櫻井芳雄のレビュー一覧
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脳は、非常にアナログな動作をする器官である。人の脳には1000億のニューロンがあるといわれている。しかもひとつのニューロンに数千のシナプスがあり、そこでは非常に不安定で確率的な信号伝達が行われている。電気信号を受け取る樹状突起上では信号の逆方向転換が生じ、軸索を覆うミエリンの変化による信号伝達速度の調整が行われている。更にはシナプスを介さない細胞外スペースにおける神経修飾物質なども脳の動作に影響を与えている。
また、脳の機能は部位ごとに局在しているわけではない。同じ行動、記憶、感覚などが常に同じニューロンの発火から生じるわけではなく、同じニューロンが発火しても常に同じ行動、記憶、感覚が生じるわ -
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脳は、コンピュータと比べると、不完全で不確かな計算装置であると同時に、極めて複雑で多様な作用を持っている。だから、間違うとともに創造的な閃きを生むし、脳の一部が損傷したり全体が萎縮したりしても機能を代替して通常と同じように機能する柔軟さを持っている。
こうした極めて複雑で多様で可塑性の高い脳について、単独の部位や神経伝達物質や遺伝子が何らかの機能に対応したり何らかの問題の原因として単独犯になるという、わかりやすいが誤った説明が用いられやすいが、複雑な相互作用や柔軟性の仕組みを解き明かした時、初めて脳を解明できたと言えるのであろう。そして、そう言える日はまだまだ遠い。 -
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最近、人工知能についての本を読んでいる。
ニューラル・ネットワークなど、人間の脳がモデルになっているとの説明も見かける。
そこで、人間の脳はどうなのか、気になって併せて読んでみた。
著者はニューロンの働きを調査してきた人とのこと。
40年にわたる研究の成果を、他の研究者の成果も交えながら解説していく。
驚いたのは、人間の脳についての研究は進んだとはいえ、わかっていないことがまだ多いということだ。
同じ刺激を与えても、同じニューロンが反応し、同じ経路をたどって伝わっていくとは限らない。
ニューロン間の伝達は「確率的」なものなのだそうだ。
ニューロンは集団で発火し、リズミカルなゆらぎとして現れ -
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脳はいいかげん?AIが発達すると人間の脳のようになるという神話がある。今のAIは、脳の神経回路を模したニューロネットワークを基盤にしているからと。この本を読むと、脳はデジタル回路でできたニューロネットワークのようではなく、もっともっと複雑で、また解明されていない仕組みでできているという。ニューロンがシナプス結合で信号を次のニューロンにつないでいるが、デジタル回路のように’1’がきたらそれが次に伝わるわけではない。ニューロンが発火するのは確率的だ。それも何も信号が来ていない時でも勝手に発火してるし、信号が来ても発火しないときもある。確実に発火するのはたくさんのニューロンが一斉に発火している同時発
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やや専門的すぎ、一般人には理解しにくい箇所があったが、脳がいかにまだ分からないところが多いか、また次のように巷で言われていることが真実でないか、と言うことが知り得た。
具体的で本質的な疑問
・自ら発火できないニューロンがつながりつくられている脳が、どうして自発的に活動できるのか?
・ニューロンは集団が同期発火することで信号を伝えているが、同期させているものは何か?
・脳内の情報はどのような活動や状態で存在しているのか?
・脳の信号伝達に基づく情報処理とは、具体的にどのような活動で行われているか?
など。
認識を新たにしたこと
・'16年の米国の死因第3位は年間25万人の医療ミス( -
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ネタバレ思っていたより専門的な内容の本だった。説明は易しく、脳科学素人でも理解しやすい。脳の正確なしくみはまだまだ解明されていない、というのが筆者の伝えたいことだと感じた。
脳のメカニズムは、現在の科学を持ってしてもほとんど解明されていない。正確無比なコンピュータと異なり、神経回路は確率的なゆらぎをもつ。ゆえに間違い、その間違いが時にひらめきを生む。
特定の部位が特定の機能をもつ、あるいはある脳機能には特定の原因物質が作用しているといった、分類という方法論では脳を正しく理解することは難しい。実際には極めて多様な働きが、多くの部位の相互作用のなかで生まれているのであり、その複雑さを無視して単純に理解し