この小説は、世界文化社発刊の「家庭画報」に連載されていたが、著者が脳梗塞で倒れ、帰らぬ人となったため、それまで書き溜めていた執筆分を新潮社が受け出版された。
あとがきの妻の河合嘉代子さんによると、「この本の舞台は自身の出身地、兵庫県・丹波篠山です。話はフィクションですが、夫の少年時代のイメージそ
...続きを読むのものと言っていいと思います。夫は両親と大勢の兄弟で過ごした篠山の思い出を大切にしていました」と書いています。
全十二話で構成され、どれもが秀逸です。
主人公の「ハァちゃん」(城山隼雄)は感受性が高く国語と算数が好き、唯一の欠点は、泣き虫である。でもその泣き虫が瑞々しいばかりの清らかな感情表現で、河合隼雄さんの大人目線と、子供時代の目線の表現が素晴らしいのです。
ご自身は、昭和三(一九二八)年生まれなので時代を考慮しなければなりませんが、素朴な疑問に大人である読者も、共感するのではなかろうか。勿論、子供目線で思わなければなりませんが…。
特に第二話 どんぐりころころが好きです。
ハァちゃんは、歌詞を間違って覚えていたのです。その意味を兄さんに教えてもらった時、ハアちゃんは、「どんぐりころころは、家に帰れたんやろか」と心配になってきて、泣いているどんぐりの姿が目に見えるようだった。ハァちゃんはおうちに帰れないどんぐりさんのこと思うだけで、涙が出そうになってくる。「かわいそう」「どんぐりさんはおうちに帰れへんのやで」
城山家のねえや(お手伝さん)は、「そら帰れませんで」(泣)
「せやけどな、どんぐりさんはおうちに帰らんでもええんやで」「どんぐりのさんはな、そこで芽を出して、どんぐりの木になるんや」
ハァちゃんは、段々と話がわかってきたし、もう泣いていなかった。もう晴れやかな顔をしていた。段々大きい木になっていくのが見えるような気がした。(詳細は本書で)
また、岡田知子さんの水彩画の挿絵も素晴らしく心が洗われるようです。僕の子供時代を振り返るのはまだ早いかもしれませんが、何となく懐かしみを覚えました。
読書は楽しい。