髙森美由紀のレビュー一覧
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青森県南部地方に江戸時代から伝わる刺し子の技法「菱刺し」。その菱刺しに魅せられた人たちを描く群像劇。全4章。
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物語の柱になるのは2つ。主要人物たちにとって心の糧となる菱刺しと、その技法を手ほどきするより子先生です。
菱刺しは、その地味ながら美しい紋様や彩りで、現代でも愛好家がいるほどですが、元は江戸時代に貧しい庶民たちによって考案された、実用第一の生活の知恵でした。
綿の栽培が思うに任せない本州最北県の青森。麻の衣類で長く厳しい冬を乗りきるためには保温性を高める必要があります。
目の粗い布地の隙間を麻糸で埋め縫いすることによって、風を通さず、体温も逃さず、さらに着物の強度も増すという一石三鳥の技法。それが菱刺しです。本当にすごい知恵だと思います。
でも菱刺しのいいところは、「誰でもできる」という点にあるのではないでしょうか。
多少の修練は必要だけれど、複雑な手技がいるわけではないし、しくじってもそこからやり直せばいい。だから時間と根気さえあれば仕上げることができるのです。
何より意匠が形になっていく喜びや達成感は心を豊かにしてくれます。ひと刺しは小さくても菱刺しによって得られるものがどれだけ大きいかは、本作を通してよくわかりました。
将来について希望も展望もない女子高生、認知症を発症した母親への対応に悩む女性、恋人を事故で亡くした青年など、自己の無力感に苦しむ人たちを支え救った物語には、説得力があり感動を覚えます。
そして工房の主宰でもあるより子さん。
彼女の持つ菱刺しの技術は優れたものであるけれど、より子さんは誇ることも衒うこともしません。ただにこやかに輪の中にいざなってくれるのです。
「好きでやってることだすけな、仲間っこが来てければ嬉しいよ」
気持ちに余裕をなくした人に対してもゆったり穏やかに接する姿が印象的でした。
その他にも、心に残るより子さんのことばがあります。
「ぼちぼちがちょンどいいね、ぼちぼちは自分の速さだ。我は好きだよ」
「なあに、頑張りは人と比べるもんでねえよ」
より子さんにそっと背中を押され、針を持ち布地に向かう人たち。気づくと、ただひたすら布の目を数え、針を刺し模様を作ることに熱中している。
そしてそうするうちに、心の中が整理され落ち着いてくる。まるで魔法にかかったかのように。
より子さんがひとりで息を引き取った場面は悲しかったけれど、その後の、魔法使いの弟子たちが自らの足で立っていくラストシーンは、まったく感涙ものでした。
各章の主人公に合わせて文体を変えたり、青森弁を効果的に盛り込むなど、高森さんの構成の妙にも感心するばかりです。
初読みの作家さんですが、ファンになりました。 -
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何も実りが無いと、諦めていた主人公が犬のちゃっけとの交流で少しずつ変わっていく話。
もうこれはある意味、現代社会問題も大きく関わっていて(と個人的にはそう思う)、他人事とは思えない人もたくさんいそう。
基本、ちゃっけとのやり取りが可愛くて癒される。
実も少しずつ変わっていくのが分かる。
分かりやすく食べる物が変わっていって「生きる為に食べるってこういう事なのかも。」って読んでて思った。
利用者さんたちとのやり取りも、ちゃっけや本を通して交流するシーンもあり良かった。
それでいて読んでて、所々苦しいところもあった。
母親との電話や、利用者や館長とのやり取りが辛辣な気がして。
自分ではどうする事も出来ないことってたくさんあるし。
でも、実自身が変わって、態度や感じ方が変わっていって母親の態度も柔和になっていく過程は少しずつだが安心できた。
同僚の佐藤さんと和田さん。
和田さん癒し。周りを見てフォローを入れてくれたり、方言?が可愛い。
個人的には佐藤さんみたいなタイプは苦手だな。笑
でも最後にはカッコいいところを見せてくれたし、状況も変えてくれるかも!って思わせてくれた。 -
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家庭環境、進路、婚活。人にはそれぞれの事情があります。
悲しい時でもお腹は空くし、それが切なさを募らせたりする。
そんな人たちが中津川沿のお弁当屋さん「大盛弁当」にやって来ます。
店長は、黒柴犬の『こげ』クン、雄、8歳。人間でいうと48歳くらいらしいです。
お弁当を作っているのは大盛成実さんで、日替わり弁当が美味しいです。
高森美由紀さんの小説の登場人物は、等身大というか、地に足がついている感じがして現実味があります。まるでモデルがいて小説に書き写しているような感じがしました。
大きな事件は起こりませんが、人にはそれぞれの考え方や悩みがあるんだなと分かってきます。
美味しそうな日替わり弁当と、イヌとともにいる人たちのお話です。
岩手のサクラはいつ開花かな♡
〔作品紹介〕
「お腹が空いてると悲しみが膨らむからね。
まずは、食べて――」
仕事が得意で料理が苦手な菊池。専業主夫を目指すが婚活全敗中の加賀野。そして、夢を諦めるきっかけとなる言葉を放った恩師と再会した天野――。
カナガシラやドンコのフライ。厚揚げのカックイあんかけ。黒平豆と栗のちまき弁当。
ご当地食材を使用した、日替わり一本勝負の《大盛弁当屋》では、
大盛成実&黒柴・こげ店長が、疲れた皆様の来店を、今日もお待ちしています! -
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川沿いにある『大盛弁当』は、黒柴のこげが名物店長で店主・大盛成実が、美味しい弁当をひとりで作っている。
季節の旬を取り入れたお弁当は、それはほんとうに美味しそうで常連さんが喜ぶのがわかる。
風景描写に季節を感じ、そこに住まう人々の食の楽しみのひとつが、この『大盛弁当』なんだろう。
黒柴・こげがまた愛らしくて、人の心が読めるのか?と思うほどである。
35歳の子ども部屋おばさんだと自負する菊池伊織は、仕事はできるが料理は苦手である。
菊池の部下の加賀野は、自分でお弁当を作るほどだが、専業主夫を目指して婚活中というが全敗中である。
保育士の天野先生は、50歳にして同窓会で恩師と再会し、夢を諦めたことを振り返る。
いろんな常連さんがいて、みんなに何かを抱えているが、黒柴・こげに癒され、美味しいお弁当に気持ちもほっこりとなる。
店主・成実の人柄も両親の食べさせたがりなところが似ているのだろう。
茄子が縁起が良いのは、もの事を『成す』に通じているという。
成実の名前にも『成す』が入っていて、両親の気持ちが沁みた。
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読後感が良い物語。やさしくて強くて爽やか。
個人的には「リラの花咲くけものみち」を読み終えた感覚に近い。(物語自体はまったく違う。)
小田桐実さん、こういう真面目で自分に淡々と向き合ってる人にはなぜかちょっと厄介な人物が近づきがちだから心配だったけど、最終的に本当に悪い人は誰も居ないって感じで安心した。
そして、ちゃっけがとにかく可愛い。仕草や動きなどの描写がリアルで鮮明。著者は犬と暮らしていた経験があるのかな。ちょっと気になってGoogleさんに聞いてみたら、著者の高森美由紀さんと思われる方のX(旧Twitter)がヒットして、そのアイコンがちゃっけみたいな犬だった(笑)いや、ちゃっけみたいなというか、ちゃっけという名前が付いてそうな犬。めちゃ可愛い。ご興味ある方はぜひ検索してみて。
ちゃっけと出会い共に日々を過ごすことで実さんの人生・生活が彩る。でもそれはちゃっけがプレゼントしてくれたとかじゃなくて、すべてに素直で全力で生きてるちゃっけを見て、実さんが自身に向き合い彩りを手に入れていく。小さなことにも喜びを感じ、自分を甘やかすこと、それを喜びと感じることを知る。
良い、とても良い。いい本を読んだなぁ。
P38 「お気に入り登録している狂犬病予防接種会場の犬たちに特化したチャンネル」
→これはたぶんアレだな(笑)わたしもお気に入り登録してる(笑)
P75 “生に前のめり”
→とてもいい表現。まさにって感じ。