石川美子のレビュー一覧
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「作者の死」を言った人、くらいの認識しかなかったバルトの全体像を初めて読んだ。何よりも面白かったのは、バルト自身が、誰よりも「作者」であることにこだわって、作者の言葉を大事にした人であったということがよく分かる伝記だったことだ。作家や哲学者、評論家といった文章を書いた人たちを理解するのに、有名な文言や本だけを切り抜くことが、いかに間違っているかを、つくづく感じた読書だった。
特に一番印象的だったのは、やっぱり第四章のII節に出てくる「作者の回帰」の部分。読者の読みを重視して、テクスト論を唱えた印象とは異なり、バルト自身は、生身の「作者」の存在と大切にする人だった。
「「テクスト」の快楽は、 -
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権威が嫌い。また、日本との出会いがいかに重要であったか。繊細な人物である印象を受けた。
・バルトは作品への向き合い方には三つの方法があると語る。読書と文学の科学と批評である。読書は作品を愛し、作品を欲することであり、作品以外の言葉で作品を語るのを拒むこと。文学の科学とは、作品のひとつの意味ではなく、意味の複数性自体を対象とする。批評はひとつの意味を生み出し、その責任を引き受ける。批評をするとは作品ではなく自分自身の言語を欲すること。
・「話し言葉は威嚇である」
・威圧的なただひとつの意味に抵抗するための新しい方法。意味の複数性とは異なるもう一つの可能性、すなわち(俳句にあるような)意味の -
Posted by ブクログ
ロラン・バルトの生涯と思想について解説している評伝です。
バルトの生い立ちから、記号学への傾倒へと向かったバルトの修業時代につづいて、日本の俳句に「意味の複数性」ではなく「意味の中断」を見いだし、彼の思索が新たな表現を獲得したことが論じられています。さらに晩年の彼が手掛けようとしていた小説「新たな生」についても、コレージュ・ド・フランスの講義録を参照しながら紹介をおこなっています。
ときおりバルトの解説書のなかに、バルトのスタイルに感染したような文章でつづられたものを目にすることがあるのですが、本書は入門書にふさわしいスタイルで書かれており、バルトの仕事について一通りのことを知るためには有