【感想・ネタバレ】世界市場の形成のレビュー

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Posted by ブクログ

 「世界市場」を考察する意義はどのような点に求められるか。その出発点は、近現代ヨーロッパの史的発展、特に社会経済的発展にとって「世界市場」要因はどれだけの意味をもったか、という設問である。
 単純化すると、第一の立場は、「世界市場」要因は本質的意味を持たなかったというもの、第二の立場は、ヨーロッパの発展は大きく「世界市場」要因に依存しており、イギリス産業革命などもこれがなければ相当遅れたに違いないとする。
 このような基本的考え方の対立について、本書では実証的、数量的裏打ちに基づく検討が行われる。この点が本書の大きな特徴であり、素晴らしい成果だと思われる。
 
 まず第一章では、従属理論、世界システム論と、それに対する批判を取り上げ、対立点所在のポイントを明らかにした上で、以降の具体的史実の考察に入っていく。
 
 第二章では、世界市場形成の過程、特にイギリスを中心に、17〜18世紀における「世界市場」が形成されていく様相を、貿易関係統計を駆使して具体的に論じていく。 
 その際、著者は次のような指摘をする、「消費の多様化、日常生活の質的向上がヨーロッパの広い社会層に及んでいったこと、それがヨーロッパ内部市場の持続的拡大・深化に結びついて経済活動に新しい地平を開き、経済の活性化を支える要因となったこと、このようなヨーロッパ市場の展開があってはじめて、その見返りとしてヨーロッパ製品の輸出市場も外部に開拓されえたこと、これらすべてによって追加される経済的機会が初期の資本蓄積に貢献したこと、などの側面を見落としてはならないとする(184頁)。このような輸入先導型世界市場の展開が、ヨーロッパの資本主義発展に「決定的」役割を果たしたかどうかについては著者は禁欲的だが、見落としてはならない点だろうと思われる。

 本章では、プランテーションと奴隷貿易に関する考察が興味深かった。特に、プランテーション開発が既存社会に打撃を与え、その中に近代植民地的体質を次々と持ち込んで、既存社会とは異なる新しい社会的現実を作り出すとの指摘は(319頁)、今日も残る重い問題である。

 
 17世紀から18世紀にかけて環大西洋的規模において世界市場が形成され、18世紀後半から19世紀前半、アジア・オーストラリアへまで拡大していく過程について、
第三章では、各地域の比重の変化、輸出入額の成長率、主要品目の変動等をデータを基に考察していく。
 なお、この第三章の統計分析については、感想を書いている筆者の乏しい能力では全く歯が立たず、文意を追っただけになってしまったのが悲しいところである。

 気になった指摘、考察は以下のとおり。

 世界市場は、世界のどの国の誰でもが自由に参入できる均質・透明なものではなく、商業・保険・運輸・コミュニケーションなどの特定の技術的発達に裏打ちされ、旺盛な企業心に人間関係・情報システム・言語・慣習などが結びついた、歴史的・文化的総体をなす現象であった(428頁)。このため世界各地域と世界市場との結びつきも決して一様ではなく、現在にまで尾を引く様々な矛盾や問題に繋がっている、とされる。


 実証的な議論というのはこのようにするものなのかという点でも非常に勉強になったし、何より著者の問題関心をクリアな形で論述してくれているのが、一般読者にとっては理解しやすく、とても助けられた。

 

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2021年05月09日

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