鶴見太郎のレビュー一覧
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3,000年にわたるユダヤ人の通史。ローマ帝国やオスマン帝国、ロシア帝国、イギリス帝国など歴史の強者に翻弄されてきた歴史がよくわかる。
ホロコーストは必ずしもナチス・ドイツによるものだけではなかったこと、当たり前のことながらユダヤ人は必ずしも一枚岩ではないこと、アメリカとイスラエルは当初から蜜月ではなかったことなど新たに気付かされることも多い。
そして最も印象に残ったのは同化の難しさだ。為政者が融和的であっても市井では不満が歪みとしてたまり民族対立に至ることもあるし、融和が進むかと思うタイミングで民族主義が過激化することもある。歴史はどうやら融和と対立のグラデーションを行ったり来たりするよ -
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ネタバレ自分の無知を改めて認識させてくれる、まさに読書の醍醐味のような本。これほどの研究内容が新書で読めてしまってよいのかと思うほど。
神話時代のユダヤ教の成立からいかにしてシオニズム(これもひとくくりにできないが)が形成されていったか、が活写されており、さらに途中で世界史のダイナミックなイベントが頻繁に入るので、ものすごく勉強になる。
著者はユダヤ(これに限らずと思うが)の在り方を「主体と構造」の関わりから一貫してとらえる。社会の状況を構造とし、ユダヤはその構造に合わせる形で主体や思想を様々に変化させながら適応してきた、という意味らしい。
明確な領土を持たないがゆえに、構造に合わせながらアイデンテ -
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なかなか読み応えがある新書で、途中から国家とか民族という概念を考えさせられた。
イスラエル建国は西欧キリスト教社会の免罪符でもあり、厄介払いの側面もあるという指摘はなるほどだ。しかも欧州から見れば『遅れている』アジアに建国され、痛みを直接感じるものでもなかった。
現在のイスラエルの国家体制は、エスニック・デモクラシーというよりも、エスノクラシー(特定の民族による独裁体制)という意見を紹介している。ユダヤ人の文化が自生するためには、人口的な多数派の国家が必要で、多少の民主主義の制限は仕方ないと考えているのが、基底にあるらしい。
著者は、ヒステリックにも見えるイスラエルのナショナリズムを『犠牲者意 -
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同じ著者の近著、シオニズムを理解するための、ロングレンジでの歴史的背景がおよそ理解できた。近著にも書かれていた部分もあったが、ユダヤ人が東欧を中心とする世界に分散(ディアスポラ)していった過程が理解できたし、既にアラブ人が住んでいるパレスチナに国を作った過程、その国が先住民と敵対する理由も知った。ホロコーストだけでなく、東欧でのポグロムが、建国だけでなく現在にも影を落としているという指摘は、納得できた。ユダヤ人は居住国の法の下で自分たちの法に従って代を重ねてきたというところは、この宗教の強さを感じた。アメリカは今やイスラエルに次ぐユダヤ人の居住国であるが、ユダヤ教がカスタマイズされてきていると
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本書は歴史的にあまり着目されてこなかったロシア・シオニズムの成り立ちと特質に光を当てるものだが、その焦点は西欧・アメリカ・更には現代イスラエルにまで届く骨太な論考だった。
主な個人的発見としては以下。
・ナリョナリズムの大家や社会学者にユダヤ人が多いこと。これは間接的にユダヤ人のアイデンティティが影響しているものと推察できる。
・シオニズムはむしろディアスポラの中で他民族と対等にふるまいたいための手段と捉えられている向きが強く、パレスチナに行くことが全てではない
・ヨーロッパの東西、政治・社会・文化に対する捉え方の違いから、シオニストと言っても多数の派閥が存在していた
読みながらアリソンの「 -
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2025年のサントリー学芸賞。まず、なんと丁寧で誠実な本なのだろう、と思った。先行研究のリサーチと参考文献・論文の読み込みの深さが尋常じゃない。それが素人でもわかるほど、隙のない本だった。しかも、それでいて読みにくくなく、分かりやすすぎない、絶妙なバランスに仕上がっていて、これは新書の中の新書である、と言って良いのではないか。パレスチナとイスラエル、ロシアとウクライナ、イランとアメリカ。現在進行形で行われている国際紛争の根っこにある問題の一端が掴めた、ような気がする。が、まだ一端である。そして、心に残った一節はこちらです。
差別とは、必ずしも蔑むことだけを意味するのではない。あるカテゴリの人 -
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イエス生誕前まで「神の国」の担い手はユダヤ人であり、律法だった、しかしイエス以降、人類は律法に変わって、福音(イエスやその使徒たちの教え)より導かれることになる。そして週末と最後の審判を経て「神の国」が到来する、と、
アウグスティヌス(4世紀5世紀活躍した古代、キリスト教最大の教父)が、神の国の歴史観の中で、キリスト教とユダヤ教の関連を書いている。ユダヤ人はイエスを殺しメシアであると信じなかったために、ローマ人に苦しめられることになったが、一方で世界中に拡散して、ユダヤの教典(聖書)によりメシアなるものがあり得ることがキリスト教徒の捏造ではないことを証言してくれるのがユダヤ人と言う考えのもと、 -
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「全史」と銘打った、ウクライナの歴史に纏わる本で、「上巻」の続きとなる「下巻」である。
「ウクライナの歴史」を古い時代から説き起こし、この上巻では20世紀初め頃に至る迄が綴られた「上巻」に対し、この「下巻」はそれ以降なので、扱われている期間は短い。しかしながら、本のボリュームは上下共に似たような分量になっている。
「下巻」については、20世紀初め頃の革命や内戦という様相から、戦間期や第2次大戦の頃、その後の様々なこと、更に「ウクライナ」の独立、最近の情勢と、非常に密度が濃い感じに纏まっている。概ね2020年頃迄の事柄が綴られる。
「下巻」の末尾には、「上巻」の部分も含めて、ウクライナの歴史に纏 -
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古い時代から最近に至る迄の経過、挿話を扱う「全史」ということで綴られた本の「上巻」である。
「ウクライナの歴史」を古い時代から説き起こし、この上巻では20世紀初め頃に至る迄の事柄が綴られる。
本書はソ連産れで、ウクライナで学位を得て研究教育活動に従事し、現在は米国で活動している「ウクライナ史」研究者が綴ったモノということになる。
本書は物語風で読み易くなっているとも思う。かなり古い時代から、興味深い挿話が積み重ねられていると思う。注釈を参照するような面倒な感じでもなく、「ウクライナ史」というようなモノになじみが薄い人達でも普通にさっと読めるような体裁に美味く纏められている。
本書を読んでいて、 -
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- 歴史の「歪み」と、寄せ集めの民の重力を見つめる
中公新書から2025年に刊行された鶴見太郎氏の著書。
ユダヤ人の通史だが、著者の筆致は客観性に徹している。ラビン暗殺といった歴史的悲劇すら淡々と、簡潔に記述していく姿勢が、歴史の逃れられない冷徹さを際立たせている。
関心を惹かれたのは、生存戦略としての「法(テキスト)」の扱いだ。
申命記にある「外国人からは利息を取ってもよい」という神の言葉の解釈。この宗教的根拠が、彼らに金融という独自の活路をもたらした。一方で、この仕組みが為政者との便宜的な関係を生むと同時に、庶民の怨嗟を買い、外部社会との間に決定的な「金利の歪み」を定着させた。この構造 -
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私のユダヤに関する知識が不足しているが故に、十分に消化出来なかった。長いユダヤ教、ユダヤ人が辿った歴史を丁寧に論ずる学術色が強い本である。古来よりいくつかの派閥があったこと。ニューヨークに住んでいるとき、異様に見える服装、姿からハシディズムは最右翼的な存在かと思っていたが、そうでもないらしい。ホロコースト、ポグロム。ドイツよりも東欧の被害者が圧倒的であること。ロシア・ユダヤ人が多くイスラエルに渡り影響を与えていること、ゼレンスキーはユダヤ系であること、など色々知らないことばかりである。たぶん三分の一も消化出来ていない。他の本も読んで深めたいと思う。
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ユダヤ人の歴史を、単なる「犠牲者」や「富豪」といった断片的なイメージではなく、生存戦略の積み重ねとして捉える視点は非常に鋭く、また現代を生きる私たちにとっても深い示唆に富んでいる。
宿命を「生存戦略」に変えた民族の足跡
ユダヤ人の歴史を紐解くと、そこには「国を持たない」という圧倒的な不安定さの中で、いかにしてアイデンティティを守り抜くかという、壮絶な生存のドラマが見えてくる。
私たちが当たり前としている「法律」は、本来は国家という枠組みがあって成立するものです。しかし、国を持たない彼らにとって、法とは物理法則のようにどこへ行っても変わらない「戒律」であり、生き残るための「合理的な知恵」