あらすじ
魔界と化した「豊穣の海」の真実
海には陸とはまったく異なる社会があり、陸のルールは海では通用しない。そんな「無法の大洋」では、密漁や乱獲、不法投棄のほか、奴隷労働、人身売買、虐待、殺人といった犯罪行為が長年にわたって放置されてきた。本書は、決して一般の人の目に触れることのない、領海外で横行する違法・脱法行為の驚くべき実態を詳細に描いたノンフィクションである。
わたしたちが普段口にしている海産物は、店頭に並んでいる近海物の鮮魚や干物だけではない。冷凍品や缶詰といった水産加工品の原材料の多くは、グローバル化した巨大産業である国際漁業の現場からもたらされている。そして、そのかなりの部分が、目を背けたくなるような過酷な労働や乱獲などによる生態系の破壊によって得られたものだということが、本書にはこれでもかというほど描かれている。日本の消費者が好む海の幸には目に見えないコストがかかっているという「不都合な真実」を突きつけているのだ。
独立を宣言した海上要塞、公海上で行われる人工妊娠中絶、借金のかたに取られた船を回収するレポマンの活動など、知られざる海の実態を克明に描いた『NYタイムズ』ベストセラー。
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Posted by ブクログ
陸上での生活と違い、海上はまるで何世紀も前の奴隷のような暮らしを強いられている。しかも現在進行形で…。船員は乗船する時点でパスポートと携帯を没収され、社会から完全に隔離されてしまう。もし全船員がスマホを所持することができて、問題があれば写真や動画をインターネット上に即座にアップロードし、被害者の声を世界中に届けることができるなら、どれほど多くの人々が救われるだろうか。
そして政府は他国から航海中の船の査察が求められると、その船が籍を置く国の登録局が即座に船籍を剥奪し、問題に対して無関係を決め込む。旗国は管理監督を行わず、金さえ払えば船籍登録を受け入れる。金儲けしか考えていない腐った人間のなんと多いこと。
最終章で述べられる日本の捕鯨船についても結局は同じで、日本政府が年間予算を組み、調査名目として膨大な金額が捕鯨のために使われている。政府役人も予算が減らされないよう必死になるし、あまりにも多くの人間が関与して甘い蜜を吸っているため、日本から捕鯨を無くすことは無理だろうと思う。
シーシェパードやグリーンピースの実績はたしかに感心する部分もあるが、彼らが日頃から追いかけ回している悪人たちと同じことをしているではないかと疑問に思う部分もある。
なぜ陸と違って海上では不条理が続くのだろうか。なぜ人間を奴隷のように扱い、自由を剥奪して命を弄ぶことが許されるのか。なぜ殺人鬼は捕まらず、無法地帯と化しているのか。考えるほど暗く悲しくなってしまう。