【感想・ネタバレ】堕ちた山脈のレビュー

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Posted by ブクログ

「森村誠一」の山岳ミステリ短篇集『堕ちた山脈(『失われた岩壁』を改題)』を読みました。

『雪煙』に続き「森村誠一」作品です。

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正月休みで賑わう北アルプスを猛烈な低気圧が襲い、山岳遭難史上、未曾有の大量遭難者を出した。
そんな中、悪天候を生き抜き無事生還した二つのパーティーがあったが…(表題作)。
自らも山に登り青春を謳歌した著者が、アルプス連峰や中津渓谷などを舞台に描いた珠玉の山岳ミステリー短篇集。
表題作のほか、『失われた岩壁』 『虚偽の雪渓』 『憎悪渓谷』 『犯意の落丁』を収録。
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「森村誠一」選による山岳ミステリ集で、大自然を背景に展開する人間の虚飾と愛憎のドラマを描いた以下の五篇が収録されています。

 ■堕ちた山脈
 ■虚偽の雪渓
 ■失われた岩壁
 ■憎悪渓谷
 ■犯意の落丁
 ■あとがき
 ■解説 文芸評論家・なりたもりまさ

『堕ちた山脈』は、ヒマラヤ体験もある熟練クライマー揃いのパーティが軽装備で登山して遭難しかかるが、重装備ながら悪天候にうまく対応できない未熟な大学生パーティをしたたかに丸め込んで生還を図る物語、、、

生死がかかると醜さを露呈する人間の本質が鋭くえぐりだされていましたね… また、マスコミが作り上げる美談の陰に潜む真実も、テーマになっており、現代にも通じる内容でしたね。


『虚偽の雪渓』は、山男に犯罪者はいるはずがないというロマンティックな盲点をついて企てられた殺人事件が描かれた物語、、、

登山中に山小屋で殺害された男性… 容疑者は三人の山男、山男に犯罪者はいないという幻想と、犯人が山男社会の幻想が捜査陣などの部外者にも通用すると思い込んだ幻想、二重の幻想を愚かにも信じ込み、結局は、その幻想によって破滅してしまう展開がうまく描かれていましたね。


『失われた岩壁』は、三人の悪人が北アルプスの夏山登山の最盛期に巨大山荘の売上金を強奪して、ろくに経験もないのに難しい岩壁を降りて逃亡しようとする物語、、、

チームワークを必要とするときに、メンバーの中にエゴイズムや疑心暗鬼が芽生えると、山の厳しさには立ち向かえないですよねぇ… 大金を背負って雪渓を滑り降りてきて、あっさりと殺害されてしまった山荘の主人の無防備さにも、山男は善人だという思い込みへの批判的なメッセージが込められていましたね。


『憎悪渓谷』は、松本からバスで3時間もかかる山奥の温泉宿にアルバイトに行った大学生が殺人事件に巻き込まれ、犯人を推理する物語、、、

紅葉がどんなに美しくても、男女が集まるところには爽やかでなく、美しくないものが生まれるものですね… 閉ざされた環境に置かれた、小集団の若者の愛憎が描かれた作品でした。


『犯意の落丁』は、突然アパートから姿を消し、奥多摩山中で死体となって発見された女性の謎を異母妹の主人公が追う物語、、、

男女のめぐり逢いを一つのモチーフにして、男女が生涯においてめぐり逢うべき只一人の相手というのがテーマになっていましたね… めぐり逢ったと思っていた相手が、相手にとってはそうではなかったことを思い知らされますが、その失意と曲折のなかで運命的な本当のめぐり逢いが用意されており、他の作品と違い、ほっとさせられるエンディングでした。


五篇の作品に共通するテーマは解説にもあったとおり、、、

「山も俗界の延長に過ぎず、山男は善人が多いと言われるが、
 地上の標高を少し高くした場所にきたからと言って、
 人間が皆、成人君主になるなどということはない。
 山に登る人たちも、同じ人間であり、
 人間的葛藤の舞台が山に移されるだけで、
 そこに蠢く野心や欲望は地上にいるときと変わるはずもない」

ということなんでしょうね。

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2023年02月14日

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