あらすじ
新保吉伸氏を取り上げたNHK「プロフェッショナル仕事の流儀」(2019年5月8日オンエア)は驚くほどの視聴率をたたき出したという。肉の職業について多くを語るのはどこかタブー視されてきたわが国で、滋賀県草津市に店をもつ精肉店主人が、なぜここまで注目されているのか。
新保氏を有名にしたのは「熟成肉」だ。「牛を育てるのが生産者の仕事なら、『肉を作る』のが僕の仕事だと思っています。人の口まで運ぼうと思えば、新しい命を吹き込んであげないといけない」と語り、自分の仕事は「肉を作る」ことだとも言う。新保氏が「手当て」する肉は、A5ランクの牛肉ではない。むしろA2やA3などの和牛、乳牛、経産牛など。おいし過ぎない肉、新しい価値観を生み出すポテンシャルが高い肉ばかりである。さらには放牧で育つ北海道のジビーフ、岡山の吉田牧場のブラウンスイス牛、阿蘇の東海大学のあか牛など。
畜産の現場とも通じ、東西の実力派シェフが圧倒的な信頼を寄せる、孤高の精肉師が、その独自の視点から肉をめぐる真実と考え方、仕事の哲学、輸入解禁へと動き出す肉マーケットの未来などを縦横無尽に語り、綴る。新保に魅せられたシェフのコメント、そしてタベアルキストとして絶大な支持を誇るマッキー牧元氏による「サカエヤの秘密」特別寄稿&巻末対談も収録。
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Posted by ブクログ
「ステーキレボリューション」という映画を観たあとの影響で、新保さんの本も読んでみたけど、映画で一貫して訴えていたメッセージとはまた視点が異なっていて、個人的にもこの業界についての知識が全くない分、めちゃくちゃ面白かった。さっそく、明日サカエヤさんと取引をしているお店に出向いて、新保さんの手によって熟成させた経産牛の味を堪能してみたいと思う。
以下、興味深かったところメモ
・日本の肉が美味しくなくなったのは、真空パックで包装する技術が発達して、流通するようになったから
・真空パックで流通するようになったのは、日本の衛生面での意識レベルの高さが招いた弊害が大きい
・アメリカやオーストラリアからの輸入牛は、その肉の品質そのものよりも、真空パックの性能が違う。アメリカ産の肉質はよかったけれど、真空パックが緩く、旨み成分が漏れ逃げることが多い。オーストラリア産は、肉質は今ひとつだけど、真空パックがしっかりしている。
・一頭の枝肉をそのまま仕入れる場合、部位によってそれぞれ値付けを変えて、トータルで利益を確保する。
・仕入れ値は競りによって毎回異なるのに、売値は同じにしなければいけないから、工夫をしないとすぐに赤字になってしまう。だから、多くの業者は手を出さない。
・フランスは、各部位を巧みに各部位を使い分ける。ハムやソーセージ、パテやテリーヌと使いにくい部位も有効活用している。
・日本の精肉店のシャルキュトリーは、コロッケとメンチカツくらい。頑張ってるとこは惣菜とか弁当とか飲食店も営んで余剰部位をなるべく使い切る。
・いまの精肉店は、自動車業界やケータイのキャリア業界と同じで、益々窮地に立たされている。代理店とメーカーがぶつかるので、代理店がどんどん減っていく。
・ドライエイジングだけが熟成ではない。
・牛の健康状態は、肉だけ見ても専門家ですら分からない。その牛が健康かどうかは、肉だけでなく内蔵を実際に触る必要がある。肉でわかるのは瑕疵くらい。
・そして、肉と内蔵は流通がちがうので、同じ牛のそれを一緒に見て検討することができない。
・お金の価値がなくならない限り、肉と内蔵が一緒に流通することは難しい。
・サカエヤでは、食肉センターで仕分けをしている後輩がいるので、彼に聞いて、どの内蔵がどこの誰の牛なのか全て把握している。たとえば、金曜日に食肉処理をすると、その内臓牛の肉は月曜日の競りに出る。
・肉の美味しさは保存で決まる。魚も野菜も同じ。保存の意識が低い店で美味しい料理はない。