山田稔のレビュー一覧
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絡みつくような人間関係がその背景に存在していることを強く匂わせながら、幾つもの小さな物語が、いたって何事もなかったかのように語られて行く。その物語の中心に居るのは「田舎の」人々である。シャルル=ルイ・フィリップの「小さな町で」に登場するそれらの人々を語る時、どうしても括弧つきの「田舎の」人々と形容しなければならない気になる。おそらく自分の偏見が色濃く混じっているのだろうけれど、その「田舎」という言葉には、汗臭くなった同じ服を年がら年中着ているような人々、稼ぎの殆どを飲んでしまうような人々、貧乏なのに子供が大勢いるような家族、などが含まれる。都会に住む人々に比べ、個性の色濃い人物ということになる
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Posted by ブクログ
フランスの中央部に位置する人口二千人足らずの小さな町セリイを舞台に、そこに暮らす市井の人々のつつましやかな日常を、鮮やかに切り取って見せた短編小説集。家族の誕生や死、隣人との小さな諍い、時折起きる事件とも言えぬできごとを、乾いた筆致でさらりとスケッチした独特の作風は、小さなものを愛でる日本人によって殊の外愛され、他国に比べ根強い人気を持つという。映画の原作にもなった『ビュビュ・ド・モンパルナス』の名前だけは知っていたが、フィリップという作家は読んだことがなかった。
ヨーロッパ随一と言われる一万ヘクタールにも及ぶトロンセの森に囲まれた小さな町は木靴職人や家具屋、桶屋という森から取れる良質の木を -
Posted by ブクログ
100年ほど前に書かれた短篇集。
作者のフィリップが生まれたフランス、セリイを舞台にした町の住人たちのお話。
山田稔さんが翻訳をしているから、まるで山田さん自身が書いたようなの作品だった。
訳者解説にこの本について的確な説明があったので抜粋しておく。
《 四百字詰原稿用紙に直してほぼ十枚、このわずかな枚数のうちに人生の断片が、いやときには一つの人生がみごとに描き出されている。これらを読めば、長く書く必要はないことをあらためて反省させられるだろう。
貧困、不幸な恋、病気、老年、死 ──── こうした暗い題材を扱いながらも、フィリップはどこかにとぼけたようなおかしみ、人生そのも -
Posted by ブクログ
柔らかく優しい文章で心に沁みる短編8選です。
著者は元京大教授でフランス文学者です。パリには3度都合3年以上滞在し滞在時の小説(散文)の著書が多く出版されて居ります。
この小説は文章が柔らかく読む者にすっと入って来るギラギラした飾り立てのない簡素で優しい調子が全編共に感じられます。
”残光のなかで”:モンマルトルの墓地にゾラの墓を訪ね守衛に墓の場所を尋ねると彼はバカンスに出ているとの粋な返事に著者は愉快で爽快な気分に浸る。
”メルシー”:コーマルタン街のアパートに滞在している間毎朝フランスパンを近所のパン屋へ買いに出掛けるがそこの女将が馴染み客になっているのに挨拶もしてくれない無愛想さ