櫻井芳雄のレビュー一覧
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脳は、非常にアナログな動作をする器官である。人の脳には1000億のニューロンがあるといわれている。しかもひとつのニューロンに数千のシナプスがあり、そこでは非常に不安定で確率的な信号伝達が行われている。電気信号を受け取る樹状突起上では信号の逆方向転換が生じ、軸索を覆うミエリンの変化による信号伝達速度の調整が行われている。更にはシナプスを介さない細胞外スペースにおける神経修飾物質なども脳の動作に影響を与えている。
また、脳の機能は部位ごとに局在しているわけではない。同じ行動、記憶、感覚などが常に同じニューロンの発火から生じるわけではなく、同じニューロンが発火しても常に同じ行動、記憶、感覚が生じるわけでもない。こうした仕組みを持つ脳は、AIなどのニューラルネットワークとは根本的に作りが異なる。このような要素を持つ脳はよく間違え、ミスをする。一方、可塑性という大きな特徴を持っており、部分的な損傷を受けても影響を受けなかったり、大きな損傷を受けても回復したりする。
このようなことを知ることができると、安心する。日常生活で私は間違えていることばかりだが、私がポンコツなのではなく、そもそも脳がそのような性質を持っているのだと言い聞かせることができる。また、出来が悪いなりにも努力することにより何とかなるものだとも思えるようになる。生成系AIの時代が到来したが、慌てずに腰を落ち着けてその時代に対応しようという気持ちが湧いてくる。一読してよかったと思える本。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ脳科学の見地から、記憶とは何でどのように作られ、どのように保管されるのかなどを中高生向けに説明した本。エビングハウスの忘却曲線は無意味つづりの暗記について言っているだけで、意味のあることの記憶には当たらないのだとか、脳トレは意味がないことがわかっているだとか、知らなかったことが多かったし、そもそもまだ解明されていないことも多いのだとわかった。場所による記憶が働かないからスマホやタブレットに書くよりは紙に書いたほうが定着することが証明されていること、などは、教育界でもっと喧伝されていい。イギリスのタクシーの運転手は日々道路地図を更新していくから、脳の海馬が発達していたりとか、脳はその後の使い方次第で個性を形作っていくことがわかった。
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Posted by ブクログ
脳は、コンピュータと比べると、不完全で不確かな計算装置であると同時に、極めて複雑で多様な作用を持っている。だから、間違うとともに創造的な閃きを生むし、脳の一部が損傷したり全体が萎縮したりしても機能を代替して通常と同じように機能する柔軟さを持っている。
こうした極めて複雑で多様で可塑性の高い脳について、単独の部位や神経伝達物質や遺伝子が何らかの機能に対応したり何らかの問題の原因として単独犯になるという、わかりやすいが誤った説明が用いられやすいが、複雑な相互作用や柔軟性の仕組みを解き明かした時、初めて脳を解明できたと言えるのであろう。そして、そう言える日はまだまだ遠い。 -
Posted by ブクログ
最近、人工知能についての本を読んでいる。
ニューラル・ネットワークなど、人間の脳がモデルになっているとの説明も見かける。
そこで、人間の脳はどうなのか、気になって併せて読んでみた。
著者はニューロンの働きを調査してきた人とのこと。
40年にわたる研究の成果を、他の研究者の成果も交えながら解説していく。
驚いたのは、人間の脳についての研究は進んだとはいえ、わかっていないことがまだ多いということだ。
同じ刺激を与えても、同じニューロンが反応し、同じ経路をたどって伝わっていくとは限らない。
ニューロン間の伝達は「確率的」なものなのだそうだ。
ニューロンは集団で発火し、リズミカルなゆらぎとして現れる。
そのようにして複雑につながりながら、機能を果たしているということのようだ。
だから、脳の一部分に障害がある人も、回復することがあるし、一方では局所化できないからアルツハイマーや精神病の薬を治療する薬の開発が難しい。
アルツハイマーの治療薬がアメリカで認可されたとかニュースで聞いた気がするが、まだまだそう簡単にはいかないらしい。
面白く思ったのは、脳を研究するほどに、「心」の存在がクローズアップされること。
プラセボ効果は、人間の意志などの「心」が介在することで、脳の働きもそのように制御されて実現する。
本書を読んでいると、人工知能は体を持たず、感覚がないわけだが、心もないということなので、発達するにしても人間の脳とは異なる形になっていくことが思われた。
脳の研究の難しさは、実際の活動に即してデータが取れないことにある。
たしかに生きているヒトの頭蓋骨を開いて測定するわけにはいかない。
研究者は様々な工夫を重ねて現在に至るのだが、一方でさまざまな単純化や迷信も生まれやすい。
本書の最後の方は、世間の脳への「迷信」が取り上げられ、反論されていく。
取り上げられるものに、こんなものがあった。
・右脳と左脳で働きが異なる
・脳に性差がある(男性脳、女性脳)
・脳は10%くらいしか働いていない
・ゲーム脳
・特定の栄養素(カルシウムなど)が不足すると暴力的になる
ああ、どれも聞いたなあ、という内容。
筆者は専門家が知見を単純化して世に広げることの責任を厳しく指摘する。
私たち一般の読者も、リテラシーを高めなくては。 -
Posted by ブクログ
脳はいいかげん?AIが発達すると人間の脳のようになるという神話がある。今のAIは、脳の神経回路を模したニューロネットワークを基盤にしているからと。この本を読むと、脳はデジタル回路でできたニューロネットワークのようではなく、もっともっと複雑で、また解明されていない仕組みでできているという。ニューロンがシナプス結合で信号を次のニューロンにつないでいるが、デジタル回路のように’1’がきたらそれが次に伝わるわけではない。ニューロンが発火するのは確率的だ。それも何も信号が来ていない時でも勝手に発火してるし、信号が来ても発火しないときもある。確実に発火するのはたくさんのニューロンが一斉に発火している同時発火のときだそうだ。だから人間が間違えるのも当たり前だという。コンピュータじゃないんだから。
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Posted by ブクログ
やや専門的すぎ、一般人には理解しにくい箇所があったが、脳がいかにまだ分からないところが多いか、また次のように巷で言われていることが真実でないか、と言うことが知り得た。
具体的で本質的な疑問
・自ら発火できないニューロンがつながりつくられている脳が、どうして自発的に活動できるのか?
・ニューロンは集団が同期発火することで信号を伝えているが、同期させているものは何か?
・脳内の情報はどのような活動や状態で存在しているのか?
・脳の信号伝達に基づく情報処理とは、具体的にどのような活動で行われているか?
など。
認識を新たにしたこと
・'16年の米国の死因第3位は年間25万人の医療ミス(人間は間違える。システムに原因と対策を求めることが必要)
・カフェインは夜間の覚醒度が上がり、作業しているときの注意力と集中力が向上し、作業ミスが減少し、記憶課題の成績が上がり、スポーツなどの有酸素運動の能力も向上する。これらの作用に必要なカフェインの量は50〜150mg(コーヒー1杯か2杯分)程度であり、それ以上増やしてもさらなる効果は期待できない。
また、脳が使えるエネルギー源はブドウ糖であるため、糖類とカフェインの同時摂取が一番効率が良い。
口から摂取され血中に入ったカフェインは脳内に運ばれ、ニューロン間の信号伝達を抑制する物質の作用を遮断し、促進する物質の量を増やすことで、脳の広い範囲を興奮させる。しかしこの興奮作用は、覚醒剤や麻薬ほど強力ではないが、耐性や依存性を生じさせることもある。また大量のカフェイン摂取は、不安、過敏、イライラなどの精神的な緊張を高めることもわかっており、摂取を止めた後の離脱症状として、眠気、意欲減退、注意・集中力の低下、頭痛などが現れることもある。
さらに、一気に大量を摂取すると、急激な血圧上昇や不整脈などが生じ、最悪の場合、死亡することもあるという。欧州食品安全機関(EFSA)によると、無難なカフェイン摂取量は1日当たり400mg未満(コーヒー5杯分ほど)、1回当たり200ミリグラム未満。(個人差あり)
・人間の脳はコンピューターに比べると、その処理能力の観点ではかなり劣る。しかも間違える。ただ間違えることで創造か生まれる。また、一つ一つの能力はコンピューターに劣るとしても、総合力に長ける。
・宇宙に長期滞在した飛行士の脳は、数ヶ月間寝たきりになった時と同じ程度の、脳に萎縮が見られる。ただリハビリにより回復する。
・脳の活動が心を生んでいる。
・偽薬の効果は、パーキンソン病の薬や外科的手術、更に高山病にかかった時の酸素に見せたただの空気でも確認出来ている例がある。
・AIに誤認もあるが、膨大なデータを膨大な計算で処理されている結果の産物であるため、人が追えるものではない。
・特に成長期の子どもは眼球運動がまだ不安定な時期でもあるため、現実の物理法則に反する動きをVRで何度も体験すると、眼球を制御する神経回路に支障をきたす可能性がある。さらに、VRを長時間にわたり経験すると、衝動性を抑える抑制機能が低下し、!Rで見た光景や経験を現実であったかのように混同することも起こるという。
・左脳は言語や論理に関わり、右脳は感性や視空間認識に関わると言われ、各脳を鍛えるビジネスまであるが、そんな単純なものではない。
・前頭葉―高次機能、頭頂葉―空間認知、扁桃体―情動制御というように、特定の脳部位と特定の機能を一対一で対応させることは、単純すぎて信頼性に欠ける。
またどの脳部位に性差があるかについては、研究によって異なっている。
・脳は10%(ものによっては5%とか20%)しか使われていないと言うのも迷信。
・聴覚野や視覚野などの感覚野は、互換性を持つ等、どの部位も様々な機能を持つ多能性を備えている。
・脳のどの部分が活発に働いているか、脳を取り出して明るくハイライトさせるイメージ写真や図があるが、これは加工したもので、実際血流が増えたことが明確に分かるような差違はない。
なるほど。
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Posted by ブクログ
ネタバレ思っていたより専門的な内容の本だった。説明は易しく、脳科学素人でも理解しやすい。脳の正確なしくみはまだまだ解明されていない、というのが筆者の伝えたいことだと感じた。
脳のメカニズムは、現在の科学を持ってしてもほとんど解明されていない。正確無比なコンピュータと異なり、神経回路は確率的なゆらぎをもつ。ゆえに間違い、その間違いが時にひらめきを生む。
特定の部位が特定の機能をもつ、あるいはある脳機能には特定の原因物質が作用しているといった、分類という方法論では脳を正しく理解することは難しい。実際には極めて多様な働きが、多くの部位の相互作用のなかで生まれているのであり、その複雑さを無視して単純に理解しようとすれば、誤った風説を助長しかねない。