小島庸平のレビュー一覧
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ネタバレ新書大賞2022を受賞した非常に評価の高い一冊。営利企業であるサラ金が貧困者のセイフティネットを代替していた「奇妙な事態」の背景を、サラ金の金融技術の革新、業界に関わる人の視点によって解き明かした本であり、サラ金を切り口に日本近代史を切り拓いた本でもある。幸いな事にサラ金に無縁の人生であったが、飽きる事なく興味深く、また、批判的になりがちなテーマを抑制的に中立的に記述されており冷静に読み進められた。サラ金の陰だけでなく光についてもしっかりと理解できた。最後まで読んで気付かされるのは、サラ金は批判の矢面に立たされたが、その背後にいるのは銀行である。この融資の原資は私たちの預金であり、私たちも無関
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消費者に対する金融は大手の金融機関は昔は軽視していたので、信用力のない個人は身内などから入用の時は金銭を調達していた。そして戦後、個人間金融からサラリーマンという安定した月給を稼げる人を対象とした金融サービスが登場することになる。
業者は何を目安に与信を与えたかというと、当時ステータスのあった公団住宅に住んでいるという事実であった。この着眼点は慧眼であると言え、この団地金融から上場企業に勤める会社員、そしてあらゆる層に無担保で貸し付けるサラリーマン金融の発展していく萌芽となっていく。
サラ金業者が伝統的な金融機関とは別に独自の発展をとげられた理由は、外資規制と政府が企業融資を重視したため従 -
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不肖、自慢ではないが20代の頃にがっつりアコムとモビット、銀行カードローンにリボ払いに質入を重用し、口座やカードを凍結されながらも辛々生き延びた体験を持つ私にとって実に思う所のある新書。
オビの問いかけについて、私にとっては紛う事なく「セイフティネット」であったと断言出来る。返済遅れた時の電話は怖かったけど、基本電話が鳴らない私には電話が鳴る事がちょっぴりだけど嬉しかったしまあまあの延滞っぷりだったからそりゃ怒りますよね。あの時に伴走してくれたのは家族でも会社でもなく担当窓口のお兄さんでした。いや、向こうは仕事だから仕方なくかもしれませんが。その節は誠に申し訳ございませんでした…。
内容とし -
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ネタバレ・「サラ金」に代表される消費者金融の歴史を日本の金融史、社会経済史の枠組みの中でわかりやすく解説してくれる良書。サラ金がどのようにして生まれ、成長していったか、そして社会問題化して規制を受け現在の姿になったのかが丁寧に描かれている。
・サラ金についての本というと、被害者の苦しみ、弁護士たちの苦闘、また当事者たちの暴露や悔恨というテーマの本が多いように感じるの。サラ金自身を主体にしたうえで、それを金融史、社会経済史の中に位置づけるという本書の試みは大変興味深く刺激を受けた。
・サラ金がその時代その時代の金融・経済のシステムの外側にいる弱者を「包摂」して取り込む役割を果たしていたという視点は大 -
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第43回サントリー学芸賞受賞作品。そして、日本経済史の若き俊才による傑作。
まずサラ金の歴史を狭い意味でのサラリーマン金融各社の歴史で終わらせず、きちんと戦前期の「素人高利貸」の話から説き起こしている点は素晴らしい。史料的に一番大変な時期だったのではないかと思うが、サラリーマン向けの利殖マニュアル本の類まできちんと追っている。著者が図P-1で示しているように「家計」を預金者という視点からだけではなく、資金の借り手として位置付けることは言うほどに簡単なことではないのである。
また家計=個人として捉えるのではなく、家計内構造をジェンダーの視点からきちんと把握しようとしている点が素晴らしい。家政 -
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ネタバレサラ金の発展と日本社会の変化がとても密接に絡み合っている事実が分かりやすく説明されており、とても面白かった。
昔ほど、親族間の貸出に高い金利を取った!そもそも、親族、同僚間の貸し借りから、個人ローン市場が生まれた!
団地向けのローンは、団地に入るための審査があるから与信判断不要!
学生ローンは、親を担保に取ってるようなものだからOK!
ハンコや免許証、源泉徴収票を持ち歩いている人間は借り慣れているから貸さない!
104の電話番号案内サービスを活用した与信判断!
銀行からの資金調達が可能になるまでの時代背景も、興味深い。
団信の導入による自殺の増加、自殺の強要を2006年まで放置されていた点も -
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1980年代、街を歩いていると必ず「サラ金」が目に止まりました。それは店であったり、看板であったり、吊り広告であったり。また、当時は大量の販促用ポケットティッシュが街頭で配られ、ポケットティッシュはそれだけで十分でした。
サラ金は主に個人への少額の融資を行なってきました。戦前の素人高利貸から質屋、団地金融などを経て変化したサラ金は、経済成長や金融技術革新で躍進。そして、バブル崩壊後、多重債務者や苛烈な取り立てにより社会問題となってゆきます。
本書は1世紀におよぶ「サラ金」の軌跡を追う力作。2021年新書大賞受賞の名に恥じない中公新書の大傑作です。
「本書は、サラ金業者の非人道性を告発・暴露す -
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終章とその直前が素晴らしい。
金銭を借りる需要。
返してくれそうもないところには高い金利で、そうでないところには安い金利で貸す。
ということになるだろうし、金利に制限をつければ、金を借りられなくなる時期が早くなり,そこで自力による社会生活ができなくなる。
それでもなお、足掻きたい向きには、法律の枠から外れた世界で、後一もがきする、ということになる。そこから先は、アンダーグラウンドの世界であり、何がどうなったかは分からないけれども。
単にそれだけのことなのに、利率を何故法規制するのか。
そこらへんのことが、ずっともやもやしていた。
p294で「そもそも新古典派の経済学は、自由であるべき市場に -
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戦前から今日に至るサラ金の歴史の本。
①歴史的変遷
戦前は個人間貸借でも有利子。貧民窟での顔しれた関係での日掛けの貸出や、サラリーマンの副業としての同僚への貸出から始まった。
戦後の中間層の消費意欲向上(三種の神器等)もあり、団地金融が登場。逞しい営業力の反面高コストだった。そして、繁華街で遊ぶサラリーマンのレジャー資金としてサラ金が登場。当時の情意考課で遊ぶ人ほど仕事熱心、出世すると考えられていた。当初は上場企業のサラリーマンのみだったが、規模拡大のため顧客層拡大(勤め先不問、女性も)、無人化やリストラによる人件費削減、現在に至る。
②審査基準・債権保全
・(グラミン銀行…借り手同士 -
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この新書、やさしい語り口でスルスル読めてしまいます。いや、スルスル読めるのはメチャ面白いから。軽妙かつ深遠かつ広汎…この時点ではベストセラーですが、100年後も残る歴史的名著になるのでは、と思いました。100年後「サラ金」という業態が歴史の中にしか存在しくなっても、です。それは,100年後も存在するであろう金融と家計の関係を社会史、ジェンダー、家族の変遷、経済と政治の流れ、テクノロジー、行動経済学、マーケティング、アンダーグラウンドの問題、メディア、あらゆる領域から語ろうとしている本書のスタンスが、研究というものの面白さを体現しているからです。農業経済学を学ぶ学生だった著者がいかにして「サラ金
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一気読み。これは斬新だ。これまでの情緒的で扇動的な「サラ金」本とは一線を画し、ナイーブな「高利貸し」糾弾の枠を鮮やかに踏み越えた、リテール金融における消費者信用の冷静かつ綿密なクロニクル。僕は一応金融業界の端座に身を置く者だが、本書はそういうバックボーンがない人にこそぜひ読んで欲しいと思う。たとえば金融とは縁遠い主婦や学生などの層が読んでも、十分に知的興奮が得られるはずだ。
それはとりもなおさずこの本が消費者金融そのものを扱うのではなく、その興亡の背後事情を詳述することによって社会の構造を時系列的にかつリアルに描きだすことを主眼としている、ということに尽きる。一般にサラ金は、のっぴきなら