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Posted by ブクログ
ボードウォークというアイデンティティを持ち、かつてカジノで栄えた町、ニュージャージー州アトランティックシティ。
今やかつての精彩は消え、多くのカジノ、ホテルが閉鎖されゆく中、しがみつくように残っている商業施設と共に冴えない日々を送っている町の人々。
この物語が焦点を当てるのは、この寂びれた町に人生を翻弄され、泥沼にはまり込んでしまった、あるいははまりそうなところを何とか抜け出そうともがいている女性達。
町がら、カジノでのカクテルウェイトレスとして若さを売ることで対価を得ることにも華やかさや誇りを持てた時代があったが、次第に町自身の低迷と共にそうした者達の地位は下がり、またある者は年を重ねることで昔ほどうまくは行かなくなっていくことを身を持って知らされる。
そしてまたある者は、他の地から自己を解放し、何かを求めるようにこの地へたどり着くが、程なくして行き場のない夢物語だったことに気付く。
そひて手を伸ばすのが、身売り、ドラッグ。
何もかもの希望を飲み込んでしまうこの町においては、這い上がろうにも這い上がるチャンスがない。
日々の生活には先立つものが要る。
そして、その辛さから逃避するための道具も。
そんなこんなで慎重に越えたはずの一線に、ことごとく足をすくわれ、墜ちていく女性達とそれを食い物にする男達。
行きつく先は、商売女に白羽の矢を立てるシリアルキラー狙われ、うらぶれたモーテルの裏の湿地に次々と並べられていく身元不明死体(ジェーンドゥ)。
途中3人称で淡々と語られるジェーンドゥ達の人生の振り返り方が、何とも言えないやるせなさを感じる。
決して彼女達だけが悪かったのではない。
救いのチャンスもあった。
だが、残酷にも彼女達の命は奪われていく。
この事件、なんと犯人は捕まらない。
捕まらないどころか、ほとんど輪郭すら現れないし、警察の捜査もない。
それぐらい、うんざりするような世界を相手に生きていかなければならない、ある立場に置かれた女性達の救いなき戦い、悲しみに焦点を当てたかったのだろう。
試みは正当だと思う。
確かにこの物語において犯人なんてどうでもいい。
ジェーンドゥ達の悲しき物語。