不十分な2人の関係性と戦争背景。
鈴さんの、凛としていて可愛らしい人柄がとても魅力的だった。
口にしないだけで、人には誰にも語らない大事な存在がいるんだと思う。
そこに触れることは、愛おしくもありヒリヒリもする。
一言では語れない、だから黙っている。
”時間がかかるのよ。人の心ってね、大人になってもよちよち歩きなの。だから周りの人もゆっくり待ってあげるしかないの”
”人ってね、失敗して人から何かを学ぶのよ。決して成功した人からじゃない”
”寂しくてどうしようもないときは、膻中っていうツボをこうやって押さえるの。指先がすっと吸い込まれるところ”
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鈴さんが出てきてからら自分の周りの空気まで澄んだように錯覚するほどきれいだと思った。一心、ちょっと世之介みたいだった。
吉田さんの「読者を説得するのをやめた」というインタビューを読んで、重いテーマのわりに余白を感じられた背景に納得した。
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「ミス・サンシャイン」
一見するととても華やかで晴れやかなイメージの呼び名。
けれどこの呼び名にまつわる本来の意味を知った時、明から暗へと突き落とされた。
戦後の日本映画を代表する名女優"和楽京子"。
華々しい経歴の持ち主で、まだ敗戦の色濃かった昭和初期の日本を、正に太陽のように明るく照らした女優の一人。
そんな伝説的女優と出逢った大学院生・一心。彼目線の"和楽京子"は、映画の中だけでは知ることの出来ない魅力溢れるチャーミングな女性"鈴さん"だった。
昭和の大女優と令和を生きる平凡な若者との接点なんて無さそうに思えるけれど、彼女の主演作の映像を観ることにより二人の距離は徐々に縮まっていく。
「男なんか、もう信じるもんか」
「あたしが幸せか不幸か?そりゃ、あたしが自分で決めるわよ」
「食べることは生きること。生きることは食べること」
「人ってね、失敗した人から何かを学ぶのよ」
彼女の放つ生々しい言葉の数々と、歳を重ねて自然と積み上げられた穏やかな包容力は、どんどん一心を魅了していく。
「ミス・サンシャイン」
こう呼ばれる度に、悔しさをひた隠しにし涙を堪えながら観客の前で堂々と演ずる"和楽京子"。現実から決して逃げることなく胸張って生きる彼女の生き様は、混沌とした令和の時代を生き抜くためにも必要なことかもしれない。
"和楽京子"みたいな女優さんは昭和にはたくさんおられた気がする。令和の今、こんな「呼吸するみたいに演技する」女優さんが少なくなってとても寂しい。
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この作品の主人公(ストーリーテラー)は岡田一心といういかにもまっすぐそうな名をもつ長崎出身の青年。どことなく横道世之介くんを彷彿とさせる。そんな彼が往年の名女優・和楽京子のもとへ資料整理の手伝いに通った日々が描かれる。一心と世之介が重なるようでもあり、そして人生の大先輩たる方々にかわいがられ好かれながら大人の階段を一歩昇るストーリーはなぜか吉田修一とも重なる。吉田修一がプライベートでどんな人生(若い頃)を歩んできたか知らないけれど、これまでの作品からも彼はそんな若い頃があるような気がする。
フィクションだけどあの頃のあの人を思わせるような和楽京子の活躍ぶり、そして実在していた人たちが散りばめられたのを読んでいくのは自分好みで楽しい。きっと吉田修一もこういう世界が好きで書くのが楽しかったんじゃないかな。
一方で、長崎の原爆禍を描いた一面もある。前半のキラキラとミーハー魂を満たしてくれる筋に比べ、後半はやや重くなる。とはいえ、ちょっとありがちで甘ったるいおセンチさが舌に残るような感じも。そうはいっても一心の早逝した妹への思いや恋した桃ちゃんとのやり取りも相まって、それが原爆禍とあまり違和感なく混じり合い、このへんは軽めに書いても及第点に達する吉田修一のうまさ。力作的な作品というよりは軽い気分で読み、面白くてちょっと考えさせられたという読後感を得るのがちょうどいい。
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大学院生の僕は女優だった80代の女性の資料整理のバイトをすることになった。
そこで、80代の和楽京子こと鈴さんと出会い、彼女がハリウッドスターだった頃の話や、都内を散歩して食事をしたり、一緒の時間を過ごすうちに芽生えた恋心。
吉田修一さんの話は、面白い。それだけ。
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人の温かさと哀しみが心の襞に沁みこんで来るような作品だ。
昭和の大女優・和楽京子、本名は石田鈴。
大学院生の岡田一心は担当教授から紹介され、アルバイト先で鈴と運命的な出会いを果たす事になる。
そんな二人の交流が静かなトーンで描かれる。
岡田一心と同年代の彼女のヒリヒリする恋模様も描かれるが、それが霞んでしまう程、鈴へと向かう一心の一途な恋情に感動する。
京子が、自身のキャッチフレーズ『ミス・サンシャイン』を嫌悪する理由や、その人間性を知るたびに彼女の事が好きになった。
二人のソウルメイトのような関係性に憧れ嫉妬する。
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鈴さんが、こんなおばあさんになりたいと思わせるとても素敵な女性で、その生き様を描くのかと思いきや、後半、それだけでなく、長崎の原爆のこと、心から大切な存在との別れも描いた物語なのだなと分かる。
一愛、佳乃子ちゃんとのエピソードはとても切なく、グッと引き込まれた。「さみしい」と一年間毎日、日記に書き続けた一心の父のエピソードとか…。
人はみんな、さみしさを抱え、胸の中心をゆっくりと押して深呼吸して、いなくなった大切な人のことを思い出しながら生きていくしかないのだろう。
大きな喪失を経験した人には、より染み渡る本だと思う。
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若者が80歳の女性に恋をするという所から興味深々で読みましたが、とても理性的で切ないとても良い本でした。元女優のとても魅力的なご婦人の人間的な魅力で、次第に鈴さんの事を考えてしまっている自分に気づく主人公。年上好きとしては分からないでもないんだなあ。さすがに極端な年齢差だけれども、そういう肉体的なものでなくとも、人がとても魅力的に感じる事ってありますよね。それは男性でも女性でも。
しかも全盛期の鈴さん「和楽京子」映像もある訳で、自分が好きなのが「和楽京子」なのか「鈴さん」なのか分からなくなってきます。
鈴さんの本当の気持ちはどうだったんだろうと、自問自答しながらラストを迎えました。いい作品。
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なんでこの本が読みたかったんだろう?
って思うほど、最初はピンと来なかったけど、
私自身も鈴さんにハマっていきました。
誰だろう?モデルはいるのかしら?と思いながら、あの人は?この人は?
と、思い浮かべながら読みました。
結局当てはまるような人は見つからなかった。(少し私より上の世代の方ならわかるかも…?)
いずれにしても、鈴さんのような凛とした人になりたい。
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往年の女優と自分の生き方を見つけられない青年。軸はしっかりしている人でも迷う事はあるんだね。このキャラクターの話は読んだ事がない。どんな結末になるか楽しみだった。
予想よりずっと重くて、思考させる内容だった。
胸に寂しい時に当てる壺がある。
覚えておこう。
抱えてしまった亡くなった人の形を大事にしている優しすぎる人達の幸せを祈る。
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引退した伝説の女優、今は80代の和楽京子(鈴さん)の元で、資料の整理のアルバイトをすることになった大学院生の一心。
戦後、日本はもとよりアメリカでも活躍した大女優ではあるが、若い一心からしたら、上品で綺麗なおばあちゃんでしかない。
でも、全盛期の和楽京子の作品を観返すうちに、鈴さんと親しくなり人間性を知っていくうちに、一心の気持ちに変化が訪れる。
自分の心の中にいるのは、和楽京子なのか?鈴さんなのか?
一心が和楽京子の映画を観ている場面では、和楽京子の演技が細かく描かれていて、戦後のモノクロの映画を実際に何本も観た気分になります。
その映画と鈴さんの当時の実生活、そして一心の今の心情が重なって、なんともドラマチックな構成になっています。
どんなに特別な人も普通の人なのだということ、あんなに激しく恋をしたり悲しんだりした経験があるからこそ、今の平凡な毎日が幸せだと感じられるということ、そんなことを教えてくれる物語でした。
Posted by ブクログ
長らく積読だったものを一気読み。原爆の日からそう経っていないこの時期になぜか手に取る。
ビビットって、カタカナで書くと間抜けなんだけど、吉田修一の作品は、中の人の心象風景が鮮やかに自分の中で再現される。
世之助寄りの主人公かと思ったら、また違う線の細さがある人だった。
もうちょい、妹関連の散漫さがどうにかなってたら、もっとよくなったかもしれないとは思いつつ、これからも読み続け(買い続け)ます。
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八十を超え、父母の世代の一つ上は確実に旅立っている。想いを受け継ぐだけでなく、時間を遡って、その人生に寄り添い共に感じることで生まれる感情には、先代日本人へのリスペクトが含まれている。
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あっという間に読んでしまう、物語の展開と登場人物の個性が美しい。ミスサンシャインってそういうことか、と腑に落ちる。日本の歴史にも想いを馳せる軽くて深い本だった。
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WEB別冊文藝春秋のインタビューで
吉田修一は「長崎の原爆の話を書きたいと思った」と言っています。
島清恋愛文学賞受賞作品だそうで、
島清恋愛文学賞というのも、初めて知りました。
余計な力が入っていない分、こちらも楽に読めました。
Posted by ブクログ
往年の大女優・和楽京子という80代の女性の
身辺整理をするバイトに雇われた
青年・一心を通して
昭和初期の芸能界が描かれています。
たぶん複数のモデルを組み合わせて
この物語は創られていると思うのですが
小さな役をつかんだ後
見出されてハリウッドに招かれ
やがてアカデミー賞を受賞し
帰国後もずっと第一線で活躍した女優を中心に
そこに描かれている映画史が興味深い。
和楽…本名「鈴さん」がそれらを直接
一心に語ることはほとんどなくて
彼が膨大な資料を紐解き
古い映画を見返すことで少しずつ
その栄光と苦悩が浮かび上がってくる。
同時にこれは、バイトの間に
恋愛や人生の変化が生じた一心の物語でもある。
手放しのハッピーエンドではないかもですが
余韻の残る幕切れでした。
Posted by ブクログ
昭和の大女優、「和楽京子」という、華々しく美しい人でなくても憧れられる年長者が近くにいるって素敵な事だよね。
自身も若者に憧れて貰えるような年長者になりたいと思いました。
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人には「影の暮らし」があり、それが明らかになるのが楽しい。
長崎がキーワードだった。
内容は他の人が書いているのでそれを参考に。
読み直しはしないかも。
Posted by ブクログ
鈴さんの生き方が美しい。
行くときは行くし引くときは引く。潔くて強い。
そうしないと生きていけない背景が描いてあって興味を持って読めた。戦争を経験、渡米、女優の仕事。今とは違う大変な想いがたくさんあっただろうと思う。
Posted by ブクログ
大学院の先生からの紹介で
一心は大女優和楽京子(鈴)の書庫の整理のアルバイトをすることになる
鈴や家政婦の昌子の話を聞き
穏やかな時間を過ごす
と共に桃子への恋に振り回される
戦後映画→テレビ→舞台で活躍する鈴
実際の芸能の歴史をみているようで
鈴が実際に存在する女優をみているようだった
幼なじみと原爆の被害にあった鈴と佳乃子
光と影
「返せー」と連呼する場面は胸が苦しくなった
皆本当は平等に夢をみて叶えて
未来は明るいはずなのに
それを許さない戦争の爪痕が憎い
Posted by ブクログ
現代から、年老いた女優の過去を振り返りながらストーリーが進む。
主人公の若い男性の揺れる気持ちと、年老いたが毅然とした元女優の態度(心までは描かれていないが、態度に現れる)が対比されて読み応えがある。
一人の女優の生き様を、倉庫(実際はマンションの部屋)を整理することで炙り出していく手法はなかなかのものでした。