宮本太郎のレビュー一覧
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アンダークラスとは、不安定な雇用、際立つ低賃金、結婚・家族形成の困難という特徴を持つ一群であり、従来の労働者階級とも異質なひとつの下層階級を構成する社会階層である。
(引用)アンダークラス化する若者たち ー生活保障をどう立て直すか、編著者:宮本みち子・佐藤洋作・宮本太郎、発行所:株式会社明石書店、2021年、15
我が国は、少子高齢化が叫ばれて久しい。内閣府の「少子化対策白書」による「令和2年度 少子化の状況及び少子化への対処施策の概況」によれば、2019年の出生数は、86万5,234人となり、過去最小(「86万ショック」)となった。また、同年の合計特殊出生率は、1.36と、前年より0.06ポイント低下している。さらに、2021年6月4日、厚生労働省が発表した2020年の人口動態統計調査によると、合計特殊出生率は1.34と、前年より0.02ポイント低下したことが明らかとなった。少子化対策白書では、少子化対策による重点課題として、まず真っ先に待機児童解消などの「子育て支援施策の一層の充実」を掲げる。次に、若者の雇用安定など「結婚・出産の希望が実現できる環境の整備」としている。
少子化の根本的な原因はどこにあるのか。男性の育児参加や待機児童をなくすことも勿論、大切なことであろう。また、昨今の新型コロナウイルス感染拡大の影響により、結婚が疎遠がちになりつつあることも拍車をかけているのだろう。しかし、最大の要因は、多くの若者たちが将来に希望を持てず、家庭や子どもを持つことを諦めてしまっているのではないかと思う。それは、私が2009年に「子ども・若者育成推進法」が成立した背景に興味を持っているからだ。
「なぜ、国は、子ども・若者の支援に力を入れるのか。」
「いま、子どもや若者たちに何が起きているのか。」
その真意を確かめるべく、私は、「アンダークラス化する若者たち(明石書店、2021年)」を読み始めた。
まず、「アンダークラス」という言葉が存在することに驚いた。アンダークラスとは、生活水準が下級階層であることを指す。子供の貧困が増大している背景には、家族の崩壊、親の長期の失業、一人親(特に母子家庭)の増加などがある。その結果、不登校や高校中退といった早期の学習機会が奪われ、就労に至らないケースが増加する。我が国では、雇用によって成り立っていた若者の生活が保障できなくなっている。それとあわせて、国家による古い生活保障制度が若者たちを排除することが浮かび上がってくる。
本書では、アンダークラス化が進む若者たちに、様々な観点から厳しい現実を突きつける。
では、現代を生きる若者たちに”救いの手”はあるのだろうか。悲観論が続くが、その中においても私が本書で見出した”希望”を3点述べたい。
1点目は、「つなぐ」ということだ。
「コミュニティー・オーガナイジング」という言葉がある。若者支援は、行政、民間事業所、地域、家庭などが関わってくる。その際、縦割り行政では、制度のはざまで生きる子どもたちに、支援の手が及ばない。まず、地域社会の資源を結集した「コミュニティ・オーガナイジング」というアプローチにより、各支援者を「つなぐ」ことが必要だと感じた。そのために、私はまず、子どもの抱えている”異常”は、学校で把握するなどの対策も必要ではと感じじている。そして、学校で把握した要支援の子どもたちは、福祉へと引き継がれる体制づくりが急務である。
また、若者を切れ目なく支援機関につなげる回路も必要だということを理解した。学校からの情報がサポステなどの若者支援機関に届くことは少ないため、来所者の捕捉率は低いという。その中で、高知県の「若者はばたけネット」に希望を見出した。高知県では、中学卒業時及び高校中退時の進路未定者をサポステにつなげ、就学や就労に向けた支援を行うことでひきこもりやニートにならないように予防している。各機関が連携をし、情報を「つなぐ」ことで、若者支援に対して強力なものになる。
2点目は、「生活保障を立て直す」ことだ。
我が国の社会保障制度は、一定期間の拠出履歴を前提とした失業保険に基づく社会保険が中心であることが前提となる。社会保険であることから、非正規雇用などの雇用歴が不安定になりがちな若者にとって、失業給付からの脱落に直結してしまう。そのほか、最後のセーフティネットと言われる生活保護においても、審査基準が厳しいと言われている。これらの古い社会保障制度からの脱却が問われる。本書の最後で、宮本太郎氏は、「若者にベーシックアセット」を提唱している。アセットとは、ひとかたまりの有益な資源であり、資源として重要になるのは、支援サービス、現金給付、そして帰属先のコミュニティであるとしている(本書、292)。本書では、ベーシックアセットについて詳述されていないが、宮本太郎氏は、「貧困・介護・育児の政治 ベーシックアセットの福祉国家へ(朝日選書、2021年)」を上梓されている。今後、読んで理解を深めたいと思った。
3点目は、まだ私たちの周りに「奉仕する心」、「福祉の心」を持ったかたがいることだ。
まず、各自治体では、再優先課題として、子ども・若者支援対策に取り組むべきではなかろうか。少子化の時代、一人ひとりの貴重な子ども・若者たちが希望を持てるまちづくりを進める必要があると感じた。
その上で、本書では、「静岡方式」が取り上げられている。静岡の取り組みは、国家、企業、家族でない第四の拠り所として「地域」を位置づけ、これを足がかりにして、若者のライフチャンスを高めようという取り組みである(本書、130)。静岡の事例を見ると、支援される側には、多様なサポーター(ボランティア)が登場する。NPO法人青少年就労支援ネットワーク静岡の取り組みは、地域全般の雇用のありようを変え、地域の「包摂力」をあげることに成功している。この地域の「包摂力」をあげることは、今後のまちづくりにおける根幹となるべき要素ではないだろうか。そのまちには、多様なサポーターたちの「奉仕する心」や「福祉の心」によって支えられていることが必須条件となる。そして、幸いにも、私達の周りには、特に国が危機的な状況(例えば大規模震災時など)に襲われたときに感じるのだが、そのような方が多く存在する。
アンダークラスの若者たちは、何も好んで、そうなった訳ではない。多くは、大人の理由によることも多い。
「人間」は「人間」でしか助けられない。
そのため、いま、私たちは、それぞれ”今いる場所”で、アンダークラス化する若者たちに寄り添い、結びつき、支援をしていく責務があるのだと感じた。それがひいては、少子化を克服する一つの処方箋にもなるし、自分たちのまちを持続可能なものにしていくことだろうと思った。 -
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[ 内容 ]
日本型生活保障のしくみが解体する中、足元が崩れるような不安が広がり、社会保障や雇用は政治的争点の中心にせりあがっている。
にもかかわらず日本政治は、「構造改革」の徹底にも大胆な格差是正にも踏み出せない、膠着状況にある。
このような状況は、なぜ、どのようにして生み出されたのか。
社会保障や雇用をめぐる政治すなわち福祉政治は、何をなしうるのか。
本書は、福祉国家の構造を示す福祉レジーム論や「劇場政治」のしかけに迫る言説政治論などを駆使して、今日の福祉政治を立体的にとらえる。
そして、こうした新しい視点から、戦後日本の福祉政治の展開を解き明かし、膠着状況を超える展望を示す。
[ 目次 ]
序章 日本の福祉政治―なぜ問題か、どう論じるか
第1章 福祉レジームと雇用レジーム
第2章 福祉政治をどうとらえるか
第3章 一九六〇・七〇年代の福祉政治―雇用レジームと福祉レジームの形成と連携
第4章 一九八〇年代の福祉政治―福祉レジームの削減と雇用レジームの擁護
第5章 一九九〇年代後半以降の福祉政治―雇用レジームの解体と福祉レジームの再編
終章 ライフ・ポリティクスの可能性―分断の政治を超えて
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ] -
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これからの社会民主主義がどのような普遍主義を実現するのか、人々に何を保障していくことを目指すのかと考えたとき、「ベーシックアセット」は有力な回答の一つとなる。
(引用)貧困・介護・育児の政治 ベーシックアセットの福祉国家へ、著者:宮本太郎、発行所:朝日新聞出版、2021年、299
我が国においては、多様な福祉課題が存在する。その中においても、「貧困」「介護」「育児」といった3つの課題は、我が国において喫緊であり、最重要の課題として位置付けられるものであろう。
先日、「アンダークラス化する若者たち(明石出版、2021年)」を拝読した。本書では、主として貧困家庭に育ち、まともな学校教育が受けられず、正規雇用に就くこともできない多くの若者の存在を知った。そこには、満足な収入が得られない中で、「新たな生活困難層」として位置付けられ、従来の家庭・会社・行政という三重構造で成り立っていた社会保障の狭間でもがき苦しむ若者たちの姿があった。「アンダークラス化する若者たち」を編著された宮本太郎氏は、同書の中で、「ベーシックアセット」の必要性を提言していた。
ちなみに、アセットとは、ひとかたまりの有益な資源という意味である。その点では給付も公共サービスもアセットである(本書、22)。
これからの福祉政策は、なぜ、いま、AIの進展により、再び注目されつつあるベーシックインカムでもベーシックサービスでもなくベーシックアセットであるのか。また、ベーシックアセットという考えをどのように福祉政策に取り入れていくのか。その解を得るべく、福祉政治論の第一人者である宮本太郎氏による「貧困・介護・育児の政治(朝日新聞出版社)」を拝読させていただくこととした。
まず感じたことは、福祉政策は政治的影響を受けやすいということだ。
本書では、我が国における、貧困政治、介護政治、育児政治を通して、「社会民主主義」、「経済的自由主義(新自由主義)」、「保守主義」の3つの政治潮流の対抗を明らかにする。
中曽根政権による「増税なき財政再建」や小泉政権による「聖域なき構造改革」において、筆者は、財政的制約を第一条件とする「磁力として」の新自由主義という表現を用いる。この「磁力としての経済的自由主義」は、政治が安定すると復調してくる。この「磁力としての経済的自由主義」では、例えば、介護保険については、低所得層が制度から排除される傾向が強まるなどが発生する。また、小泉政権を引き継いだ麻生政権が自民党政治の揺ぐ中、「例外的状況」として社会民主主義的な提起が制度として実現することとなった。本書では、準市場や社会的投資をとおして、人々を社会参加可能とする最低限のアセットとつなぐ。そして、ポスト「第三の道」として、社会民主主義の再生を試みているところに興味を惹かれた。
政治潮流を背景とし、筆者は、ベーシックインカム、ベーシックサービスの対比を試みながら、ベーシックアセットへの道を提言する。
このベーシックアセットという言葉を聞いて、次の言葉を思い出した。
「Collective Impact」
直訳すれば、「集まることによる力」となる。社会が抱える課題を、行政、企業、NPOなど役割の違う組織が、それぞれの特徴を生かして解決を探る考え方である。
朝日新聞記事では、東京都文京区における児童扶養手当、就学援助を受ける世帯に「こども宅食」を届ける例が紹介されている。1)
私は、「アンダークラス化する若者たち」と「貧困・介護・育児の政治」という一連の福祉政策の書籍からは、何よりも省庁や行政の縦割りの打破と関係機関との連携、そしてその考えを含めたベーシックアセットという考え方が必要であろうと思うに至った。それは、多様な支援機関の資源を活用するとともに、個々のニーズに即した、きめ細やかな施策が可能となることを期待するからだ。
現在、国では、こども庁の創設が進む。
新しく創設されるこども庁が情報を横断的に集約・分析し、強い総合調整機能を持ちながら、アンダークラス化する若者たちに対しての政策を展開してほしいと真に思う。そして、NPOや企業、各自治体とも連携しながら、国民に根差したものにしてほしいと思う。
このことは、各自治体においても、同様のことが言えよう。
コロナ禍において、さらなる分断な社会が進む。「貧困」は、さらなる複雑化・多様化する様相をみせる。政治潮流にも左右されやすい福祉政策であるが、「新たな生活困難層」が置き去りにされないことだけは、強く求められると感じた。例えば、「待機児童の解消」だけでは、少子化対策につながらない。ベーシックアセットという考えを常に意識し、福祉政策を進めるまちには、幸福感が増し、人々が集う。
具体的なベーシックアセットの政策例については、本書においてはあまり触れられていないが、筆者によって、3つの重要性を示している。それらの重要性を考慮しながら、政策を立案していく必要があるのだろうと感じた。
そして、少子高齢化や貧困化が顕在する現代において、新たなまちづくりは、まず、福祉政策の徹底にあるのではないだろうか。そうすることで、私たちのまちは輝きを取り戻し、少子高齢化や貧困といった社会課題の解決の糸口を探すことが可能となる。いま、日本の、そして地域の”福祉力”が何より問われていると強く感じた。
1)朝日新聞、波聞風問「子どもの貧困対策 企業ノウハウ未来への投資」、編集委員:多賀谷克彦、2017年9月19日朝刊 -
Posted by ブクログ
・「例外状況の社会民主主義」
→介護保険導入時、子ども子育て新制度 社会保障の機能強化と消費増税と結びつき 財務省
・「磁力としての新自由主義」
→国と地方の長期債務、有権者・納税者の不信、自治体の制度構造
・「日常的現実としての保守主義」
→十分な公的負担が得られず、結果として家族に頼る以外にない状況
・ベーシックアセット
(貧困)
・日本型生活保障の三重構造の破壊
→行政・会社・家族
・新しい生活困難層⇔福祉受給層
・トリクルダウンは起きない 生産拠点の海外移転、国際金融・知的サービス分野で稼ぐしかない
→二極化
・北欧型の福祉政策は、福祉受給層などにならないための予防的施策 よって、そのまま日本に移行しても機能しない
・日本の新自由主義は、欧米で福祉受給層に就労を迫ったのと違い、給付を単に減額し、対象をさらに絞ることに終始した。
・低い国民負担率なのに重税感が高いのは何故か。①納税者への還元の弱さ、②制度不振の深さと強さ、③税の循環の見えにくさ
・今後の方向性
→①包括的相談支援⇔就学前教育、リカレント
②オーダーメイド型雇用⇔生産性の高い
③補完型所得保障⇔失業期間、再教育期間の保障
(介護)
・ポイント→サービスの多元的な供給体制
・準市場
→政府が費用を負担し、当事者間に交換関係がある
・介護市場において大企業が占める割合は9%に過ぎない。意図的に抑制。市場志向の経済的自由主義が圧倒しているわけでhない。
・ケアマネの中立性も課題→市場の論理に拘束
・準市場の形が家族主義型、保守主義に近づく
→低所得者を排除するような制度改革が進むのであれば、新しい生活困難層が排除
ただし完全に市場志向型にはならない(そもそも儲かる市場ではない)
(育児)
・女性の就労促進と育児の両立支援が重視されているが、日本において女性就業率の上昇が家計収入の安定化や子供の貧困抑制に結びついていない。
→雇用の拡大が雇用の劣化と表裏一体だから
・経済的自由主義は女性の就労支援とあわせて専業主婦の優遇制度を撤廃しようとするが、育児・介護の公的支援は不十分に
・保育サービスのマタイ効果
→中間層の利用率が高く、低所得層は低い
・家族政策の類型
→①両性就労支援型、②一般家族支援型、③市場志向型