武藤浩史のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
NOWHERE↔EREWHON。どこでもない場所をイメージされた題名なのだと思いますが、どこでもない場所の反対語はどこか特定の場所でもあり、その特定の場所として2021年現在の世界が重なりあうことに驚きます。そしてNOWHEREがユートピアさとしたら、その反対はディストピアであり、それは今の社会なのか…1872年出版の本が2020年に翻訳出版されたのは翻訳者の今、再び読まれるべき本としての熱い想いがあったからなのかもしれません。あとがき、ではなく解題、として翻訳者自ら補助線をひいて解き明かすシンギュラリティ、格差社会、宗教の位置づけ、子どもの教育、という現代的テーマの150年前の予言も、このタ
-
Posted by ブクログ
ディストピア小説の源流とされる本の新訳版が出版されたので読んでみた。
ものすごく興味深い本だった。
1872年(明治5年)に書かれた本書は後の多くのユートピア、ディストピア小説の元となった。
オルダス・ハクスリーは、自身のディストピア小説『すばらしい新世界』がこの『エレホン』の影響を受けていることを公式に認めているという。『すばらしき新世界』は 1932年に出版だ。
ちなみにディストピア小説の傑作のひとつであるジョージ・オーウェルの『1984年』は1949年に刊行である。
本書『エレホン』が出版された1872年といえば、この前年の1871年にドストエフスキーの5大傑作長編の一つ『悪霊』が出 -
Posted by ブクログ
1872年に出版されたユートピア・ディストピア小説の新訳版です。
イギリス植民地で羊飼いをする主人公は、文明社会に知られていないエレホン国を発見します。
そこの常識は我々のそれと正反対で、病気は罰せられて犯罪は治療される世界でした。
又、機械を極度に拒絶するのですが、それにはなかなか深い意味があります。
人間は長い時間を掛けて進化してきましたが、機械の進歩・進化は驚異的な速度のために人間を瞬く間に超越して支配するようになると考えられているためなのでした。
未知の病気が流行し感染者は白い目で見られ、AIが人間を凌駕することが現実味を帯びてきた現在、エレホンの思想は決して夢物語ではないように思える -
Posted by ブクログ
老人施設の調査研究を仕事にするフランチェスカ、とその息子で今はカナリア諸島に滞在中のクリストファーという二人の人物を軸にして、二人をめぐる家族、友人、知人が多彩に出入り、交錯する。短い章ごとに視点人物が入れ替わり、それぞれの視点で語られる挿話は、人物の内省やさりげない日常の断片であったり過去の回想であったりと様々だが、ひとまずは老いを主題にしていると言っていいだろう。
とうに七十の坂を越えながら、見知らぬ他人と何時間も一緒に過ごすのが苦痛という理由で、一人プジョーを駆ってイングランド中を駆け巡るフランが出会うのは、老人がその大半。迫りくる死期、弱りつつある身体能力、病からくる痛みと向き合いな