藤野裕子のレビュー一覧
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明治から大正にかけての「民衆暴力」を、そのタイトル通り”民衆”の側の事情を掘り下げて書いた一冊。
おしなべて言うと…この国の動きは意外と「普通の人」が決めているんだなあ、と。それは悪い意味でも。
書の最初で、江戸時代は「仁政イデオロギー」のもとに動いていた、と解く。
身分に応じた動きをすること前提に、領主には百姓の生業維持を保証する責務が、それを保証する領主に百姓は年貢を納める責務がある、という考え方。
「百姓一揆は筵旗」みたいなイメージがありますが、それも「百姓はこのような格好をする」という前提を崩さずに領主の仁政を乞う、ある種の「お約束」だったらしい。
が、気候変動や世界的な植民主義 -
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民衆による暴力の論理を、代表的な四つの事例を主に検討することで明らかにしている。
気になったのは三点。
一つは、日露戦争の講和条約の発表を受けて、民衆に厭戦感情が働くとともに、講和条約に反対もしていた論理について明らかではないことである。もう戦争をこれ以上続けたくはないが、もっと有利な講和条件が良い、と民衆が感じていたということか。
二つ目は、男性労働者の粗暴な振る舞いを、落伍者意識や挫折感の表れではなく、独自の男らしさの文化の表れとみなしている点である。当時の男性労働者は、自身が社会的に見れば下であることは十分承知しており、その上でそうではないように金を気前よく振る舞ったりしたのではな -
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新書として読みやすいだけでなく、「歴史を通して思考を深められる本」であり、手軽に読めるため良い。ある程度近代史を知っていると読みやすい本。
近代国家における「暴力」と民衆による暴力の2つの視点が基本的に通底した観点と解釈した。
世直し一揆から関東大震災の朝鮮人虐殺までの民衆暴力を扱う。
民衆暴力が単に「怖い」「暴力はいけない」という観点で見るのではなく、抑圧された苦しい現状からの解放願望と同時に差別する対象を徹底的に排除して痛めつけたい(これも二面性がある)という欲望が同居していることなど、様々な面において複層性があることを丁寧にかつ分かりやすく描いている。
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民衆暴力、とはいうものの、初めの江戸時代末期のものはあまり暴力という感じは受けなかった。
一揆、その後の暴動、事件、そして関東大震災の時の朝鮮人虐殺に至るまでを解説。その時々の人々の息づかいが聞こえてくるような調査研究で、どのような事件が起きたのか、感じることができる。
巻末のあとがきに筆者が書いているように、大学生にも読めるように、という配慮からか、読みやすかった。
多数による暴力は今でも起こりうるものであり、自分が加害者になるかもしれないという恐怖も感じた。そうならないように普段から自分の気持ちをよく見ていかなくてはならないと気持ちを引き締めた。 -
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本書は、明治新政府対する新政反対一揆、自由民権運動と連動する形で起きた秩父事件、日清・日露の両戦役を通じた増税や戦死、厭戦気分の元で警察権力に向けられた日比谷焼き討ち事件、関東大震災時の朝鮮人虐殺事件という4つの出来事を軸として、日本近代の一面を描く。権力の横暴に対する必至の抵抗か、それとも鬱屈を他者へぶつけた暴挙なのか。単純には捉えられない民衆暴力を通し、近代化以降の日本の軌跡とともに国家の権力や統治のあり方を照らし出す。著者を突き動かしたものは、歴史修正主義者が行政にまで入り込んでいる事を痛感せざるを得なかった事が大きいとしている。関東大震災の朝鮮人虐殺事件のひとつである亀戸事件について、
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新政反対一揆、秩父事件、日比谷焼き討ち事件、関東大震災時の朝鮮人虐殺を取り上げて日本近代の民衆暴力に迫っている。特に日比谷焼き討ち事件のことはあまり知らなかったので勉強になった。
しかし、実は本書で一番興味深かったのは江戸時代の「仁政イデオロギー」だ。領主が仁政を施して領民(農民)の生活を保障するのに対して領民は年貢をきちんと納める、という支配の正統化イデオロギーである。
これが成り立っていた頃の百姓一揆は農民であることを示すべく鍬や鎌を掲げつつ、非暴力で要求を主張したという。領主もいきなり弾圧するのは仁政ではないので話し合いに応じたという。言ってみれば、「日本版ノーブレスオブリージュ」み -
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近代の民衆暴力ということで、明治初期の新政反対一揆、1884年の秩父事件、1905年の日比谷焼き打ち事件、1923年の関東大震災時の朝鮮人虐殺を取り上げている。朝鮮人虐殺に関する知識を深めるために読んだこともあってかもしれないけど、何やら他の3つの事象に比べて性質が違うような気がした。紙幅の割き方も大きく、むしろ朝鮮人虐殺のことで一冊できるような気もしたけど。
選んだからかもしれないけど、時代を追うにしたがって無秩序になっていく感じがする。序章では江戸時代の百姓一揆の流儀についても書かれているんだけど、意外と秩序だったパフォーマンス的なものだったのに。人々が権力に虐げられたり権力が強いる理不尽