藤枝静男のレビュー一覧
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ホナミといふむすめ
作家の藤枝静夫の芥川賞候補作「痩我慢の説」の漫画化(そのときに受賞したのは石原慎太郎の「太陽の季節」)。
原作付きだけど、多分にこの漫画家の作家性が出てをり、作者の脚色は効果を挙げて、藤枝静夫の幻想性がまざった独特の味となってゐる。
第一にホナミといふ姪が天真爛漫、魅力的で、印象が際立つ。なんだか憎めないあかるさだ。加へて藤枝静夫とおぼしい人物とその妻の偏屈さが、これからの時代性を示唆して悪くない。
あとがきで作者が藤枝静夫の作品を紹介してゐて、そのなかに大江健三郎の『取り替え子』のはなしが出てくる。私は好感をいだいた。次作が気になる漫画家だと感じた。 -
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【田紳有楽】
骨董屋の部屋を訪れた男が、自己流処世術を語り庭の池に飛び込むところから物語は始まる。
男は池に沈められている朝鮮生まれの抹茶茶碗の柿の蔕(ヘタ)。地下水脈を通って出歩いたり人に化けたりしている。
池の中には偽物陶器たちが埋められ、五十六億年後の弥勒説法の成仏永世を得るまでなんとかうまいことやりたいなあなどと思っている。
志野筒型グイ呑みは色気漂う金魚のC子との間に生命を超えた情欲を持ち卵を産卵させ、
モンゴルから来た丼鉢の丹波は触手を出して空を飛んだり柿の蔕と出し抜きあったり。
こんな物資を所有する人間たちだってただもんじゃない。自称『永生の運命を担ってこの世に出生し、釈迦の遺 -
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☆4.5 法螺も法螺、大法螺吹きの大大ペテン師
先刻承知のうへで読んでみたが、やはり噂に違はぬトンデモ小説で、突き抜けてゐる。ドグラ・マグラよりすごい。阿呆を超えて、糞真面目な馬鹿をやってゐる。金魚と陶器の恋もあれば、陶器が人間に変身する魔法もある。チベットの鳥葬の身の上話に飛んだかと思ふと、阿闍梨ケ池の主の正体の話になり、便所にもぐったり唐突すぎて笑ってしまった。主人公が転換する構成がうまく、莫迦莫迦しくて笑けてくる。ただし、自然の情景描写は至極退屈である。
谷崎潤一郎賞を受賞した。谷崎は「ハッサン・カンの妖術」などの幻想小説を書いたので、ふさはしい受賞だと思った。 -
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「一家団欒」「悲しいだけ」が一番すき。欣求浄土の方はまだ若干自嘲気味というか、笑えるところもあったけど(ポルノ映画のくだりとかとにかくスケベなことばっか考えてるのとか)、悲しいだけはマジで悲しいだけだな…
一見だらりとした文章かと思いきや無駄がなく整っている感じ、清潔な古民家みたい。
年老いて死が見えてくる様子を、だんだんふわふわしてくる、みたいに言っていたのがめちゃくちゃ印象的だった。その感じ私知ってる、と思った。積極的選択ではないけれどじわじわと死んでゆく感じ、今まで言語化できなかったけど確かにこれなんだよな。
藤枝静男、『田紳有楽・空気頭』しか読んでないのだけれどなんだかよく分からないの -
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私小説を書く作家だけど、すごぐ変な本ですよ、と教えてもらって勢いで購入した本。
田紳有楽は、冒頭、話の脈絡がまったくつかめなくて、???の連続。
難しそうな本だと構えて読み始めたのに、これはSFか、ファンタジーなのか、おもしろいではないか!と新鮮だった。
部屋に戻るといきなり白シャツを着た男がいて、ひとしきり講釈をたれたら、池にボチャンと飛び込んでしまったりする。あと出目金と器の間に子どもが産まれたりもする。なんじゃそりゃ。
なんだかリズムが楽しくなる文章で、音読してみたくなるところあり。
空気頭は、転じてまさに、現実。なのにどことなく靄がかった世界の話のような気もしてしまうのはなんで -
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ネタバレまさか藤枝氏の作品が新刊で書店に並ぶとは思っていなかった。
発売したというだけで、ただただ嬉しい。
内容は主に回顧録となっていて少年期から本多、平野両氏との出会い、そして小説家として(なんとか)確立するまでが描かれている。
この回顧録は掲載された文芸誌や時期が様々なので重複している箇所も所々ある。
しかし藤枝氏の経歴をこの様に俯瞰して見たことがなかったので大変面白かった。
後半になると趣味の骨董や韓国旅行記が描かれている。
このあたりから過去の思い出話ではなく現在の藤枝氏が現在感じるものをありのままに書く私小説になっていく。
特に骨董話は読んでいて退屈した。
品物の描写が仔細にわたるものの