【感想・ネタバレ】14歳から考えたい 優生学のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

【読みはじめた理由】
「優生思想は危険」という思想が今の社会の道理的に合っている、と思ってなんとなく反対していたが、その根拠をうまく説明できなかったため。
また、社会的に弱い立場にある人は行政や周りの手助けによって守られるべきという道徳的観点は持ち合わせているものの、「産まれてきた子どもが苦労しないように、できるだけ良い遺伝子を持つパートナーとの子どもが欲しい」という漠然とした願望があり、これはある種の優生思想であり、思想の矛盾ではないか?と悩んでいたため。

【読んでみて思ったこと】
優生学というのは正しく使えば人々の苦しみを取り除ける学問だと感じた。ただし、あくまでそれは学問としてであって、優生「思想」を持つことは社会に複雑なヒエラルキーをもたらし、人々の不幸につながるのではないかとも感じた。また、課題であった「できるだけ良い遺伝子を持つパートナーとの子どもが欲しい」という考えも、「子どもには健やかであってほしい」という健全な願いであって、誰かに生まれながらの優劣をつけ蔑むようなことをしなければ問題ないのではないか、という結論に至った。

優生思想とは、「良い血統の科学」とも呼ばれ、人間の血統の遺伝的な質を改良するために「健全な生殖を促し、不健全生殖を防ぐ」思想のことである。これは、国全体の生産性の向上にも繋がると信じられ、優生思想とその学問は社会政策と根深く結びつき、多くの国で取り入れられた。現に日本でも、旧優生保護法という法律が1996年まで施行されており、障がい者に不妊手術を強いることができた。このように、時に強制力を持ってして断種や安楽死を執り行い数え切れない人々を苦しめてきた。その暗い歴史から、現代では優生思想を危険視する風潮がある。
優生思想の中では「生産的で社会的地位のある人間」こそが最も価値が高い存在であるとされ、身体や精神に障がいを抱えている人だけでなく、人種や性別にまでそのヒエラルキーが及んだ。そこには、社会構造の転覆をおびやかす原因が、障がい者や貧困層、不適格者とされていた人々の繁栄にあるとし、ヒエラルキーを守り続けるための考えもあったのではないかと思う。

特に心に残ったことは、優生思想は女性の自由と権利を奪う思想でもあったということだ。歴史の中で、中流階級以上の女性の社会的進出が進むと、優秀な家庭に生まれる健全な子どもが減ることを国家は恐れた。そこで、より多くの子を産み家庭を守る良妻賢母な母親像を求め、みずからを犠牲にして捧げ、家庭に尽くすことが称えられた。特に人口が目減りしていく戦時中はこの流れが顕著だった。逆に、望ましくない生殖を避けるための強制的な断種も同時に行われた。まとめると優生思想の強い社会では、健全な女性には生殖を促し、不健全な女性には生殖をさせなかった。優生思想は、女性の社会的進出を妨げ、その価値を生殖能力に置くことになる。

それでも私が優生思想を部分的に支持する理由は、人権を尊重することができれば素晴らしい学問だと思うからだ。学問としての優生思想は、人々の生活から苦しみを取り除くことに現代の中で大きく役立っている。例えば、出産前に子どもの障がいを調べることで産むか産まないか判断できるし、産むとしても心の準備ができる。遠い将来、選ばれた遺伝子によって産まれてきた子どもたちが、そうでない子どもたちを差別するようなことが社会問題として取り上げられることがあるかもしれないが、資本主義が支配する社会で、消費者たちが望む「より健全な子どもを!」と求める声を止めさせることはほぼ不可能だと思う。それならば、この流れを受け入れた上で、お互いの人権を認め合い、全人類が思いやりと尊重の気持ちを持って接していくにはどうすればいいのか、その考えを広めていくことが最善のような気がした。

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2022年02月23日

Posted by ブクログ

YA向けの翻訳本ですが中身はかなりしっかりしています。優生学とその周縁の歴史を網羅しており現代の論点にも広く言及。優生学は形を変えて現代に残り続けていること、そしていつでも危うさをはらんでいるという事実を改めて認識させられました。

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2022年01月15日

Posted by ブクログ

「自分たちと異なる存在」を、「劣ったもの」として捉え排除しようとする、という意思がまず原初にあり、それを「宗教的にではなく」「科学的に」正しいこととして訴える、ということのために、遺伝の仕組みを捻じ曲げて使ったのが、近現代社会における優生学、ということなのだなと改めて思った。
そもそも、遺伝の仕組みを誤って理解していること、社会ダーウィニズム・進歩主義の誤りの部分を目的としていることなど、優生学の考えの誤り、というのはときどき反芻しておきたい。

なお、読書感としては、「教科書だなー」という感じで、ところどころ原著の書き方のせいか翻訳のせいか、すっと入ってこない表現のところもある。ときどきリファレンスすると良いのかなと思う。

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2024年02月04日

Posted by ブクログ

タイトルに笑った。
さすがに無理だろう。参考文献だけで10ページある。原書では大人向けなのに文化も歴史も違う翻訳版でなぜ「14歳」としたのか。
終盤まで延々と100年前の欧米の事例を列挙していて、価値判断は読者に委ねられている。時系列も前後して注意深く追わないと誤解してしまう。
世界的な地理歴史、政治経済の教養がある程度あればとても有益な内容ではあるが、これはいわば歴史の裏の側面であって、「表」の歴史をまだ習っていない(日本の)中学生にはさすがに早い。

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2023年08月09日

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